[2008年文献] 1960年からの40年間で,脳梗塞,およびラクナ梗塞の発症率は有意に低下した

40年間にわたる脳梗塞発症率,およびその危険因子の状況の長期的な推移について,日本人一般住民の年代別の4集団において検討した。その結果,長期的にみた脳梗塞の発症率は有意に低下していた。これは血圧コントロール状況の改善によるものと考えられるが,高血圧は依然として脳梗塞の有意な危険因子であり,さらに代謝系危険因子の増加による新たなリスクも懸念される。脳梗塞一次予防のためには,継続して高血圧および代謝異常に注意する必要がある。

Kubo M, et al. Secular trends in the incidence of and risk factors for ischemic stroke and its subtypes in Japanese population. Circulation. 2008; 118: 2672-8.pubmed

コホート
脳卒中または心筋梗塞の既往のない40歳以上の久山町住民からなる年代別の3集団を,おのおの13年間追跡。
第1集団(1961年)は1,618人(男性705人,女性913人),第2集団(1974年)は2,038人(855人,1,183人),第3集団(1988年)は2,637人(1,110人,1,527人)。
危険因子の変化の検討には,第4集団(2002年)の3,123人(1,315人,1,808人)のデータも用いた。

高血圧の定義は,140 / 90 mmHg以上または降圧薬服用とした。
高脂血症の定義は総コレステロール≧220 mg/dLとした。
耐糖能異常は,第1集団では糖尿を呈する人における経口耐糖能試験,第2集団では空腹時および食後の血糖値,第3および第4集団では75 g経口ブドウ糖負荷試験の結果により診断した。
結 果
◇ 危険因子の長期的な推移
男女とも降圧薬服用率の上昇により血圧が低下する一方,耐糖能異常,肥満,高脂血症など代謝系因子が顕著に増加した。
第1~4集団のベースラインにおける危険因子の値は以下のとおり(P値は傾向を表す)。

・ 男性
   年齢(歳): 55,56,57,60 (P<0.001)
   高血圧(%): 38.4,43.1,44.1,42.0 (P=0.25)
   降圧薬服用(%): 2.0,8.4,13.2,18.2 (P<0.001)
   収縮期血圧(mmHg): 162,157,151,148 (P<0.001)
   拡張期血圧(mmHg): 91,90,87,89 (P=0.011)
   耐糖能異常(%): 11.6,14.1,39.3,54.5 (P<0.001)
   肥満(%): 7.0,11.6,24.1,29.3 (P<0.001)
   BMI(kg/m2): 21.3,21.7,22.8,23.5 (P<0.001)
   高脂血症(%): 2.8,12.2,26.9,25.8 (P<0.001)
   総コレステロール(mg/dL): 150.5,181.4,196.9,196.9 (P<0.001)
   心房細動(%): 0.7,1.6,1.6,1.1 (P=0.84)
   喫煙率(%): 75.0,73.3,50.4,46.9 (P<0.001)
   飲酒率(%): 69.6,63.8,61.5,71.7 (P=0.043)

・ 女性
   年齢(歳): 57,58,59,62 (P<0.001)
   高血圧(%): 35.9,40.1,35.1,31.3 (P<0.001)
   降圧薬服用(%): 2.1,7.4,13.4,16.6 (P<0.001)
   収縮期血圧(mmHg): 163,161,154,149 (P<0.001)
   拡張期血圧(mmHg): 88,87,83,86 (P<0.001)
   耐糖能異常(%): 4.8,7.9,30.0,35.5 (P<0.001)
   肥満(%): 12.9,21.5,23.8,24.0 (P<0.001)
   BMI(kg/m2): 21.7,22.5,22.9,22.9 (P<0.001)
   高脂血症(%): 6.6,19.9,41.6,41.6 (P<0.001)
   総コレステロール(mg/dL): 162.1,193.0,212.3,208.4 (P<0.001)
   心房細動(%): 0.5,0.4,0.9,0.6 (P=0.55)
   喫煙率(%): 16.6,10.2,6.9,8.5 (P<0.001)
   飲酒率(%): 8.3,5.7,9.5,29.1 (P<0.001)

◇ 脳梗塞発症率の長期的な推移
第1~3集団にかけ,脳梗塞の発症率は男性で56 %,女性で40 %低下した。ラクナ梗塞の発症率も男女とも有意に低下したが,アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓では有意な変化はみられなかった。
第1~第3集団における脳梗塞および各病型の発症率(1000人・年あたり,年齢調整)の推移は以下のとおり(P値は傾向を表す)。

・ 男性
   脳梗塞: 8.73,5.44,3.85 (P<0.001)
    ラクナ梗塞: 5.68,2.59,1.59 (P<0.001)
    アテローム血栓性脳梗塞: 1.88,1.03,1.23 (P=0.27)
    心原性脳塞栓: 1.08,1.74,1.03 (P=0.43)
    病型不明: 0.09,0.09,0.00 (P=0.20)

・ 女性
   脳梗塞: 4.28,3.06,2.57 (P<0.001)
    ラクナ梗塞: 2.41,1.81,1.50 (P=0.003)
    アテローム血栓性脳梗塞: 0.96,0.61,0.54 (P=0.084)
    心原性脳塞栓: 0.58,0.56,0.53 (P=0.86)
    病型不明: 0.33,0.08,0.00 (P=0.004)

全脳梗塞に占める各病型の割合をみると,男性ではラクナ梗塞の割合が減り,アテローム血栓性脳梗塞および心原性脳塞栓の割合が増加した。
女性では,心原性脳塞栓の割合がわずかに増加していたが,他の病型の割合に大きな変化はみられなかった。

◇ 脳梗塞に対する各危険因子の寄与度の変化
・ 高血圧
第1集団では高血圧を有する人の脳梗塞のハザード比(HR)が3.25(95 %信頼区間2.17-4.86,P<0.001)と高く,その人口寄与危険度割合も51 %と高かった。第2,第3集団にかけて高血圧の寄与度は低下していったが,第3集団においても寄与度のもっとも高い危険因子であることに変わりはなかった(HR 1.83,1.29-2.58,P<0.001,人口寄与危険度割合30 %)。
高血圧を有する人の多変量調整後の脳梗塞のHRは,第1集団の2.92(1.93-4.41)から第3集団の1.71(1.20-2.45)へと低下していた。

・ 耐糖能異常
脳梗塞リスクに対する寄与度は低下。第3集団でも有意な危険因子であった(HR 1.41,1.02-0.94,P=0.036,人口寄与危険度13 %)が,多変量解析を行うと有意差は消失した。

・ 肥満
いずれの集団においても有意な危険因子であったが,多変量解析を行うと有意差は消失した。人口寄与危険度は6 %→9 %と増加した。

・ 高脂血症,喫煙,飲酒
いずれの集団においても有意な危険因子とはならなかった。


◇ 結論
40年間にわたる脳梗塞発症率,およびその危険因子の状況の長期的な推移について,日本人一般住民の年代別の4集団において検討した。その結果,長期的にみた脳梗塞の発症率は有意に低下していた。これは血圧コントロール状況の改善によるものと考えられるが,高血圧は依然として脳梗塞の有意な危険因子であり,さらに代謝系危険因子の増加による新たなリスクも懸念される。脳梗塞一次予防のためには,継続して高血圧および代謝異常に注意する必要がある。


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