[2009年文献] メタボリックシンドロームと糖尿病発症リスクとの関連は,空腹時血糖異常(IFG)とは独立

メタボリックシンドローム(MetS)および空腹時血糖異常(IFG)と2型糖尿病発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究(平均11.8年間追跡)による検討を行った。その結果,MetSの2型糖尿病発症リスクの予測能はIFGにくらべて同等または小さかったものの,MetSが,IFGとは独立して発症リスクと有意に関連していることが示された。この結果から,欧米人にくらべて肥満の少ないアジア人においても,糖尿病リスクを予測するうえでMetSの診断が有用であると考えられる。

Mukai N, et al. Impact of metabolic syndrome compared with impaired fasting glucose on the development of type 2 diabetes in a general Japanese population: the Hisayama study. Diabetes Care. 2009; 32: 2288-93.pubmed

コホート
40~79歳で75 g経口ブドウ糖負荷試験を完了した2480人のうち,糖尿病の297人,腹囲データのない52人,追跡開始前に死亡した2人を除いた2129人(男性894人,女性1235人)を,1988年12月から2002年11月にかけて平均11.8年間追跡(追跡率90.9%)。

メタボリックシンドローム(MetS)の診断には,改変NCEP-ATP III基準を用いた(腹囲のみアジア人向けの基準を採用)。以下のMetS構成因子を3つ以上もつ場合にMetSと診断した。
   腹部肥満: 腹囲が男性90 cm以上,女性80 cm以上
   血圧高値: 130 / 85 mmHg以上,または降圧薬服用
   高トリグリセリド血症: 150 mg/dL以上
   低HDL-C血症: 男性40 mg/dL未満,女性50 mg/dL未満
   空腹時血糖異常(IFG): 空腹時血糖100 mg/dL以上

糖尿病は,2003年米国糖尿病学会の基準に従い,空腹時血糖値126 mg/dL以上,負荷後2時間血糖値200 mg/dL以上もしくは糖尿病治療薬の使用により定義した。
結 果
◇ 対象背景
追跡期間中に糖尿病を発症したのは286人(男性145人,女性141人)。
糖尿病の発症の有無ごとに背景を比較すると,発症者では非発症者にくらべて,ベースライン時の空腹時血糖値,負荷後2時間の血糖値,腹囲,トリグリセリド,血圧,男性の割合,糖尿病家族歴,血圧高値,飲酒率,喫煙率が高く,定期的な運動をしている人の割合およびHDL-Cが低かった。

◇ メタボリックシンドローム(MetS)と糖尿病発症リスク
MetSは,男女ともに糖尿病発症の有意な危険因子であった(非MetSに比した多変量調整後のハザード比: 男性2.58[95%信頼区間1.85-3.59,P<0.001],女性3.69[2.58-5.27,P<0.001])。

5つのMetS構成因子(腹部肥満,血圧高値,高トリグリセリド血症,低HDL-C血症,空腹時血糖異常[IFG])は,男性の低HDL-C血症を除いて,いずれも糖尿病発症リスクと有意に関連しており,なかでもIFGはもっとも強力な予測因子であった(多変量調整後のハザード比: 男性3.76[95%信頼区間2.57-5.52,P<0.001],女性3.50[2.45-5.00,P<0.001])。

◇ MetS,IFGと糖尿病発症リスク
MetSを有する人とIFGを有する人の糖尿病発症の多変量調整ハザード比を比較すると,男性ではIFGのほうがやや高く,女性ではほぼ同等であった。
この結果は,腹部肥満の基準として米国人向けのカットオフ値(男性102 cm超,女性88 cm超)を用いても同様であった。

空腹時血糖正常者,および異常者において,MetS構成因子の数ごとに糖尿病発症リスクを比較した結果,いずれにおいても保有するMetS構成因子の数が多いほど糖尿病発症リスクが高いという有意な関連がみとめられた(いずれもP for trend<0.001)。

さらに,MetSとIFGについてそれぞれ独立に評価するため,診断基準にIFGを含まないMetS(IFGを除く4つのMetS構成因子のうち3つ以上を有する場合にMetSと診断する)とIFGの糖尿病発症ハザード比を比較した。
その結果は以下のとおりで,MetSとIFGをあわせもつ人では糖尿病発症リスクが顕著に高かった。
   非MetS+非IFG: 1 (対照)
   MetS+非IFG: 2.37 (95%信頼区間1.45-3.88,P<0.001)
   非MetS+IFG: 3.49 (2.57-4.74,P<0.0001)
   MetS+IFG: 6.76 (4.75-9.61,P<0.001)

MetSとIFGをあわせもつ人(MetS+IFG)の糖尿病発症リスクは,MetSのみを有する人(MetS+非IFG),IFGのみを有する人(非MetS+IFG)のいずれにくらべても,有意に高かった(いずれもP<0.001)。


◇ 結論
メタボリックシンドローム(MetS)および空腹時血糖異常(IFG)と2型糖尿病発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究(平均11.8年間追跡)による検討を行った。その結果,MetSの2型糖尿病発症リスクの予測能はIFGにくらべて同等または小さかったものの,MetSが,IFGとは独立して発症リスクと有意に関連していることが示された。この結果から,欧米人にくらべて肥満の少ないアジア人においても,糖尿病リスクを予測するうえでMetSの診断が有用であると考えられる。


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