[Editorial View 編集委員が選ぶ注目文献] 野菜や果物を多くとる「質素型」の食事パターンは急性心筋梗塞リスクの低下と関連(INTERHEART)

Dietary patterns and the risk of acute myocardial infarction in 52 countries: results of the INTERHEART study. Circulation. 2008; 118: 1929-37.pubmed

目的
食事は多くの栄養素からなっている。そのなかには予防的なものも有害なものも含まれ,さらに複数の栄養素の相互作用も考えられるなど,特定の栄養素と疾患との関連は非常に複雑である。また,食習慣は世界の各地域で大きく異なっている。そこで,国・文化を問わずに実践できるようなシンプルな食事指導への応用も視野に入れて,複数の食品を含む「食事パターン」に着目し,大規模な国際症例対照研究により急性心筋梗塞(AMI)との関連を検討した。
コホート
INTERHEART (1999年2月〜2003年3月に世界52か国262施設においてAMI発症例12,461人とその対照者14,637人を登録した症例対照研究) 参加者のうち,狭心症,糖尿病,高血圧,高脂血症のいずれの既往もないAMI発症例5,761人および年齢・性別をマッチさせた対照10,646人。

食事パターンの分析には19項目*の食品グループ摂取頻度調査票(qualitative food group frequency questionnaire)を用い,因子分析(バリマックス回転)により以下の3つの食事パターンを見出した。
  「東洋型(Oriental)」 卵,醤油・調味料,漬け物,豆腐・豆乳,緑の野菜の摂取が多く,糖分・シロップの摂取は少ない
  「西洋型(Western)」 卵,肉類,揚げ物,塩分・スナック類,糖分・シロップ,ナッツ類,デザート・菓子類の摂取が多い
  「質素型(prudent)」 乳製品,ナッツ類,緑の野菜,その他の生野菜,フルーツ,デザート・菓子類の摂取が多い
それぞれのパターンについて,各項目の食品の摂取量により,対象者全員を四分位に分けて検討を行った(Q1[摂取量が少ない]〜Q4[摂取量が多い])。

また,食品グループ摂取頻度調査票において,AMIに関連すると考えられる3項目(肉類,塩分・スナック類,揚げ物)および予防的であると考えられる4項目(フルーツ,緑の野菜,その他の生野菜,調理野菜)の摂取量から算出した食事リスクスコア(dietary risk score,高値ほど高リスク)を用いた解析も行った。

* 食品グループ摂取頻度調査票に含まれたのは以下の19項目。
肉類,魚介類,卵,全粒粉穀物,精製穀物,乳製品,揚げ物,醤油・調味料,塩分・スナック類,漬け物,デザート・菓子類,糖分・シロップ,豆腐・豆乳,豆類,ナッツ類,フルーツ,緑の野菜,その他の野菜,調理野菜
結果
◇ 対象背景
・ 東洋型
「東洋型」に含まれる食品の摂取量が多いほど,年齢が高い,男性が少ない,急性心筋梗塞(AMI)患者が少ない,座る仕事をする人が多い,BMIが低い,喫煙率が低いなどの傾向がみとめられた。
・ 西洋型
「西洋型」に含まれる食品の摂取量が多いほど,年齢が低い,男性が多い,AMI患者が多い,活発に動く仕事をする人が多い,喫煙率が高いなどの傾向がみとめられた。
・ 質素型
「質素型」に含まれる食品の摂取量が多いほど,年齢が高い,男性が少ない,AMI患者が少ない,活発に動く仕事をする人が多い,BMIが高い,喫煙率が低いなどの傾向がみとめられた。

◇ 食事パターンとAMI関連バイオマーカー
3つの食事パターン,および食事リスクスコアとAMIに関連する因子との関連を検討した結果は以下のとおり。
・ アポリポ蛋白(apo)B/apo A1比: 「質素型」と有意な正の関連を示し,「東洋型」,食事リスクスコアと有意な負の相関を示した。
・ ヘモグロビンA1c: 「東洋型」「質素型」と有意な正の関連を示し,食事リスクスコアと有意な負の関連を示した。
・ 収縮期血圧: 「質素型」と有意な正の関連を示し,「東洋型」「西洋型」と有意な負の関連を示した。
・ ウエスト/ヒップ比: 食事リスクスコアと有意な正の関連を示し,「東洋型」「西洋型」「質素型」のいずれとも有意な負の相関を示した。

◇ 食事パターンとAMIリスク
・ 東洋型
「東洋型」とAMIのオッズ比との有意な関連はみとめられなかった。 ただし,AMIリスクに対する「東洋型」と「質素型」の有意な相互作用がみとめられた。

・ 西洋型
「西洋型」とAMIのオッズ比はU字型の相関を示した。この結果は多変量調整後も変わらなかった(P<0.001)。
四分位ごとの多変量調整オッズ比は以下のとおり。
   Q1: 1 (対照)
   Q2: 0.87 (95%信頼区間0.78-0.98)
   Q3: 1.12 (1.00-1.25)
   Q4: 1.35 (1.21-1.51)
Q2では多変量調整後に有意なリスク低下がみられた。
Q4におけるリスク増加は,さらに飲酒,心理・社会的因子,apo B/apo A1比で調整しても有意なままだった。

・ 質素型
「質素型」とAMIのオッズ比は有意な負の関連を示した。この結果は多変量調整後も変わらなかった(P<0.001)。
四分位ごとの多変量調整(飲酒,心理・社会的因子,apo B/apo A1比を含む)オッズ比は以下のとおり。
   Q1: 1 (対照)
   Q2: 0.78 (95%信頼区間0.69-0.88)
   Q3: 0.66 (0.59-0.75)
   Q4: 0.70 (0.61-0.80)

◇ 個々の食品とAMIリスク
既存の報告でAMIとの関連が指摘されているいくつかの食品について,AMIリスクとの関連を個別に検討した。
その結果,摂取量とAMIリスクとの有意な正の関連がみとめられたのは揚げ物と塩分・スナック類で,有意な負の関連がみとめられたのは緑の野菜,その他の生野菜,調理野菜,フルーツ。

◇ 食事リスクスコアとAMIリスク
食事リスクスコアはAMIリスクと有意な関連を示しており,この結果は男女別の解析でも同様だった。
食事リスクスコアの人口寄与危険度は30%だった。

◇ 結論
急性心筋梗塞(AMI)発症者と非発症者(対照)を登録した大規模な症例対照研究において,食事パターンとAMIとの関連について検討した。その結果,野菜や果物を多くとる「質素型」の食事パターンはAMIリスク低下と関連していた。「西洋型」はAMIリスクと弱い正の関連を示し,「東洋型」では関連は見られなかった。AMIリスクのうち30%は食事リスクスコアの上昇により説明された。AMIの予防のためには,野菜や果物を多く摂取し,揚げ物や塩分・スナック類は控えることが大切である。

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