[2008年文献] 日本人の空腹時血糖のカットオフ値は米国糖尿病学会の基準よりも低い

1997年,米国糖尿病学会は,糖尿病診断のための空腹時血糖(FPG)のカットオフ値を140 mg/dLから126 mg/dLに引き下げたが,これが負荷後2時間血糖値200 mg/dLに相当する値として適切か,また肥満の少ないアジア人にも適用できるかなどについては,まだ一致した見解が得られていない。そこで,日本人一般住民の1988年と2002年のコホートにおいて,FPGの適切なカットオフ値を求めるとともに,その経時的な変化についても検討を行った。その結果,負荷後2時間血糖値200 mg/dLに相当するFPGのカットオフ値は113 mg/dLで,この値は1988年から2002年にかけて変化していなかった。アジア人の糖尿病診断基準として適切なFPGのカットオフ値は,現在用いられている126 mg/dLよりも低い可能性が示唆された。

Doi Y, et al. Fasting plasma glucose cutoff for diagnosis of diabetes in a Japanese population. J Clin Endocrinol Metab. 2008; 93: 3425-9.pubmed

コホート
久山町研究の1988年コホートおよび2002年コホート(断面解析)。
1988年コホート(第3集団): 1988年に健診を受診した40~79歳の久山町住民2587人のうち,75 g経口ブドウ糖負荷試験のデータに不備がなく,糖尿病の治療を受けていない2421人(男性1045人,女性1376人)。
2002年コホート(第4集団): 2002年に健診を受診した40~79歳の久山町住民3000人のうち,75 g経口ブドウ糖負荷試験のデータに不備がなく,糖尿病の治療を受けていない2698人(男性1162人,女性1536人)。
結 果
◇ 対象背景
1988年コホートと2002年コホートの対象背景は以下のとおりで,2002年コホートにおいて年齢,空腹時血糖値(FPG),負荷後2時間血糖値,BMIが有意に高くなっていた。
   年齢: 1988年コホート 57歳,2002年コホート 59歳 (P<0.001)
   男性の割合: 43.2%,43.1% (P=0.94)
   FPG: 102.6 mg/dL,108.0 mg/dL (P<0.001)
   負荷後2時間血糖値: 131.4 mg/dL,138.6 mg/dL (P<0.001)
   BMI: 23.0 kg/m2,23.3 kg/m2 (P<0.001)

◇ 負荷後2時間血糖値200 mg/dLに相当するFPGカットオフ値の検討
1988年コホートと2002年コホートを合わせて1つのコホートとし,負荷後2時間血糖値とFPGとの関連について複数の回帰モデル(二次モデル,線形モデル,指数モデル,累乗モデル,対数モデル,双曲線モデル)を用いて検討した結果,もっとも適合度が高いのは二次回帰モデルであった。
二次回帰モデルにおいて,負荷後2時間血糖値200 mg/dLに相当するFPGのカットオフ値は113 mg/dLであった。

この結果は,1988年コホートと2002年コホートを分けて解析しても同様であり,負荷後2時間血糖値200 mg/dLに相当するFPGのカットオフ値は,1988年コホートで112 mg/dL,2002年コホートで113 mg/dLであった。

以上の結果を追認するため,ROC(receiver operating characteristic: 受信者動作特性)解析により負荷後2時間血糖値200 mg/dLに相当するFPGのカットオフ値を検討した結果,1988年コホート,2002年コホートのいずれにおいても112 mg/dLとなった(1988年コホート: 感度81.2%,特異度88.7%,ROC曲線下面積91.0%,2002年コホート: 感度77.9%,特異度81.3%,ROC曲線下面積86.7%)。

◇ 層別化解析
1988年コホートと2002年コホートを合わせて1つのコホートとし,負荷後2時間血糖値200 mg/dLに相当するFPGのカットオフ値について,性別,年齢層,BMIによる層別化解析を行った。

・ 性別
二次回帰モデル,ROC解析のいずれにおいても,男性のFPGのカットオフ値は女性にくらべてやや高かった。

・ 年齢層(40~49歳/50~59歳/60~69歳/70~79歳)
二次回帰モデルでは,年齢が低いほどFPGのカットオフ値が高かったが,ROC解析では年齢による差はみられなかった。

・ BMI(<20 kg/m2/20~24.9 kg/m2/25~29.9 kg/m2/≧30 kg/m2
二次回帰モデル,ROC解析のいずれにおいても,BMIが高いほどFPGのカットオフ値が高かった。ただし,BMIが30 kg/m2以上の人であっても,FPGのカットオフ値は,米国糖尿病学会により提唱されている126 mg/dLよりも低かった。


◇ 結論
1997年,米国糖尿病学会は,糖尿病診断のための空腹時血糖(FPG)のカットオフ値を140 mg/dLから126 mg/dLに引き下げたが,これが負荷後2時間血糖値200 mg/dLに相当する値として適切か,また肥満の少ないアジア人にも適用できるかなどについては,まだ一致した見解が得られていない。そこで,日本人一般住民の1988年と2002年のコホートにおいて,FPGの適切なカットオフ値を求めるとともに,その経時的な変化についても検討を行った。その結果,負荷後2時間血糖値200 mg/dLに相当するFPGのカットオフ値は113 mg/dLで,この値は1988年から2002年にかけて変化していなかった。アジア人の糖尿病診断基準として適切なFPGのカットオフ値は,現在用いられている126 mg/dLよりも低い可能性が示唆された。


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