[2015年文献] 総コレステロール高値は心血管疾患死亡の危険因子

日本人を対象に,高コレステロール血症の心血管疾患死亡に対する人口寄与割合(PAF)を検討した,はじめての報告である。24年間の追跡の結果,血清総コレステロール(TC)1 SDの増加は,心血管疾患死亡,冠動脈疾患死亡,および心臓死のリスク増加と有意に関連していた。TC値によるカテゴリーを用いた解析でも,もっとも高いカテゴリー(≧260 mg/dL)では対照(160~179 mg/dL)にくらべ,心血管疾患死亡,冠動脈疾患死亡,および心臓死のリスクが有意に高かった。これらの死亡リスクに対するTC高値の人口寄与割合(PAF)は欧米にくらべると低かったものの,日本人の心血管疾患予防のためには,引き続き総コレステロール値の管理が重要と考えられた

Sugiyama D, et al.; NIPPON DATA 80/90 Research Group. Risk of Hypercholesterolemia for Cardiovascular Disease and the Population Attributable Fraction in a 24-year Japanese Cohort Study. J Atheroscler Thromb. 2015; 22: 95-107.pubmed

コホート
NIPPON DATA80。
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の10546人のうち,冠動脈疾患(CHD)または脳卒中の既往のある280人,データに不備のある186人,住所不定の871人を除いた9209人(男性4029人,女性5180人)を2004年まで24年間追跡した。

血清総コレステロール(TC)値については,日本動脈硬化学会のガイドラインと同じ以下のカテゴリー(男女別)を用いて解析を行った。
 160 mg/dL未満(男性848人,女性951人)
 160~179 mg/dL(対照)(999人,1183人)
 180~199 mg/dL(936人,1142人)
 200~219 mg/dL(648人,925人)
 220~239 mg/dL(354人,527人)
 240~259 mg/dL(167人,275人)
 260 mg/dL以上(77人,177人)
結 果
◇ 対象背景
血清総コレステロール(TC)の平均値は,男性186 mg/dL,女性190 mg/dL,平均年齢はそれぞれ49.7歳,50.1歳であった。
TCのカテゴリー間で男女ともに有意に異なっていたのは,年齢,血清アルブミン値,BMI,高血圧罹患率,糖尿病罹患率であり,男性のみで有意に異なっていたのは現在喫煙率,飲酒率であった。

追跡期間における全死亡は2566人(男性1365人,女性1201人),そのうち心血管疾患死亡は884人,CHD死亡は172人,心不全死亡は176人,脳卒中死亡は411人。

◇ TC増加と死亡リスク
TCが1SD増加するごとに心血管疾患死亡リスク,CHD死亡リスク,および心臓死リスクが増加したが,脳卒中死亡リスク,脳梗塞死亡リスクとは関連しなかった。TCが1 SD増加するごとの死因別死亡の多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおり(*年齢,性別,血清アルブミン値,BMI,高血圧,糖尿病,喫煙,飲酒により調整)。
  心血管疾患死亡:1.08(1.00-1.16)
  CHD死亡:1.33(1.14-1.55)
  心臓死:1.21(1.08-1.35)
  脳卒中死亡:1.01(0.90-1.12)
  脳梗塞死亡:1.02(0.89-1.18)

年齢(65歳未満/以上)および性別による層別解析を行うと,いずれのサブグループでもTCが1 SD増加するごとに心臓死リスクが増加したが,心血管疾患死亡とは関連しなかった。
その他の危険因子(高血圧,喫煙,BMI)の有無ごとの層別解析を行っても,おおむね全体での解析と同様の結果であったが,TCとCHD死亡リスクとの関連に対する喫煙の相互作用は有意であり(P for interaction=0.02),喫煙者におけるTCの1 SD増加ごとのCHD死亡リスクが有意に高くなっていた(多変量調整ハザード比1.52,95%信頼区間1.19-1.93)。

◇ TCのカテゴリーごとの死亡リスク
TCが260 mg/dL以上ともっとも高いカテゴリーの死因別死亡の調整ハザード比*(vs. 160~179 mg/dL)は以下のとおりで(*年齢,性別,血清アルブミン値,BMI,高血圧,糖尿病,喫煙,飲酒により調整),心血管疾患死亡リスク,CHD死亡リスク,心臓死リスクは有意に高かったが,脳卒中死亡リスク,脳梗塞死亡リスクについては有意差はなかった。
  心血管疾患死亡:1.76(95%信頼区間1.25-2.47)
  CHD死亡:3.52(1.89-6.57)
  心臓死:2.68(1.64-4.38)
  脳卒中死亡:1.25(0.73-2.15)
  脳梗塞死亡:0.81(0.35-1.92)

◇ TC高値による死亡リスクと人口寄与割合(PAF)
日本動脈硬化学会およびATP IIIによる基準を用いた場合のTC高値の死因別死亡のハザード比(vs. 低値)ならびにPAFは,それぞれ以下のとおり。

・日本動脈硬化学会の基準によるTC高値(≧220 mg/dL)
  心血管疾患死亡:1.08(95%信頼区間0.92-1.28),PAF 1.7%
  CHD死亡:1.55(1.10-2.19),PAF 10.6%
  心臓死:1.29(1.00-1.66),PAF 5.6%

・ATP III(全米コレステロール教育プログラムのadult treatment panel III)基準によるTC高値(≧240 mg/dL)
  心血管疾患死亡:1.19(0.95-1.48),PAF 1.7%
  CHD死亡:1.79(1.16-2.74),PAF 6.9%
  心臓死:1.53(1.11-2.12),PAF 4.6%

◇ 結論
日本人を対象に,高コレステロール血症の心血管疾患死亡に対する人口寄与割合(PAF)を検討した,はじめての報告である。24年間の追跡の結果,血清総コレステロール(TC)1 SDの増加は,心血管疾患死亡,冠動脈疾患死亡,および心臓死のリスク増加と有意に関連していた。TC値によるカテゴリーを用いた解析でも,もっとも高いカテゴリー(≧260 mg/dL)では対照(160~179 mg/dL)にくらべ,心血管疾患死亡,冠動脈疾患死亡,および心臓死のリスクが有意に高かった。これらの死亡リスクに対するTC高値の人口寄与割合(PAF)は欧米にくらべると低かったものの,日本人の心血管疾患予防のためには,引き続き総コレステロール値の管理が重要と考えられた。


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