[2014年文献] 出血部位別にみた脳内出血の長期的推移: 被殻出血は減少,視床出血は増加傾向

長期的な脳内出血の発症率ならびに生存率の推移について,出血部位別に検討を行ったはじめての研究。日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究での検討から,脳内出血の発症率は経時的に(とくに1960~70年代にかけて)大きく低下し,その後は変化していないことが示された。これはおもに血圧コントロール状況の改善によるものと考えられた。脳内出血発症者の5年生存率は,経時的に有意に改善していた。1960年代のコホートでは,脳内出血の強力な危険因子は高血圧および飲酒であったが,時代とともにその影響は小さくなった。発症率の推移を出血部位別にみると,被殻出血の発症率は経時的に低下した一方で,視床出血の発症率は増加傾向であった(とくに高齢者)。以上の結果より,脳内出血の予防のためには,とくに高齢者における厳格な血圧コントロールが引き続き重要であることが示唆された。

Gotoh S, et al. Trends in the Incidence and Survival of Intracerebral Hemorrhage by its Location in a Japanese Community. Circ J. 2014; 78: 403-9.pubmed

コホート
久山町研究の第1~3集団をそれぞれ13年間追跡。
・第1集団:1961年の健診を受診した40歳以上の1658人(受診率90.1%)のうち,脳卒中または心筋梗塞既往のある28人,死亡または町外に転居した12人を除いた1618人(剖検率81.9%)
・第2集団: 1974年の健診を受診した50歳以上の2135人(受診率81.2%)のうち,脳卒中/心筋梗塞既往のある人または死亡/転居した人を除いた2038人(剖検率85.9%)
・第3集団: 1988年の健診を受診した40歳以上の2742人(受診率80.9%)のうち,脳卒中/心筋梗塞既往のある人または死亡/転居した人を除いた2637人(剖検率76.1%)

脳内出血を発症した人は,出血部位により以下のいずれかに分類された。
  被殻出血,視床出血,皮質下部出血,橋出血,小脳出血,その他,不明
結 果
◇ 対象背景
第1,第2,第3集団の対象背景はそれぞれ以下のとおりで,高血圧の割合に変化はなかったが,降圧薬服用率は経時的に増加しており,その結果として高血圧の人の血圧値は有意に低下した。耐糖能異常,高脂血症,および肥満の割合は経時的に増加していた。
  年齢: 56歳,57歳,59歳(P for trend<0.001)
  女性: 56.4%,58.1%,57.9%(P for trend=0.39)
  高血圧: 37.9%,42.7%,41.6%(P for trend=0.42)
  降圧薬服用: 2.2%,8.4%,15.0%(P for trend<0.001)
  高血圧者の収縮期血圧(mmHg): 162.1,160.2,153.3(P for trend<0.001)
  高血圧者の拡張期血圧(mmHg): 89.7,86.2,82.2(P for trend<0.001)
  高脂血症: 5.1%,17.3%,35.9%(P for trend<0.001)
  総コレステロール(mg/dL): 158,189,205(P for trend<0.001)
  耐糖能異常: 8.0%,10.5%,35.2%(P for trend<0.001)
  肥満: 10.5%,16.9%,23.4%(P for trend<0.001)
  BMI(kg/m2): 21.6,22.2,22.8(P for trend<0.001)
  現在飲酒率: 34.9%,30.1%,30.5%(P for trend=0.006)
  現在喫煙率: 42.7%,36.9%,25.0%(P for trend<0.001)

◇ 出血部位別の脳内出血発症率の推移
追跡期間中に脳内出血をはじめて発症したのは,第1集団では43人,第2集団では33人,第3集団では53人であった。
画像診断を実施したのはそれぞれ2%,64%,100%,剖検率は81%,76%,49%。
したがって,このいずれかによる形態学的診断が可能だったのは,それぞれ81%,97%,100%であった。

形態学的診断が可能だった脳内出血発症者に占める各出血部位の割合は以下のとおりで(それぞれ第1,第2,第3集団の値),被殻出血の割合は経時的に低下している一方で,視床出血,皮質下部出血,および橋出血の割合は増加した。
  被殻出血: 74%,44%,24%
  視床出血: 9%,25%,36%
  皮質下部出血: 5%,13%,19%
  橋出血: 3%,6%,11%
  小脳出血: 9%,9%,6%
  その他: 0%,3%,4%

年齢および性別で調整した,出血部位ごとの脳内出血の発症率(1000人・年あたり)の推移は以下のとおりで(それぞれ第1,第2,第3集団の値),全脳内出血発症率は第1~第2集団にかけて低下したがその後は変化しておらず,被殻出血の発症率も同様であった。一方,視床出血の発症率は有意に増加した。
  全脳内出血: 2.03,0.96,1.14(P for trend=0.05)
   被殻出血: 1.17,0.45,0.40(P for trend<0.001)
   視床出血: 0.16,0.23,0.34(P for trend=0.04)
   皮質下部出血: 0.07,0.11,0.15(P for trend=0.18)
   橋出血: 0.08,0.04,0.08(P for trend=0.26)
   小脳出血: 0.16,0.08,0.04(P for trend=0.34)
   その他: 0,0.02,0.12(P for trend=0.28)
   不明: 0.40,0.02,0(P for trend=0.008)

年齢層ごとにみると,全脳内出血の発症率は,80歳未満の年齢層では経時的に低下していたが80歳以上でみると増加していた。被殻出血の発症率は,おもに60歳以上の年齢層で経時的に低下していた。一方,視床出血の発症率は,とくに70歳以上の年齢層で経時的に増加していた。

◇ 出血部位別の脳出血発症者の予後
全脳内出血発症者の5年生存率は,第1集団に比し,第2,および第3集団において有意に改善した(いずれもP<0.05)。
被殻出血,ならびに視床出血についても,同様に,第1集団から第3集団にかけて有意な改善がみられた(いずれもP<0.05)。

◇ 脳内出血の危険因子の変化
第1集団では,脳内出血のもっとも強力な危険因子は高血圧であり(年齢・性別調整ハザード比[HR]9.30,95%信頼区間4.03-21.5),寄与度も大きかった(人口寄与危険度割合75%)。第2・第3集団では高血圧の影響は小さくなったが,第3集団でも高血圧はまだ有意(HR 2.89,1.57-5.33),かつ寄与度のもっとも大きい危険因子だった(人口寄与危険度割合46%)。
飲酒は,第1集団では脳内出血の有意な危険因子であり(HR 2.61,1.13-6.02),人口寄与危険度割合は43%であったが,第2・第3集団では有意な危険因子とはならなかった。


◇ 結論
長期的な脳内出血の発症率ならびに生存率の推移について,出血部位別に検討を行ったはじめての研究。日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究での検討から,脳内出血の発症率は経時的に(とくに1960~70年代にかけて)大きく低下し,その後は変化していないことが示された。これはおもに血圧コントロール状況の改善によるものと考えられた。脳内出血発症者の5年生存率は,経時的に有意に改善していた。1960年代のコホートでは,脳内出血の強力な危険因子は高血圧および飲酒であったが,時代とともにその影響は小さくなった。発症率の推移を出血部位別にみると,被殻出血の発症率は経時的に低下した一方で,視床出血の発症率は増加傾向であった(とくに高齢者)。以上の結果より,脳内出血の予防のためには,とくに高齢者における厳格な血圧コントロールが引き続き重要であることが示唆された。


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