[2011年文献] 糖尿病,食後高血糖は認知症の危険因子

糖尿病と認知症との関連について,これまでの疫学研究では一貫した結果が得られていない。そこで,経口糖負荷試験により診断した耐糖能レベルと,神経画像診断および剖検により診断した認知症とその病型との関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究(平均10.9年間追跡)による検討を行った。その結果,糖尿病は認知症とアルツハイマー病の危険因子であることが示され,脳血管性認知症についても同様と考えられた。また,血糖値のカテゴリーと認知症発症リスクとの関連をみた結果,空腹時血糖値を用いると有意な関連はみとめられなかったが,負荷後2時間血糖値を用いると,認知症,アルツハイマー病,脳血管性認知症のいずれについても有意な正の関連が示された。認知症の予防のためには,食後血糖値のコントロールが重要だと考えられる。

Ohara T, et al. Glucose tolerance status and risk of dementia in the community: the Hisayama study. Neurology. 2011; 77: 1126-34.pubmed

コホート
1988年の健診を受診した60歳以上の1228人(参加率91.1%)のうち,認知症の33人,検査前に朝食をとっていた90人,インスリン治療を受けていた5人,経口糖負荷試験を完了できなかった81人,追跡開始までに死亡した2人を除いた1017人(男性437人,女性580人)を,2003年11月まで15年間追跡した。
平均追跡期間は10.9年。

認知症の診断には,米国精神医学会の『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)を用いた。

耐糖能レベルについては,経口糖負荷試験の結果に基づき,以下のWHOの基準に従って診断した。
   耐糖能正常(NGT): 空腹時血糖値110 mg/dL未満,かつ負荷後2時間血糖値140 mg/dL未満
   空腹時血糖異常(IFG): 空腹時血糖値110 mg/dL以上126 mg/dL未満,かつ負荷後2時間血糖値140 mg/dL未満
   耐糖能異常(IGT): 空腹時血糖値126 mg/dL未満,かつ負荷後2時間血糖値140 mg/dL以上200 mg/dL以下
   糖尿病(DM): 空腹時血糖値126 mg/dL以上,かつ負荷後2時間血糖値200 mg/dL以上

また,空腹時血糖値および負荷後2時間血糖値について,それぞれ以下の4つのカテゴリーを設定した。
   空腹時血糖値: 100 mg/dL未満/100~109 mg/dL/110~125 mg/dL/126 mg/dL以上
   負荷後2時間血糖値: 120 mg/dL未満/120~139 mg/dL以/140~199 mg/dL/200 mg/dL以上
結 果
◇ 対象背景
空腹時血糖異常(IFG),耐糖能異常(IGT),糖尿病(DM)の人では,耐糖能正常(NGT)の人にくらべ,血圧,BMI,ウエスト/ヒップ比,総コレステロール値,高血圧の割合,飲酒率が高かった。

◇ 耐糖能レベルと認知症発症リスク
追跡期間中に認知症を発症したのは232人(男性79人,女性153人)。
このうち,105人がアルツハイマー病,65人が脳血管性認知症,62人がその他の認知症であった。

耐糖能レベルと認知症および各病型の発症のハザード比(性別・年齢で調整)は以下のとおり。
・ 全原因による認知症
DMおよびIGTでは有意なリスク増加がみとめられ,多変量調整を行っても結果は同様であった。IGTとDMをあわせたカテゴリー(IGT+DM)の認知症発症に対する人口寄与危険度割合は14.6%であった。
   NGT: 1 (対照)
   IFG: 0.74 (95%信頼区間0.42-1.31,P=0.70)
   IGT: 1.40 (1.03-1.91,P=0.03)
   DM: 1.71 (1.19-2.44,P=0.003)
   IGT+DM: 1.51 (1.16-1.97,P=0.002)

・ アルツハイマー病
DMにおける有意なリスク増がみとめられ,多変量調整を行っても結果は同様であった。
IGT+DMの認知症発症に対する人口寄与危険度割合は20.1%であった。
   NGT: 1
   IFG: 0.63 (0.25-1.57,P=0.32)
   IGT: 1.46 (0.92-2.30,P=0.11)
   DM: 1.94 (1.16-3.26,P=0.01)
   IGT+DM: 1.62 (1.10-2.40,P=0.02)

・ 脳血管性認知症
DMおよびIGTで有意なリスク増加がみとめられた。しかし,IGT,およびIGT+DMについては,多変量調整を行うと有意差が消失した。
IGT+DMの認知症発症に対する人口寄与危険度割合は17.0%であった。
   NGT: 1
   IFG: 1.40 (0.58-3.41,P=0.46)
   IGT: 1.86 (1.05-3.32,P=0.04)
   DM: 2.07 (1.05-4.09,P=0.04)
   IGT+DM: 1.94 (1.16-3.23,P=0.01)

・ その他の認知症
耐糖能レベルとの有意な関連はみとめられなかった。

◇ 空腹時血糖値と認知症リスク
空腹時血糖値のカテゴリーごとに発症のハザード比(性別・年齢調整)を比較した結果,認知症,アルツハイマー病,脳血管性認知症のいずれについても,空腹時血糖値との有意な関連はみとめられなかった。
この結果は,多変量調整を行っても同様であった。

◇ 負荷後2時間血糖値と認知症リスク
負荷後2時間血糖値のカテゴリーごとに発症のハザード比(性別・年齢調整)を比較した結果,認知症,アルツハイマー病,脳血管性認知症のいずれについても,負荷後2時間血糖値が高くなるほど発症リスクが有意に増加することが示された。この結果は,多変量調整を行っても同様であった。


◇ 結論
糖尿病と認知症との関連について,これまでの疫学研究では一貫した結果が得られていない。そこで,経口糖負荷試験により診断した耐糖能レベルと,神経画像診断および剖検により診断した認知症とその病型との関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究(平均10.9年間追跡)による検討を行った。その結果,糖尿病は認知症とアルツハイマー病の危険因子であることが示され,脳血管性認知症についても同様と考えられた。また,血糖値のカテゴリーと認知症発症リスクとの関連をみた結果,空腹時血糖値を用いると有意な関連はみとめられなかったが,負荷後2時間血糖値を用いると,認知症,アルツハイマー病,脳血管性認知症のいずれについても有意な正の関連が示された。認知症の予防のためには,食後血糖値のコントロールが重要だと考えられる。


▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.