[2006年文献] メタボリックシンドロームは慢性腎疾患の有意な危険因子

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,メタボリックシンドロームと慢性腎臓病(CKD)発症リスクとの関連について検討を行った。5年間の追跡の結果,メタボリックシンドロームはCKD発症の有意な危険因子であることが示唆された。

Ninomiya T, et al. Metabolic syndrome and CKD in a general Japanese population: the Hisayama Study.Am J Kidney Dis. 2006; 48: 383-91.pubmed

コホート
1988年に40歳以上だった2736例のうち,空腹時の血液サンプルが得られなかった86例,腹囲未測定の50例,インスリンなどで糖尿病治療中の57例,中~重度慢性腎疾患の324例を除いた上で,1993年まで5年間の追跡を完了した1440例(男性591例,女性849例)。
追跡率は64.9%
結 果
米国コレステロール教育プログラム(NCEP)のメタボリックシンドローム(MetS)の基準は,以下の3つ以上に該当すること: 中心性肥満,高血圧,高トリグリセリド血症,低HDL-C血症および高血糖。
この基準によるMetS患者の割合は24.5%だった。
MetS群で非MetS群より有意に高い値を示したのは,年齢,男性の割合,蛋白尿,降圧薬服用率,糖尿病,血清アルブミン,収縮期および拡張期血圧,腹囲,空腹時血糖,空腹時インスリン,総コレステロール,トリグリセリド,ヘモグロビン。
MetS群で非MetS群より有意に低い値を示したのは,糸球体ろ過値(GFR)およびHDL-C。
MetSおよび非MetS群の臨床背景
MetS 非MetS
人数 (人) 353 1087
年齢 (歳) 60 * 57
男性 (%) 32.9 * 43.7
GFR (mL/min/1.73m2) 73.4 * 75.9
蛋白尿 (%) 7.7 * 4.0
血清アルブミン (g/dL) 4.3 * 4.2
収縮期血圧 (mmHg) 144 * 127
拡張期血圧 (mmHg) 83 * 76
降圧薬服用 (%) 24.1 * 8.8
腹囲 (cm) 88.5 * 79.4
空腹時血糖 (mg/dL) 111.0 * 99.2
糖尿病 (%) 13.9 * 2.7
空腹時血中インスリン (microU/dL) 7.6 * 5.1
総コレステロール (mg/dL) 217.3 * 205.9
トリグリセリド (mg/dL) 166.3 * 87.3
HDL-C (mg/dL) 43.2 * 53.0
ヘモグロビン (g/dL) 14.3 * 13.9
* P<0.01 vs. 非MetS

慢性腎疾患(CKD)を発症したのは88例。
CKDの累積発症率は,非MetS群の4.8%に対し,MetS群では10.6%と有意に高かった(オッズ比2.33,95%信頼区間1.47-3.69,P<0.01)。

MetS診断基準に該当する要素が多いほど,CKDの累積発症率は増加した。
該当要素4以上の例では,1以下の例に比べ,CKD累積発症率が有意に高かった(オッズ比3.43,95%信頼区間1.79-6.58,P<0.01)。
MetS診断基準に該当する要素の数とCKD発症率
MetS診断基準に該当する要素の数
1以下 2 3 4以上
CKD累積発症率 (%) 4.6 5.3 8.6 * 14.8 **
* P<0.05,** P<0.01 vs. 1以下
MetS診断基準に該当する要素とCKDのオッズ比
オッズ比 95%信頼区間
該当要素の数 2 1.13 0.62-2.07
3 1.97 * 1.08-3.58
4 3.43 ** 1.79-6.58
年齢+1 1.09 ** 1.06-1.11
男性 1.36 0.86-2.14
*P<0.05,**P<0.01

CKDの既知の危険因子である糖尿病の影響を除外するため,糖尿病既往のない1362例を対象としてMetSとCKD発症の関係を調べたところ,MetSはCKD発症と有意に相関した(オッズ比1.98,95%信頼区間1.14-3.43,P<0.05)。
MetSとCKDの相関に対する降圧剤治療の影響を調べるため,交絡因子に収縮期血圧を含めたロジスティックモデルで解析を行ったところ,補正後もMetSとCKDは有意に相関した(オッズ比2.09,95%信頼区間1.22-3.58,P<0.01)。この結果は,MetSとCKDとの相関に対し,血圧コントロールが及ぼす影響はわずかであることを示す。

重回帰分析によると,GFR勾配とMetSは,有意な負の相関を示した。
多変量補正後のGFR勾配の平均値は,MetS該当要素が4以上の例で,1以下の例よりも有意に小さくなった。
40~59歳では,MetS該当要素4以上の例で,1以下の例よりもGFR勾配が有意に減少した。一方,60歳以上では,MetS該当要素3および4以上の例で,1以下の例よりもGFR勾配が有意に減少した。


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