[2011年文献] ハワイ在住の日系高齢男性と日本在住の日本人高齢男性では,日常生活動作低下の危険因子が異なる(ホノルルアジア老化研究との比較)

日常生活動作(ADL)低下は不可避な老化現象ではなく,文化的・環境的な因子により,進展を遅らせることが可能であると考えられている。そこで,2つの大規模コホート研究(ホノルルアジア老化研究,NIPPON DATA 90)において,ハワイ在住の日系人高齢男性と日本在住の日本人高齢男性のADL低下とその危険因子について比較検討を行った。その結果,心筋梗塞または脳卒中の既往のある人では,日系人男性,日本人男性ともにADL低下との関連がみられた。また,脳卒中既往の有無は,日系人男性ではADL低下との関連がみられず,日本人男性では関連がみられたことから,日系人男性と日本人男性では,ADL低下の危険因子が異なる可能性が示唆された。ADL低下の予防のためには,国や地域によるにおける文化的・環境的な違いについても考慮することが望ましい。

Abbott RD, et al. Impairments in activities of daily living in older Japanese men in Hawaii and Japan. J Aging Res. 2011; 2011: 324592.pubmed

コホート
[ホノルルアジア老化研究]
1900~1919年に出生し,1965年より開始されたホノルル心臓調査の第1回健診を受診した日系アメリカ人男性8006人のうち,1991~1993年に実施された第4回健診受診者を対象とした。そのうち,日常生活動作(ADL)評価を実施した1867人のうち,データのない人を除いたハワイ在住の日系人男性1863人を解析。
ベースライン調査(危険因子の評価)は1991~1993年,追跡調査(ADL評価)は1997~1999年に実施した。

[NIPPON DATA90]
第4次循環器疾患基礎調査(1990年)に登録された70歳以上の日本人男性545人のうち,データのない人を除いた543人を解析。
ベースライン調査(危険因子の評価)は1990年,追跡調査(ADL評価)は1995年に実施した。

・ADL評価
「食事,排泄,着替え,入浴,室内での歩行」の5項目について質問した。
ハワイのコホートでは,上記5項目がそれぞれ困難かどうかをたずね,「はい」の場合を「ADL低下」とした。
日本のコホートでは,同5項目について,それぞれ「一人で行える」「部分的に人の助けが必要」「全面的に人の助けが必要」のいずれかに該当するかをたずね,「部分的に人の助けが必要」または「全面的に人の助けが必要」と回答した場合を「ADL低下」とした。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は,ハワイ在住の日系人男性82.5歳,日本在住の日本人男性76.0歳(P<0.001)であった。

そのほかの対象背景は以下のとおり。

 収縮期血圧(mmHg): [日系人男性]147,[日本人男性]150,P=0.029
 高血圧(%): 51.7%,49.4%,P=0.417
 降圧治療(%): 37.3%,27.6%,P<0.001
 糖尿病(%): 19.3%,8.5%,P<0.001
 BMI(kg/m2): 24.0,21.8,P<0.001
 心血管疾患の既往
  心筋梗塞(%): 6.8%,3.2%,P=0.007
  脳卒中(%): 5.8%,6.5%,P=0.631
 喫煙状況
  過去の喫煙(%): 55.3%,34.0%,P<0.001
  現在の喫煙(%): 6.6%,35.6%,P<0.001
 飲酒状況
  過去の飲酒(%): 21.5%,11.9%,P<0.001
  現在の飲酒(%): 38.9%,41.5%,P=0.361

◇ 日常生活動作(ADL)低下を伴う割合
5つのADL評価項目のうち,1つ以上の低下を伴う割合は,日系人男性で281/1863人(15.1%),日本人男性で32/543人(5.9%)(P<0.001)であった。

ADL低下を伴う割合と,日系人男性のADL低下の相対オッズ比(vs. 日本人男性)は以下のとおり。

 ・食事
  [日系人男性]4.7%,[日本人男性]2.2%; 相対オッズ比2.17(95%信頼区間1.18-3.99),P=0.013
 ・排泄(トイレの使用)
  6.0%,3.3%: 1.85(1.11-3.07),P=0.018
 ・着替え
  8.6%,4.1%: 2.24(1.42-3.54),P<0.001
 ・入浴
  8.1%,4.4%: 1.89(1.22-2.95),P=0.005
 ・室内での歩行
  8.5%,2.4%: 3.78(2.13-6.71),P<0.001

◇ 危険因子とADL低下との関連
日系人男性と日本人男性において,ADL低下との有意な関連がみとめられた年齢調整後の相対オッズ比は以下のとおり。

 ・日系人男性
  年齢(+10歳): 年齢調整相対オッズ比2.62(1.93-3.51),P<0.001
  糖尿病(有 vs. 無): 1.45(1.06-1.99),P=0.020
  心筋梗塞または脳卒中の既往(有 vs. 無): 1.54(1.06-2.22),P=0.022
  飲酒状況
   過去の飲酒(はい vs. いいえ): 1.38(1.03-1.85),P=0.034
   現在飲酒(はい vs. いいえ): 0.55(0.41-0.73),P<0.001

 ・日本人男性
  年齢(10歳増加ごと): 3.87(2.10-7.14),P<0.001
  脳卒中(有 vs. 無): 5.55(2.20-14.03),P<0.001
  心筋梗塞と脳卒中の既往(有 vs. 無): 3.87(1.64-9.13),P=0.002
  飲酒状況
   過去の飲酒(はい vs. いいえ): 3.13(1.37-7.25),P=0.008

◇ 日系人男性と日本人男性のADL低下
日系人男性と日本人男性におけるADL低下(5つのADL評価項目うち,1つ以上の低下を伴う)の割合と,多変量調整後相対オッズ比(95%信頼区間,vs. 日本人男性)は以下のとおり(年齢,高血圧,糖尿病,BMI,総コレステロール,心筋梗塞および脳卒中既往,喫煙状況および飲酒状況により調整)。

 日系人男性: 13.2%,日本人男性: 8.9%,相対オッズ1.58(1.01-2.47),P=0.045

◇ 結論
日常生活動作(ADL)低下は不可避な老化現象ではなく,文化的・環境的な因子により,進展を遅らせることが可能であると考えられている。そこで,2つの大規模コホート研究(ホノルルアジア老化研究,NIPPON DATA 90)において,ハワイ在住の日系人高齢男性と日本在住の日本人高齢男性のADL低下とその危険因子について比較検討を行った。その結果,心筋梗塞または脳卒中の既往のある人では,日系人男性,日本人男性ともにADL低下との関連がみられた。また,脳卒中既往の有無は,日系人男性ではADL低下との関連がみられず,日本人男性では関連がみられたことから,日系人男性と日本人男性では,ADL低下の危険因子が異なる可能性が示唆された。ADL低下の予防のためには,国や地域によるにおける文化的・環境的な違いについても考慮することが望ましい。


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