[2017年文献] 朝と夜に測定する家庭血圧値が高い人では頸動脈内膜-中膜肥厚度が高い

高血圧患者が血圧管理をする際,家庭血圧(HBP)を測定することで,測定者によるバイアスや白衣高血圧による影響を減らすことが可能であると考えられている。血圧管理のための多くのガイドラインやステートメントでは,少なくとも1日2回のHBP測定を推奨している。また,HBP高値と頸動脈アテローム血栓症との関連についての報告があるにもかかわらず,日本の一般住民に関するデータは少ない。そこで,40歳以上の地域一般住民を対象として,朝と夜に測定したHBPと頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)との関連を調べた。その結果,朝のHBP,夜のHBPともに,血圧が低いほど平均IMTならびに最大IMTが小さくなる傾向がみとめられた。また,正常血圧の人と比べて,高血圧の人では,朝・夜のどちらかだけ高血圧の人についても,平均IMTは有意に高値であった。朝と夜のいずれの場合も,HBP高値の人では,頸動脈アテローム血栓症との関連が示唆された。

Sakata S, et al. Morning and Evening Blood Pressures Are Associated With Intima-Media Thickness in a General Population - The Hisayama Study. Circ J. 2017; 81: 1647-1653.pubmed

コホート
2007~2008年の健診を受診した40歳以上の3384人(参加率78.2%)のうち,調査への参加を拒否した8人,家庭血圧(HBP)を3日以上測定していない453人,頸部超音波検査のデータがない67人を除いた2856人(男性1234人,女性1622人)を追跡。

欧州高血圧学会(ESH)/欧州心臓病学会(ECS)の基準値のマイナス5 mmHg*の値に沿って,HBPごとに対象者を5つのカテゴリーにわけて解析した。
 (*HBP[135/85 mmHg]=病院で測定した血圧値[140/90 mmHg]であると考えられているため)

[G1]: <115/75 mmHg(至適血圧),[G2]: 115~124/75~79 mmHg(正常血圧),[G3]: 125~134/80~84 mmHg(正常高値血圧),[G4]: 135~154/85~94 mmHg(I度高血圧),[G5]: ≧155/95 mmHg(II度+III度高血圧)

頸部の超音波検査により,平均頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)ならびに最大IMTを測定するとともに,頸動脈壁肥厚(最大IMT>1.0 mmと定義)についても評価した。
結 果
◇ 対象背景
朝に測定した,家庭血圧値(HBP)ごとにわけた5つのカテゴリー別の対象背景は以下のとおり。

 人数(人): [G1]513,[G2]458,[G3]587,[G4]891,[G5]407
 年齢(歳): 55,61,63,66,69(P for trend<0.001)
 男性: 25.0%,39.5%,45.8%,49.8%,52.1%(P for trend<0.001)
 朝の家庭収縮期血圧(mmHg): 107,119,129,142,162(P for trend<0.001)
 朝の家庭拡張期血圧(mmHg): 66,72,77,82,89(P for trend<0.001)
 夜の家庭収縮期血圧(mmHg): 105,115,123,131,147(P for trend<0.001)
 夜の家庭拡張期血圧(mmHg): 62,67,70,73,78(P for trend<0.001)
 降圧薬の服用: 4.1%,12.7%,29.5%,45.1%,57.3%(P for trend<0.001)
 糖尿病: 4.5%,12.0%,16.9%,22.6%,25.3%(P for trend<0.001)
 BMI(kg/m2): 21.3,22.5,23.3,23.8,24.1(P for trend<0.001)
 喫煙: 18.5%,16.6%,18.6%,18.9%,22.6%(P for trend=0.11)
 飲酒: 44.1%,46.3%,48.4%,51.2%,54.1%(P for trend<0.001)
 日常的な運動: 9.2%,13.3%,11.6%,14.9%,12.0%(P for trend=0.04)

◇ 平均頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)ならびに最大IMTとHBP(朝または夜)との関連
HBPのカテゴリーごとにみた,多変量調整後の平均IMTならびに最大IMTは以下のとおり。朝のHBP,夜のHBPともに,血圧が低いカテゴリーほど,平均IMTならびに最大IMTが小さい値となる傾向がみられた(年齢,性別,降圧薬の服用,糖尿病,総コレステロール値,HDL-C値,脂質低下薬服用,BMI,喫煙,飲酒,日常的な運動で調整)。

 ・平均IMT(mm)(*P<0.05 vs. [G1])
  HBP(朝): [G1]0.68,[G2]0.70*,[G3]0.72*,[G4]0.74*,[G5]0.76*,P for trend<0.001
  HBP(夜): 0.69,0.71*,0.73*,0.75*,0.78*,P for trend<0.001

 ・最大IMT(mm)
  HBP(朝): 1.15,1.14,1.20,1.25*,1.29*,P for trend<0.001
  HBP(夜): 1.15,1.19,1.22*,1.28*,1.38*,P for trend<0.001

◇ HBPと頸動脈壁肥厚との関連
HBPのカテゴリーごとにみた,頸動脈壁肥厚の多変量調整後オッズ比(95%信頼区間)は以下のとおり。HBP(朝),HBP(夜)ともに,高値であるほど頸動脈壁肥厚が有意に進展していた。

 HBP(朝): [G1]1,[G2]0.92(0.69-1.23),[G3]1.33(1.00-1.76),[G4]1.46(1.11-1.92),[G5]1.67(1.19-2.35),P for trend<0.001
 HBP(夜): 1,1.37(1.09-1.72),1.46(1.13-1.87),1.79(1.37-2.35),3.14(1.92-5.33),P for trend<0.001

◇ 高血圧のタイプ別にみた平均IMTならびに最大IMT
朝・夜とも正常血圧,高血圧(朝のみ),高血圧(夜のみ),高血圧(朝・夜)の例ごとにみた,平均IMT・最大IMT(幾何平均値)は以下のとおり。朝・夜のどちらかだけ高血圧の人でも,正常血圧の人と比べて,平均IMTは有意に高値であった(*P<0.05 vs. 正常血圧)。

 平均IMT値(mm): 0.70,0.72*,0.75*,0.76*
 最大IMT値(mm): 1.17,1.22*,1.27,1.30*

■ 結論
高血圧患者が血圧管理をする際,家庭血圧(HBP)を測定することで,測定者によるバイアスや白衣高血圧による影響を減らすことが可能であると考えられている。血圧管理のための多くのガイドラインやステートメントでは,少なくとも1日2回のHBP測定を推奨している。また,HBP高値と頸動脈アテローム血栓症との関連についての報告があるにもかかわらず,日本の一般住民に関するデータは少ない。そこで,40歳以上の地域一般住民を対象として,朝と夜に測定したHBPと頸動脈内膜-中膜肥厚度(IMT)との関連を調べた。その結果,朝のHBP,夜のHBPともに,血圧が低いほど平均IMTならびに最大IMTが小さくなる傾向がみとめられた。また,正常血圧の人と比べて,高血圧の人では,朝・夜のどちらかだけ高血圧の人についても,平均IMTは有意に高値であった。朝と夜のいずれの場合も,HBP高値の人では,頸動脈アテローム血栓症との関連が示唆された。


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