[2005年文献] 重度の心電図異常は,全死亡リスクの独立した予測因子

健診でみられた各心電図所見(ミネソタコード別)と全死亡リスクとの関連について,全国から無作為抽出した日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究によって検討した。19年間の追跡の結果,重度の心電図異常(Q-QS波異常,軸偏位,R波増高,ST低下,T波異常,房室伝導異常,心室間伝導異常,不整脈などのいずれか)のある人では,年齢や血圧,血糖,喫煙状況とは独立して,全死亡のリスクが有意に高くなっていた。ミネソタコード別にみても,多くの所見が心血管危険因子とは独立した全死亡リスクの予測因子となっていた。これらの結果は,健診における心電図検査の重要性を示唆するものといえる。

Horibe H, et al.; The NIPPON TATA80 Research Group. A nineteen-year cohort study on the relationship of electrocardiographic findings to all cause mortality among subjects in the national survey on circulatory disorders, NIPPON DATA80. J Epidemiol. 2005; 15: 125-34.pubmed

コホート
NIPPON DATA80。
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の10546人のうち,心電図データに不備のある人を除いた9638人(男性4103人,女性5535人)を,1999年9月15日まで19年間追跡。

ベースラインの心電図所見(ミネソタコード別)のうち,以下のいずれかに該当する場合に「重度の心電図異常(major ECG findings)あり」とした。
 異常Q-QS波(1-1~1-3),軸偏位(2-1~2-5),R波増高(3-1~3-4),ST低下(4-1~4-4),T波異常(5-1~5-5),房室伝導障害(6-1~6-5),心室間伝導障害(7-1~7-5),不整脈(8-1~8-9-1),その他(9-1~9-5)

<参考>豊嶋英明ほか. 日循協心電図コード2005 (1982年版ミネソタコード準拠). 日循予防誌. 2005; 42: 138-54. doi: 10.11381/jjcdp2001.40.138(http://dx.doi.org/10.11381/jjcdp2001.40.138
結 果
◇ 対象背景
追跡期間中に死亡したのは1327人(うち男性711人,女性616人)。

ベースライン健診時に各心電図所見(ミネソタコード別)がみとめられた人の数(うち,追跡期間中に死亡した人の数)は以下のとおりであった。
(1)Q-QS波異常 1-1: 16人(死亡11人),1-2: 36人(19人),1-3: 136人(51人)
(2)軸偏位 2-1: 160人(71人),2-2: 8人(1人),2-3: 141人(25人),2-4: 5人(4人),2-5: 6人(3人)
(3)R波増高 3-1: 903人(293人),3-2: 26人(8人),3-3: 598人(142人),3-4: 2人(1人)
(4)ST低下 4-1: 61人(49人),4-2: 120人(70人),4-3: 72人(37人),4-4: 278人(87人)
(5)T波異常 5-1: 25人(22人),5-2: 240人(116人)5-3: 226人(103人),5-4: 99人(38人),5-5: 276人(78人)
(6)房室伝導異常 6-1: 3人(2人),6-2: 3人(2人),6-3: 187人(63人),6-4: 12人(2人),6-5: 34人(7人)
(7)心室間伝導異常 7-1: 20人(13人),7-2: 120人(63人),7-3: 188人(66人),7-4: 5人(2人),7-5: 228人(46人)
(8)不整脈 8-1: 120人(33人),8-2: 2人(2人),8-3: 62人(43人),8-4: 2人(0人),8-5: 0人,8-6: 7人(5人),8-7: 133人(28人),8-8: 162人(43人),8-9: 496人(148人)
(9)その他: 9-1: 97人(41人),9-2: 343人(74人),9-3: 9人(5人),9-4: 4647人(927人),9-5: 505人(117人)

◇ 重度の心電図異常と全死亡リスク
性,年齢,収縮期血圧,血糖,および喫煙状況を含めた多変量Cox比例ハザードモデルにおいて,重度の心電図異常がある人の全死亡のハザード比(vs. 重度の心電図異常なし)は以下のとおり有意に増加しており,男女別に解析を行っても同様であった。
 全体: 1.28(95%信頼区間1.17-1.408),P<0.001
  男性: 1.34(1.18-1.52),P<0.001
  女性: 1.19(1.04-1.36),P<0.05

この結果は,ベースラインから5年以内の死亡を除いた解析でも同様にみとめられた。

◇ 重度の心電図異常所見別の全死亡リスク
男女をあわせた多変量Cox比例ハザードモデルにおいて,他の危険因子とは独立して全死亡リスクの予測因子となっていた所見,ならびにその多変量調整ハザード比(vs. その所見のない人)は以下のとおり(すべてP<0.05)。

(1)Q-QS波異常 1-1: 3.71(95%信頼区間1.78-7.71),1-2: 1.75(1.10-2.78),1-3: 1.57(1.18-2.09)
(2)軸偏位 2-1: 1.37(1.07-1.76),2-3: 1.80(1.21-2.69),2-4: 2.85(1.06-7.67),2-5: 4.16(1.325-13.05)
(3)R波増高 3-1: 1.34(1.16-1.54),3-3: 1.35(1.12-1.62)
(4)ST低下 4-1: 2.59(1.91-3.52),4-2: 2.00(1.55-2.57),4-3: 1.63(1.16-2.29)
(5)T波異常 5-1: 2.33(1.51-3.61),5-2: 1.82(1.49-2.22),5-3: 1.54(1.24-1.91)
(6)房室伝導異常 6-2: 7.82(1.95-31.39),6-5: 2.21(1.05-4.66)
(7)心室間伝導異常 7-1: 2.11(1.22-3.67),7-2: 1.44(1.11-1.88)
(8)不整脈 8-1: 1.92(1.45-2.54),8-3: 2.42(1.77-3.31),8-9-1: 1.45(1.18-1.79)
(9)その他 9-1: 1.47(1.07-2.03),9-2: 1.33(1.04-1.71),9-4-2: 1.47(1.26-1.71),9-5: 1.28(1.05-1.56)


◇ 結論
健診でみられた各心電図所見(ミネソタコード別)と全死亡リスクとの関連について,全国から無作為抽出した日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究によって検討した。19年間の追跡の結果,重度の心電図異常(Q-QS波異常,軸偏位,R波増高,ST低下,T波異常,房室伝導異常,心室間伝導異常,不整脈などのいずれか)のある人では,年齢や血圧,血糖,喫煙状況とは独立して,全死亡のリスクが有意に高くなっていた。ミネソタコード別にみても,多くの所見が心血管危険因子とは独立した全死亡リスクの予測因子となっていた。これらの結果は,健診における心電図検査の重要性を示唆するものといえる。


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