[2008年文献] 高感度CRP値は冠動脈疾患,全死亡,心血管疾患死亡,非心血管疾患死亡リスクと関連

日本人一般住民における高感度CRP(hsCRP)値と冠動脈疾患との関連について,14年間の前向きコホート研究により検討した。その結果,hsCRP値は,他の危険因子で調整後も冠動脈疾患発症リスクとの明確で連続的な関連を示しており,0.21 mg/Lという低いレベルからリスクの上昇がみとめられた。日本人において,将来のCHD発症高リスク者のhsCRPのカットオフ値は1.0 mg/Lと考えられ,これは欧米人にくらべてかなり低い値であった。

Arima H, et al. High-sensitivity C-reactive protein and coronary heart disease in a general population of Japanese: the Hisayama study. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2008; 28: 1385-91.pubmed

コホート
久山町の40歳以上の住民2,736人のうち,脳卒中または冠動脈疾患既往のある102人,血液検体中の高感度CRP(hsCRP)の測定が不可能だった45人を除外した2,589人を,1988年12月から2002年11月まで14年間追跡。

冠動脈疾患の定義は,(1)急性心筋梗塞の初発,(2)無症候性心筋梗塞,(3)症状が現れてから1時間以内の心臓突然死,(4)冠動脈バイパス手術または血管形成術をともなう冠動脈疾患,のいずれかとした。

血中hsCRP値により,対象者を以下のように四分位で分けて分析を行った。
   Q1: <0.21 mg/L(648人),Q2: 0.21~0.43 mg/L(647人),Q3: 0.44~1.02 mg/L(645人),Q4: >1.02 mg/L(649人)
結 果
◇ 対象背景
血中の高感度CRP(hsCRP)値の中央値は0.43 mg/L。

hsCRP値と有意な正の関連を示していたのは年齢,血圧,高血圧の割合,糖尿病の割合,腹囲,BMI,総コレステロール,トリグリセリド,LDL-C,メタボリックシンドロームの割合,喫煙率,飲酒率で,有意な負の関連を示していたのは女性の割合およびHDL-C。

◇ hsCRP値と冠動脈疾患(CHD)発症リスク
CHDの発症は129人。

hsCRP値の四分位(Q1~Q4)ごとのCHD発症率(1000人・年あたり,年齢・性別調整)はそれぞれ1.6,3.3,4.5,7.4と,hsCRP値が高いほどCHDの累積発症率が顕著に高くなっていた。

hsCRP値の四分位ごとのCHD発症の多変量調整ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおりで,hsCRP値が高いほどCHDリスクが有意に高くなっていた(P for trend=0.0002)。
   Q1: 1 (対照)
   Q2: 1.60 (0.77-3.31)
   Q3: 1.97 (0.98-3.95)
   Q4: 2.98 (1.53-5.82)

◇ hsCRPと死因別死亡リスク
死亡は545人。
うち心血管疾患(CVD)による死亡は158人,非CVD死亡は387人だった。

全死亡率,CVD死亡率,非CVD死亡率は,それぞれhsCRP値が高いほど上昇していた。
hsCRPの四分位ごとの死因別死亡の多変量調整ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおりで,全死亡リスクはhsCRP値が高いほど有意に上昇していた。
また,CVD死亡,非CVD死亡に分けた解析のいずれについてもhsCRP値との有意な関連がみとめられたが,とくにCVD死亡について強い関連がみとめられた。

 ・ 全死亡 (P for trend<0.0001)
   Q1: 1 (対照)
   Q2: 1.13 (0.84-1.51)
   Q3: 1.41 (1.06-1.87)
   Q4: 1.85 (1.41-2.43)

 ・ CVD死亡 (P for trend<0.0001)
   Q1: 1 (対照)
   Q2: 1.40 (0.75-2.60)
   Q3: 2.28 (1.27-4.09)
   Q4: 3.00 (1.70-5.28)

 ・ 非CVD死亡 (P for trend=0.001)
   Q1: 1 (対照)
   Q2: 1.06 (0.76-1.48)
   Q3: 1.18 (0.85-1.64)
   Q4: 1.56 (1.14-2.13)

◇ 層別化解析
hsCRP値とCHD発症リスクとの関連について,高血圧,糖尿病,肥満,総コレステロール高値,メタボリックシンドローム,喫煙の有無ごとに検討した。その結果,いずれについても,因子の有無によるhsCRP値とCHD発症リスクの関連に異質性はみとめられなかった。


◇ 結論
日本人一般住民における高感度CRP(hsCRP)値と冠動脈疾患との関連について,14年間の前向きコホート研究により検討した。その結果,hsCRP値は,他の危険因子で調整後も冠動脈疾患発症リスクとの明確で連続的な関連を示しており,0.21 mg/Lという低いレベルからリスクの上昇がみとめられた。日本人において,将来のCHD発症高リスク者のhsCRPのカットオフ値は1.0 mg/Lと考えられ,これは欧米人にくらべてかなり低い値であった。


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