[2013年文献] 血清アンジオポエチン様蛋白2値は慢性腎臓病(CKD)と関連

炎症を促進し,内皮機能障害をもたらすアディポカインであるアンジオポエチン様蛋白2(Angptl2)と腎機能障害との関連について,一般住民を対象に検討したはじめての研究。断面解析において,血清Angptl2値は慢性腎臓病(CKD)のオッズ比と有意に関連しており,この関連は血圧や脂質など種々の心血管疾患危険因子や高感度CRPとは独立していた。またAngptl2は,CKDの診断基準のうち,eGFRよりもアルブミン尿と強く関連することが示された。

Usui T, et al. Angiopoietin-like protein 2 is associated with chronic kidney disease in a general Japanese population. Circ J. 2013; 77: 2311-7.pubmed

コホート
2007年の健診を受診した40歳以上の3384人のうち,研究への同意が得られなかった8人,アンジオポエチン様蛋白2(Angptl2)*の測定が行われなかった144人,尿検体のなかった48人,朝食をすでにとっていた15人を除いた3169人(男性1370人,女性1799人)(断面解析)。

Angptl2の五分位により,全体を以下のカテゴリーに分けて解析を行った。
  Q1: <2.01 ng/mL(631人),Q2: 2.01-2.48 ng/mL(636人),Q3: 2.49-2.99 ng/mL(634人),Q3: 3.00-3.65 ng/mL(634人),Q4: ≧3.66 ng/mL(634人)
*アンジオポエチン様蛋白2(Angptl2): アディポカインの1つ。血管新生を促進するアンジオポエチンに類似した構造をもち,N末端側にcoiled-coilドメイン,C末端にフィブリノゲン様ドメインを有する。ヒトの肥満や炎症に密接に関わっている。

慢性腎臓病の定義は,アルブミン尿(アルブミン/クレアチニン比≧30.0 mg/g)発現または推算糸球体濾過量(eGFR)の低下(60 mL/min/1.73 m2未満)のいずれかを満たすものとした。
結 果
◇ 対象背景
血清アンジオポエチン様蛋白2(Angptl2)*の中央値は,男性2.72 ng/mL(四分位範囲[IQR]2.15-3.48),女性2.73 ng/mL(IQR 2.15-3.46)で,分布も男女で同様であった。

Angptl2値が高いカテゴリーほど有意に高い値を示していたのは,年齢,収縮期および拡張期血圧,HbA1c,HOMA-IR,トリグリセリド,BMI,腹囲,高感度(hs)CRP,降圧薬服用率,高血圧の割合,糖尿病の割合,心血管疾患既往の割合で,Angptl2値が高いカテゴリーほど有意に低い値を示していたのは,HDL-C,喫煙率およびアルコール摂取量。

◇ Angptl2とCKD有病率
CKDの有病率は37.5%だった。
CKD有病率は,Angptl2の値が高いカテゴリーほど有意に高くなっていた(P for trend<0.001)。アルブミン尿の割合(P for trend<0.001),eGFR低下の割合(P for trend=0.001)についても同様であったが,eGFR低下の割合は,Q1からQ2にかけて有意に増加し,Q3以降はあまり増加していなかった。
これらの結果は男女別にみても同様で,性別による有意な異質性はみとめられなかった(P for heterogeneity=0.54)。

◇ Angptl2とCKDリスク
CKDおよびアルブミン尿のオッズ比はAngptl2値が高いカテゴリーほど有意に高くなっており,この結果はhsCRPを含めた多変量調整を行っても同様であった。一方,eGFR低下のオッズ比は,年齢と性で調整したモデルにおいてはAngptl2値が高いカテゴリーほど有意に高くなっていたが,多変量調整を行うと関連は弱くなった。
Angptl2のカテゴリーごとのCKD,アルブミン尿,eGFR低下の多変量調整オッズ比*(OR)は以下のとおり。
*年齢,性別,収縮期血圧,降圧薬服用,HbA1c,HOMA-IR,総コレステロール,HDL-C,トリグリセリド,脂質低下薬服用,BMI,心電図異常,心血管疾患既往,喫煙,アルコール摂取量,hsCRPにより調整

・CKD
[Angptl2<2.01 ng/mL]多変量調整*OR 1.00(対照),[2.01-2.48]1.67(95%信頼区間1.24-2.24),[2.49-2.99]1.70(1.27-2.28),[3.00-3.65]1.78(1.32-2.39),[≧3.66]1.79(1.32-2.43),P for trend=0.001

・アルブミン尿
1.00,1.37(0.98-1.92),1.49(1.07-2.07),1.66(1.19-2.30),1.66(1.18-2.32),P for trend=0.004

・eGFR低下
1.00,1.75(1.19-2.59),1.88(1.29-2.74),1.60(1.09-2.34),1.73(1.17-2.54),P for trend=0.08

Angptl2と,連続変数としてのアルブミン/クレアチニン比,eGFRとの関連を検討すると,Angptl2の値が高いカテゴリーほどアルブミン/クレアチニン比が有意に高くなる傾向がみとめられたが(P for trend=0.001),eGFRでは有意な関連はみとめられなかった(P for trend=0.09)(いずれも多変量調整後)。

これらの結果は,BMIのかわりに腹囲を用いる,あるいはBMIと腹囲の両方を含めることによる感度解析を行ってもほぼ同様であった。


◇ 結論
炎症を促進し,内皮機能障害をもたらすアディポカインであるアンジオポエチン様蛋白2(Angptl2)と腎機能障害との関連について,一般住民を対象に検討したはじめての研究。断面解析において,血清Angptl2値は慢性腎臓病(CKD)のオッズ比と有意に関連しており,この関連は血圧や脂質など種々の心血管疾患危険因子や高感度CRPとは独立していた。またAngptl2は,CKDの診断基準のうち,eGFRよりもアルブミン尿と強く関連することが示された。


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