[2003年文献] 原因の明らかではないST-T異常は脳卒中発症リスクと関連

原因の明らかではない心電図異常のなかでもっとも多いのがST-T異常であり,とくに軽度のST-T異常は,重度のものにくらべて2倍以上高頻度にみられる。4地域の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究(追跡15.4年間)において, 原因の明らかではないST-T異常と脳卒中発症リスクとの関連を検討した結果,軽度のST-T異常のある男性では,全脳卒中,虚血性脳卒中,出血性脳卒中の発症リスクがいずれも有意に高いことが示され,重度のST-T異常は男女とも全脳卒中発症リスクと有意に関連していた。ST-T異常は長期にわたる高血圧の終末臓器への影響を反映していると考えられることから,男性では,重度のST-T異常はもちろん,軽度のST-T異常がみられた人においても,脳卒中予防のための対策,とくに血圧コントロールを行う必要があると考えられた。

Ohira T, et al. Prospective study of major and minor ST-T abnormalities and risk of stroke among Japanese. Stroke. 2003; 34: e250-3.pubmed

コホート
1975~1986年に循環器健診を受けた40~69歳の一般住民11371人のうち,脳卒中既往のある人(175人),冠動脈疾患既往のある人(62人),心電図データに不備のある120人,重度の心電図異常(Q-QS波異常,完全房室ブロック,完全脚ブロック,心房細動など)を呈する273人を除いた10,741人(男性4205人,女性6536人)(秋田県南秋田郡井川町1997人,高知県(旧)野市町2124人,茨城県(旧)協和町4104人,大阪府八尾市南高安地区2516人)を,1997年まで平均15.4年間追跡。

◇ ST-T異常の定義
  1. 軽度のST-T異常
    軽度のST低下,または軽度のT波異常のいずれかがみられる場合とした。それぞれの定義は以下のとおり。
    • 軽度のST低下(以下のいずれかを満たすもの)
      (1) ミネソタコード4-3~4-4,(2) I,II,aVL,V2~V6のいずれかの誘導において,0.5 mm以上のST-J下降ではないが,ST部分が水平または下向きで,ST部分あるいはT波底部がPR基線より0.25 mm以上,下に位置(改変ミネソタコード4-5)
    • 軽度のT波異常(以下のいずれかを満たすもの)
      (1) ミネソタコード5-3~5-4,(2) T波が陽性で,T波/R波比が1:10未満(その誘導におけるR波高が10.0 mm以上のとき)(改変ミネソタコード5-5)
  2. 重度のST-T異常
    以下のいずれかを満たすもの。
    (1) ミネソタコード4-1~4-2,5-1~5-2,(2) 左室肥大(ミネソタコード3-1,4-1~4-3,5-1~5-3)
高血圧の定義は,収縮期血圧≧160 mmHg,拡張期血圧≧95 mmHg,または降圧薬治療中とした。
結 果
◇ 対象背景
重度のST-T異常の割合は,男性4.2%,女性6.4%であった。
一方,軽度のST-T異常の割合は,男性8.9%,女性17.3%と,女性で男性より2倍以上と有意に高かった(P<0.001)。
重度または軽度のST-T異常がみられる人では,異常のない人にくらべて,血圧,BMI,総コレステロール,高血圧の割合が有意に高かった。

◇ ST-T異常と脳卒中発症リスク
脳卒中の発症は602人。
うち,虚血性脳卒中は339人,出血性脳卒中は209人(うち脳内出血129人,くも膜下出血80人),病型不明の脳卒中は54人であった。

脳卒中発症者と非発症者の背景を比較すると,発症者のほうが血圧,BMI,高血圧有病率,重度の非特異的ST-T異常の割合が高かった。

重度のST-T異常がある人における全脳卒中発症リスクは,男女とも,正常の人にくらべて約2倍(多変量調整後)であった。一方,軽度のST-T異常がある人では,男性においてのみ,正常の人に比した有意な全脳卒中発症リスクの増加がみとめられた。

ST-T異常がある人における脳卒中発症の相対危険度(多変量調整後)は以下のとおりで,軽度ST-T異常のある男性は,正常の人に比して虚血性脳卒中,出血性脳卒中のいずれの発症リスクも有意に高くなっていた。

・ 全脳卒中
  男性: 正常1,軽度ST-T異常1.8(95%信頼区間1.3-2.5),重度ST-T異常2.1(1.4-3.1)
  女性: 1,0.9(0.6-1.2),2.1(1.5-2.8)

・ 虚血性脳卒中
  男性: 1,1.8(1.2-2.7),2.6(1.7-4.1)
  女性: 1,0.7(0.4-1.1),1.4(0.8-2.2)

・ 出血性脳卒中
  男性: 1,2.0(1.1-3.5),1.4(0.6-3.2)
  女性: 1,1.1(0.7-1.8),3.3(2.1-5.3)


◇ 結論
原因の明らかではない心電図異常のなかでもっとも多いのがST-T異常であり,とくに軽度のST-T異常は,重度のものにくらべて2倍以上高頻度にみられる。4地域の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究(追跡15.4年間)において, 原因の明らかではないST-T異常と脳卒中発症リスクとの関連を検討した結果,軽度のST-T異常のある男性では,全脳卒中,虚血性脳卒中,出血性脳卒中の発症リスクがいずれも有意に高いことが示され,重度のST-T異常は男女とも全脳卒中発症リスクと有意に関連していた。ST-T異常は長期にわたる高血圧の終末臓器への影響を反映していると考えられることから,男性では,重度のST-T異常はもちろん,軽度のST-T異常がみられた人においても,脳卒中予防のための対策,とくに血圧コントロールを行う必要があると考えられた。


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