[2017年文献] 認知症とアルツハイマー病の有病率および発症率は経時的に増加したが,5年生存率は改善

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究の参加者を対象に,認知症の有病率,発症率ならびに発症者の5年生存率の長期的な推移を検討した。その結果,認知症およびアルツハイマー病の有病率(年齢調整)は1985年から2012年にかけて大きく増加していた。認知症およびアルツハイマー病の発症率(性・年齢調整)は,1988年コホートにくらべて2002年コホートでは有意に増加していたが,認知症発症者およびアルツハイマー病発症者の5年生存率(性・年齢調整)も,2002年コホートでは有意に改善していた。一方,血管性認知症については,発症率にも発症者の5年生存率にも有意な増加はみられなかった。以上の結果から,高齢化が急速に進む日本において,認知症の病因解明や健康寿命延伸のための対策とあわせて,認知症発症者が暮らしやすいコミュニティや社会システムの構築を進める必要性も示唆された。

Ohara T, et al. Trends in dementia prevalence, incidence, and survival rate in a Japanese community. Neurology. 2017; pubmed

コホート
(1)認知症の有病率調査(断面解析)
久山町研究において,1985年より65歳以上の高齢者を対象に6~7年間隔で実施されている認知機能有病率調査の受診者。
  1985年: 887人(男性353人,女性534人),参加率94.6%
  1992年: 1189人(475人,714人),参加率96.6%
  1998年: 1437人(571人,866人),参加率99.7%
  2005年: 1566人(612人,954人),参加率91.5%
  2012年: 1904人(780人,1124人),参加率93.5%

(2)認知症の発症率および5年生存率の調査(縦断解析)
久山町研究の1988年の健診受診者6097人(1988年コホート),ならびに2002年の健診受診者9383人(2002年コホート)を,それぞれ1998年,2012年まで10年間追跡。
結 果
◇ 対象背景
認知症有病率調査の受診者の年齢は,1985年(74歳)から2012年(76歳)にかけて高くなっていた。

◇ 認知症有病率の推移
認知症,アルツハイマー病,血管性認知症,およびその他の認知症の年齢調整有病率(95%信頼区間)の推移は以下のとおりで,認知症およびアルツハイマー病では,有意に増加する傾向がみとめられた。これらの結果は,男女別にみても同様であった。

[認知症]1985年6.8%(4.8-8.8%),1992年4.6%(3.4-5.8%),1998年5.3%(4.2-6.4%),2005年8.4%(7.1-9.7%),2012年11.3%(10.0-12.7%),P for trend<0.01
[アルツハイマー病]1.5%(0.5-2.5%),1.4%(0.7-2.0%),2.4%(1.7-3.1%),3.9%(3.1-4.8%),7.2%(6.1-8.2%),P for trend<0.01
[血管性認知症]2.4%(1.3-3.5%),1.6%(0.9-2.2%),1.5%(0.8-2.1%),2.4%(1.7-3.2%),2.4%(1.7-3.0%),P for trend=0.59
[その他の認知症]2.9%(2.1-3.7%),1.7%(1.0-2.4%),1.4%(0.8-2.0%),2.0%(1.4-2.6%),1.8%(1.2-2.3%),P for trend=0.15

有病率の推移を年齢層(65~69/70~74/75~79/80~84/85歳以上)ごとに検討した結果,65~69歳を除くすべての年齢層において,2012年の認知症の性調整有病率は,1985年にくらべて有意に高かった。
アルツハイマー病についても同様の傾向がみとめられたが,血管性認知症,ならびにその他の認知症については,いずれの年齢層においても,1985年に比した有病率の有意な変化はみとめられなかった。

◇ 認知症発症率の推移
2002年コホートで,1988年コホートより有意に高い値を示していたのは降圧薬服用率,肥満の割合,糖尿病の割合,高脂血症の割合,ならびに飲酒頻度で,有意に低い値を示していたのは高血圧患者の収縮期血圧値,教育年数9年以下の割合,ならびに喫煙率であった(すべてP<0.05)。

1988年コホート,ならびに2002年コホートにおける認知症の性・年齢調整発症率(1000人・年あたり),および発症の多変量調整ハザード比(HR,2002年 vs. 1988年)は,それぞれ以下のとおり。認知症の発症リスクは2002年コホートのほうが1.67倍と有意に高く,アルツハイマー病については約2倍とさらに高くなっていた。
性,年齢,高血圧,糖尿病,肥満,高脂血症,飲酒,運動習慣で調整)

[認知症]25.9(95%信頼区間21.7-30.9),41.6(37.0-46.1),HR 1.67(1.36-2.05)
[アルツハイマー病]14.6(11.6-18.9),28.2(24.2-31.7),HR 2.06(1.58-2.69)
[血管性認知症]9.3(6.4-11.7),10.6(8.4-12.9),HR 1.20(0.84-1.72)
[その他の認知症]3.8(2.0-5.3),4.7(3.3-6.3),HR 1.26(0.73-2.18)

発症率の推移を年齢層ごとに検討した結果,多くの年齢層において,2002年コホートの認知症およびアルツハイマー病の性調整発症率は,1988年コホートにくらべて有意に高かった(P<0.05: 85歳以上,ならびに70~74歳の認知症を除く)。一方,血管性認知症については,いずれの年齢層でも有意差はみられなかった。

◇ 認知症発症後の5年生存率の推移
1988年コホート,ならびに2002年コホートのなかで認知症を発症した人を対象に,5年生存率(性・年齢調整)を比較した。
その結果,認知症,ならびにアルツハイマー病については,2002年コホートの発症者の生存率のほうが有意に高くなっていた(いずれもP<0.01)。一方,血管性認知症発症者の生存率については,1988年コホートと2002年コホートのあいだに有意差はみられなかった。


◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究の参加者を対象に,認知症の有病率,発症率ならびに発症者の5年生存率の長期的な推移を検討した。その結果,認知症およびアルツハイマー病の有病率(年齢調整)は1985年から2012年にかけて大きく増加していた。認知症およびアルツハイマー病の発症率(性・年齢調整)は,1988年コホートにくらべて2002年コホートでは有意に増加していたが,認知症発症者およびアルツハイマー病発症者の5年生存率(性・年齢調整)も,2002年コホートでは有意に改善していた。一方,血管性認知症については,発症率にも発症者の5年生存率にも有意な増加はみられなかった。以上の結果から,高齢化が急速に進む日本において,認知症の病因解明や健康寿命延伸のための対策とあわせて,認知症発症者が暮らしやすいコミュニティや社会システムの構築を進める必要性も示唆された。


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