[2009年文献] 心電図上の異常Q波は心血管疾患死亡の重要な予測因子

心筋梗塞の跡を反映するとされる心電図上Q波について,欧米にくらべ著しく心筋梗塞の少ない日本人一般住民を対象に,有所見率および心血管疾患(CVD)死亡リスクとの関連(とくにST-T異常やR波増高と独立しているかどうか)を検討した。19年間の追跡の結果,中等度~重度の異常Q波は,その他の心電図異常とは独立して,CVD死亡および心疾患死亡リスクと有意に関連していた。異常Q波は,頻度は高くないものの,CVD死亡および心疾患死亡の重要な予測因子であることが示唆された。

Higashiyama A, et al.; NIPPON DATA80 Research Group. Prognostic value of q wave for cardiovascular death in a 19-year prospective study of the Japanese general population. J Atheroscler Thromb. 2009; 16: 40-50.pubmed

コホート
NIPPON DATA80。
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の10546人のうち,心血管疾患,心房細動,Wolff-Parkinson-White症候群および完全左脚ブロックのない8339人(男性3694人,女性4645人)を1999年まで19年間追跡。

ベースライン健診時の12誘導心電図検査に基づき,異常Q波の有無と程度によって対象者を以下の3つのカテゴリーに分類した。中等度および重度の異常Q波については,該当する対象者の数が少なかったため,併せて1つのカテゴリーとした。
  正常Q波: 男性3609人,女性4586人
  軽度の異常Q波(ミネソタコード1-3): 62人(1.7%),46人(1.0%)
  中等度~重度の異常Q波(ミネソタコード1-1または1-2): 23人(0.6%),13人(0.3%)
結 果
◇ 対象背景
異常Q波のある人で,正常Q波の人にくらべて有意に高い値を示していたのは,糖尿病既往の割合と血糖高値の割合。また,正常Q波にくらべ,異常Q波のある男性では高血圧既往の割合,降圧薬服用率および総コレステロール,異常Q波のある女性では随時血糖が有意に高かった。

◇ 異常Q波と心血管疾患(CVD)死亡リスク
追跡期間中に死亡した1578人のうち,544人がCVDによる死亡であった。
内訳は,257人が脳卒中死亡,257人が心疾患死亡。

異常Q波の有無および程度ごとのCVD死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり(*統計学的有意差あり)。
年齢,性,BMI,収縮期血圧,総コレステロール,喫煙,飲酒および血糖高値で調整)
[CVD死亡]Q波正常: 1.00(対照),軽度の異常Q波: 1.50(0.90-2.51),中等度~重度の異常Q波: 1.75(0.97-3.17)
[脳卒中死亡]1.00,1.05(0.43-2.56),0.48(0.12-2.00)
[心疾患死亡]1.00,1.95(1.00-3.81)*,2.97(1.43-6.16)*

さらに,ベースライン時に完全房室ブロック,右脚ブロック,または持続性心室性調律のあった人を除外した解析を行うと,中等度~重度の異常Q波をもつ人におけるCVD死亡の多変量調整ハザード比(vs. 正常Q波)は1.87(1.03-3.38),心疾患死亡については3.20(1.55-6.63)と有意に高かった。

性別ごとにみると,男女とも,CVD死亡および脳卒中死亡リスクについては異常Q波の有無および程度との有意な関連はみられなかったが,中等度~重度の異常Q波は,男性でのみ心疾患死亡リスクと有意に関連していた。

◇ その他の心電図異常を除外した解析
ベースライン時にST降下,T波異常,およびR波増高があった人を除外した解析を行った結果は以下のとおりで,中等度~重度の異常Q波をもつ人のCVD死亡リスクおよび心疾患死亡リスクが有意に高くなっていた(*統計学的有意差あり)。
[CVD死亡]Q波正常: 1.00(対照),軽度の異常Q波: 1.21(0.57-2.57),中等度~重度の異常Q波: 4.46(1.39-14.32)*
[脳卒中死亡]1.00,0.72(0.18-2.93),2.89(0.39-21.61)
[心疾患死亡]1.00,1.82(0.74-4.47),6.83(1.63-28.57)*

◇ 心血管危険因子の有無による層別化解析
以上の解析で異常Q波との有意な関連がみられなかった脳卒中死亡を除き,既知の心血管危険因子の有無ごとに,異常Q波とCVD死亡および心疾患死亡リスクとの関連を比較した。

・高血圧(≧140 / 90 mmHgまたは降圧薬服用)
中等度~重度の異常Q波をもつ人のCVD死亡の多変量調整ハザード比は,高血圧のない場合のみ有意に高かったが,(vs. 正常Q波),心疾患死亡の多変量調整ハザード比は,高血圧の有無を問わず有意に高くなっていた。

・高血糖症(随時血糖≧140 mg/dLまたは糖尿病既往)
中等度~重度の異常Q波をもつ人のCVD死亡および心疾患死亡の多変量調整ハザード比は,高血糖症のない場合のみ有意に高くなっていた(vs. 正常Q波)。一方,軽度の異常Q波をもつ人のCVD死亡の多変量調整ハザード比には,高血糖症の有無を問わず正常Q波との有意差はなかったが,心疾患死亡については高血糖症のある場合のみ有意に高くなっていた。

・高脂血症(総コレステロール≧200 mg/dL)
中等度~重度の異常Q波をもつ人のCVD死亡および心疾患死亡の多変量調整ハザード比は,高脂血症のある場合のみ有意に高くなっていた,また,軽度の異常Q波をもつ人のCVD死亡の多変量調整ハザード比は,高脂血症がある場合のみ有意に高くなっていたが,心疾患死亡については,高脂血症の有無を問わず正常Q波との有意差はなかった。


◇ 結論
心筋梗塞の跡を反映するとされる心電図上Q波について,欧米にくらべ著しく心筋梗塞の少ない日本人一般住民を対象に,有所見率および心血管疾患(CVD)死亡リスクとの関連(とくにST-T異常やR波増高と独立しているかどうか)を検討した。19年間の追跡の結果,中等度~重度の異常Q波は,その他の心電図異常とは独立して,CVD死亡および心疾患死亡リスクと有意に関連していた。異常Q波は,頻度は高くないものの,CVD死亡および心疾患死亡の重要な予測因子であることが示唆された。


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