[2019年文献] 血清中のトランス脂肪酸濃度高値は認知症発症リスクと正の関連を示す

動物性脂肪や水素添加植物性油脂に含まれるトランス脂肪酸の過度な摂取は,冠動脈疾患や糖尿病などの生活習慣病の発症リスクと関連すると考えられている。また,いくつかの疫学研究により,ω-3多価不飽和脂肪酸の摂取量は,認知症発症リスクと負に関連し,飽和脂肪酸の摂取量は正に関連することが知られているが,トランス脂肪酸と認知症発症リスクとの関連を調べた研究は少ない。そこで,60歳以上の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,代表的なトランス脂肪酸の一つであるエライジン酸の血清中の濃度と認知症発症リスクとの関連について検討した。その結果,血清中のエライジン酸濃度が高い人ほど,全認知症ならびにアルツハイマー病発症リスクが有意に高いことが示された。トランス脂肪酸の摂取を控えることが,認知症発症の予防につながる可能性が示唆された。

Honda T, et al. Serum elaidic acid concentration and risk of dementia: The Hisayama study. Neurology. 2019; 93: e2053-e2064.pubmed

コホート
2002~2003年の健診を受診した60歳以上の1760人(参加率83.4%)のうち,すでに認知症を発症していた122人,血清中のエライジン酸濃度のデータのない10人を除いた1628人(男性703人,女性925人)を10.2年間(中央値)追跡。

認知症ならびに各病型の診断には,それぞれ以下を用いた。
 ・認知症: 米国精神医学会の『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版改訂版(DSM-III-R)
 ・アルツハイマー病: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病・関連障害協会によるアルツハイマー病診断基準(NINCDS-ADRDA)
 ・血管性認知症: 米国国立神経疾患・脳卒中研究所およびAssociation Internationale pour la Recherche et lʼEnseignement en Neurosciencesによる国際ワークショップで作成された診断基準(NINDS-AIREN)

血清中のエライジン酸濃度(µmol/L)はガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS QP2010; Shimadzu, Kyoto, Japan)を用いて測定した。
血清中のエライジン酸濃度(µmol/L)の四分位値により,対象者を次の4つのカテゴリーに分類した。

[Q1]2.64~7.69,[Q2]7.70~10.32,[Q3]10.33~14.50,[Q4]14.51~64.37
結 果
追跡期間中に認知症を発症した人は377人。認知症の内訳は,アルツハイマー病247人,血管性認知症102人であった。
血清中のエライジン酸濃度中央値は,男性が9.40 µmol/L,女性は10.90 µmol/Lであった。

◇ 対象背景
エライジン酸濃度のカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり。

 年齢(歳): [Q1]71.4,[Q2]70.8,[Q3]70.3,[Q4]70.6(P for trend=0.02)
 男性: 55%,43%,38%,37%(P for trend<0.001)
 収縮期血圧(mmHg): 136.0,135.6,136.6,141.4(P for trend<0.001)
 拡張期血圧(mmHg): 78.3,79.2,78.6,81.0(P for trend=0.004)
 総コレステロール(mg/dL): 189.1,200.3,204.6,215.4(P for trend<0.001)
 トリグリセリド(中央値)(mg/dL): 80.5,94.7,104.4,135.4(P for trend<0.001)
 hsCRP(中央値)(mg/L): 0.57,0.59,0.69,0.65(P for trend=0.10)
 BMI(kg/m2): 22.7,23.1,23.4,23.1(P for trend=0.04)
 喫煙率: 19%,13%,13%,15%(P for trend=0.13)
 飲酒率: 49%,36%,33%,26%(P for trend<0.001)
 運動習慣: 16%,13%,11%,11%(P for trend=0.02)
 食事
  総エネルギー摂取量(kcal/日): 2055,1965,1894,1912(P for trend<0.001)
  飽和脂肪酸摂取量(g/日): 13.7,14.3,14.8,15.1(P for trend<0.001)
  多価不飽和脂肪酸摂取量(g/日): 13.7,13.5,13.3,13.5(P for trend=0.54)

◇ エライジン酸濃度と認知症発症リスクとの関連
血清中のエライジン酸濃度のカテゴリーごとの認知症発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。Q1に比して,Q3とQ4では全認知症発症リスクが有意に高く,Q3ではアルツハイマー病発症リスクが有意に高かった。また,高値のカテゴリーほど,全認知症とアルツハイマー病発症リスクが高くなる有意な傾向がみられた(年齢,性別,教育年数,高血圧,糖尿病,総コレステロール,トリグリセリド,hsCRP,BMI,脳卒中既往,喫煙,飲酒,運動習慣,飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸摂取量,総エネルギー摂取量で調整,*P<0.05)。

 全認知症: [Q1]1.00(対照),[Q2]1.17(0.84-1.64),[Q3]1.57(1.13-2.19)*,[Q4]1.50(1.04-2.15)*,P for trend=0.008
  アルツハイマー病: 1.00,1.08(0.72-1.62),1.60(1.08-2.39)*,1.39(0.90-2.16),P for trend=0.04
  血管性認知症: 1.00,1.95(0.98-3.86),1.79(0.87-3.66),1.97(0.92-4.20),P for trend=0.11

◇ 競合リスクを考慮した場合のエライジン酸濃度と認知症発症リスクとの関連
死亡による競合リスクを考慮した,血清中のエライジン酸濃度のカテゴリーごとの認知症発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。Q1に比して,Q3では全認知症,アルツハイマー病発症リスクが有意に高かった。また,高値のカテゴリーほど,全認知症発症リスクが高くなる有意な傾向がみられた。

 全認知症: [Q1]1.00(対照),[Q2]1.14(0.79-1.63),[Q3]1.56(1.10-2.20)*,[Q4]1.45(0.98-2.14),P for trend=0.02
  アルツハイマー病: 1.00,1.06(0.68-1.64),1.57(1.03-2.39)*,1.28(0.80-2.06),P for trend=0.10
  血管性認知症: 1.00,1.88(0.93-3.79),1.75(0.85-3.58),1.82(0.87-3.81),P for trend=0.14

◇ 危険因子の有無別にみた,エライジン酸濃度と認知症発症リスクとの関連
認知症発症の危険因子(年齢,性別,教育年数,高血圧,糖尿病,総コレステロール,トリグリセリド,hsCRP,BMI,脳卒中既往,喫煙,飲酒,運動習慣,総エネルギー摂取量,飽和脂肪酸摂取量,多価不飽和脂肪酸摂取量)別に,血清中のエライジン酸濃度中央値(10.33 µmol/L)未満の人に対する中央値以上の人の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)をみたところ,75歳未満の人と75歳以上の人でのみ有意な異質性が認められた。

 年齢(<75 vs. ≧75): 0.91(0.63-1.31) vs. 1.86(1.35-2.58)*,P for heterogeneity<0.001

◇ 結論
動物性脂肪や水素添加植物性油脂に含まれるトランス脂肪酸の過度な摂取は,冠動脈疾患や糖尿病などの生活習慣病の発症リスクと関連すると考えられている。また,いくつかの疫学研究により,ω-3多価不飽和脂肪酸の摂取量は,認知症発症リスクと負に関連し,飽和脂肪酸の摂取量は正に関連することが知られているが,トランス脂肪酸と認知症発症リスクとの関連を調べた研究は少ない。そこで,60歳以上の日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,代表的なトランス脂肪酸の一つであるエライジン酸の血清中の濃度と認知症発症リスクとの関連について検討した。その結果,血清中のエライジン酸濃度が高い人ほど,全認知症ならびにアルツハイマー病発症リスクが有意に高いことが示された。トランス脂肪酸の摂取を控えることが,認知症発症の予防につながる可能性が示唆された。


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