[2006年文献] 高齢男性では,拡張期血圧は心血管死亡の危険因子ではない

高齢者の高血圧では,収縮期血圧(SBP)にくらべて拡張期血圧(DBP)の上昇度はあまり大きくないことが知られている。そこで日本全国から無作為抽出した男性におけるSBPとDBPの影響を年齢層ごとに検討した結果,SBPは年齢層を問わず心血管死亡リスクの独立した危険因子だったが,DBPは高齢層では独立した危険因子とはならなかった。高齢者高血圧においては,SBPとDBPがともに高い場合のみならず,DBPがあまり高くない場合にも注意する必要がある。

Okayama A, et al.; The NIPPON DATA80 Research Group. Age-specific effects of systolic and diastolic blood pressures on mortality due to cardiovascular diseases among Japanese men (NIPPON DATA80). J Hypertens. 2006; 24: 459-62.pubmed

コホート
NIPPON DATA80
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の男女10,558人のうち,1999年に追跡データが得られた男性4244人を対象として設定。さらに心筋梗塞既往のある18人,脳卒中既往のある44人,およびベースライン時に降圧薬を服用していた403人を除外し,1999年まで19年間追跡した(64,598人・年)。
女性では死亡数が少なく年齢層ごとの解析を行うことができなかったため,対象に含めなかった。

JNC VIに基づき,収縮期血圧,拡張期血圧についてそれぞれ全体を以下の5つのカテゴリーに分類した。
   収縮期血圧: <120 mmHg,120~139mmHg,140~159 mmHg,160~179 mmHg,>179 mmHg
   拡張期血圧: <80 mmHg,80~84 mmHg,85~89 mmHg,90~99 mmHg,>99 mmHg

また,全体を30~64歳,65~75歳,75歳以上の3つの年齢層に分けて解析を行った。
結 果
19年間に1091人が死亡した。

◇ 血圧カテゴリーと心血管疾患(CVD)死亡率
・ 収縮期血圧(SBP)
いずれの年齢層においても,SBPが高いカテゴリーほどCVD死亡率が上昇した。ただし,高い年齢層では相関がゆるやかだった。

・ 拡張期血圧(DBP)
30~64歳および65~75歳の年齢層ではDBPが高いカテゴリーほどCVD死亡率が上昇したが,75歳以上の年齢層ではDBP上昇にともなう死亡率の上昇はみとめられなかった。

◇ 血圧カテゴリーとCVD死亡リスク
・ SBP
いずれの年齢層においても,SBPが高いカテゴリーほどCVD死亡の相対危険度が有意に上昇していた(30~64歳: P<0.001,65~75歳: P<0.001,75歳以上: P=0.038)。

・ DBP
30~64歳および65~75歳の年齢層ではDBPが高いカテゴリーほどCVD死亡の相対危険度が有意に上昇した(それぞれP=0.01,P=0.003)が,75歳以上の年齢層ではDBPとCVD死亡リスクとの関連はみとめられなかった(P=0.156)。

◇ 血圧上昇とCVD死亡リスク
・ SBP
各年齢層におけるSBPの1 SD上昇にともなう多変量調整ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
   30~64歳: 1.53 (1.19-1.96)
   65~75歳: 1.70 (1.31-2.20)
   75歳以上: 1.23 (1.17-1.47)
   すべての年齢層: 1.31 (1.17-1.47)

・ DBP
各年齢層におけるDBPの1 SD上昇にともなう多変量調整ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
   30~64歳: 1.52 (1.12-2.06)
   65~75歳: 1.60 (1.21-2.10)
   75歳以上: 1.10 (0.94-1.28)
   すべての年齢層: 1.27 (1.10-1.46)


◇ 結論 
高齢者の高血圧では,収縮期血圧(SBP)にくらべて拡張期血圧(DBP)の上昇度はあまり大きくないことが知られている。そこで日本全国から無作為抽出した男性におけるSBPとDBPの影響を年齢層ごとに検討した結果,SBPは年齢層を問わず心血管死亡リスクの独立した危険因子だったが,DBPは高齢層では独立した危険因子とはならなかった。高齢者高血圧においては,SBPとDBPがともに高い場合のみならず,DBPがあまり高くない場合にも注意する必要がある。


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