[2014年文献] 女性では,糖質(炭水化物)の割合が少ない食事が心血管疾患死亡・全死亡リスク低下と関連

これまでに,糖質(炭水化物)の割合の少ない食事(低糖質食)による介入で体重減少や心血管系危険因子の改善効果がみられたとの臨床試験やメタ解析の結果が報告されているが,低糖質食の長期的な効果や安全性は明らかになっておらず,とくに,欧米にくらべて食事に占める糖質の割合が高い日本人でのエビデンスは少ない。そこで,日本人一般住民を対象とした前向き観察研究において,ベースライン時(1980年)の食事調査結果から算出した低糖質食スコアと,長期的な死亡リスクとの関連を検討した。29年間の追跡の結果,女性では,低糖質食スコアの高い(糖質の割合が少ない)食事をとっていた人ほど,心血管疾患(CVD)死亡リスク,および全死亡リスクが低いという有意な関連がみとめられた。一方,男性では,低糖質食スコアとCVD死亡リスク,ならびに全死亡リスクとの有意な関連はみられなかった。これらの結果から,日本人の日常食として糖質の割合が低め・蛋白質や脂肪の割合が高めである食事が,少なくとも女性において,CVD死亡ならびに全死亡リスクの低下と関連する可能性が示唆された。

Nakamura Y, et al.; NIPPON DATA Research Group. Low-carbohydrate diets and cardiovascular and total mortality in Japanese: a 29-year follow-up of NIPPON DATA80. Br J Nutr. 2014; 112: 916-24.pubmed

コホート
NIPPON DATA80。
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の10546人のうち,ベースラインデータに不備のある84人,冠動脈疾患または脳卒中既往のある153人および追跡不可能となった1109人を除いた9200人(男性4040人,女性5160人)を2009年まで29年間追跡(22万4610人・年)。

ベースラインと同じ1980年の国民栄養調査において,世帯単位で実施された秤量法食事記録(平均的な食事をとった連続3日間について実施)の結果をもとに,1995年の国民栄養調査での性別・年齢層ごとの平均摂取量データを用いて,個人の各栄養素摂取量を推算。

◇ 低糖質食スコア
Haltonらの報告pubmedに準じて,糖質,蛋白質,および脂肪のそれぞれについて,総摂取エネルギーに占める割合(%)の11分位により摂取量をスコア化(糖質については0[多い]~10点[少ない],蛋白質および脂肪については0[少ない]~10点[多い])。これらを足し合わせたものを「低糖質食スコア」(0~30点,点数が高いほど糖質の相対的な摂取量が少ない)とし,対象者を低糖質食スコアの十分位によるカテゴリーに分類した。

さらに,日本人の食習慣の特徴を考慮し,Haltonらが検討した動物性蛋白質・動物性脂肪による低糖質食スコア,ならびに植物性蛋白質・植物性脂肪による低糖質食スコアをアレンジした以下のそれぞれを用いた解析も行った。
・動物性食品による低糖質食スコア: 糖質の摂取量,動物性蛋白質の摂取量,ならびに飽和脂肪酸の摂取量を用いて算出
・植物性食品・魚介類による低糖質食スコア: 糖質の摂取量,植物性蛋白質の摂取量,ならびに一価不飽和脂肪酸および多価不飽和脂肪酸の摂取量を用いて算出
結 果
◇ 対象背景
糖質摂取量の11分位によるスコアの内訳は以下のとおりで,男女とも,全体でみると総摂取エネルギーの約60%が糖質,約15%が蛋白質,約20%が脂肪であった。

・女性
10点: 17.3%~53.5%,9点: 53.6%~56.5%,8点: 56.6%~58.5%,7点: 58.6%~60. 2%,6点: 60.3%~61.7%,5点: 61.8%~63.1%,4点: 63.2%~64.6%,3点: 64.7%~66.3%,2点: 66.4%~68.3%,1点: 68.4%~71.2%,0点: 71.3%~83.3%

・男性
10点: 18.8%~51.6%,9点: 51.7%~54.4%,8点: 54.5%~56.4%,7点: 56.5%~58.0%,6点: 58.1%~59.4%,5点: 59.5%~60.7%,4点: 60.8%~62.1%,3点: 62.2%~63.5%,2点: 63.6%~65.4%,1点: 65.5%~68.2%,0点: 68.3%~81.0%

低糖質食スコアごとに対象背景を比較すると,スコアが高い女性では,年齢が低く,果物・野菜・魚介類・肉類・卵の摂取量,ならびに専門職の割合が高かった。低糖質食スコアとBMI,血糖値および総摂取エネルギー量との関連はみられなかった。男性についても,これらと同様の傾向がみとめられた。

◇ 低糖質食スコアと心血管疾患(CVD)死亡リスク
・女性
低糖質食スコアの十分位によるカテゴリー間でCVD死亡の多変量調整ハザード比(HR)を比較した結果,スコアが高いほどCVD死亡リスクが低くなる有意な関連がみとめられた(+1カテゴリーごとのHR: 0.97,P for trend=0.021)(年齢,BMI,高血圧,喫煙,飲酒,総コレステロール,血糖,血清クレアチニン,食物繊維摂取量,Na/K摂取量の比,職位で調整)。
動物性食品による低糖質食スコアを用いた解析(+1カテゴリーごとのHR: 0.97,P for trend=0.038),ならびに植物性食品・魚介類による低糖質食スコアを用いた解析(+1カテゴリーごとのHR: 0.97,P for trend=0.046)でも,CVD死亡リスクとの有意な負の関連がみられた。

・男性
低糖質食スコアとCVD死亡リスクとの有意な関連はみとめられなかった。

・男女をあわせた解析
低糖質食スコアの十分位によるカテゴリー間でCVD死亡の多変量調整HRを比較した結果,スコアが高いほどCVD死亡リスクが低くなる傾向がみられたが,有意ではなかった(+1カテゴリーごとのHR: 0.98,P for trend=0.079)(多変量調整に用いた変数に加え,性で調整)。
動物性食品による低糖質食スコアを用いた解析では有意な関連はみられなかったが(+1カテゴリーごとのHR: 0.98,P for trend=0.140),植物性食品・魚介類による低糖質食スコアを用いた解析では,スコアが高いほどCVD死亡リスクが低くなる有意な関連がみとめられた(+1カテゴリーごとのHR: 0.98,P for trend=0.026)。

◇ 低糖質食スコアと全死亡リスク
・女性
低糖質食スコアの十分位によるカテゴリー間で全死亡の多変量調整ハザード比(HR)を比較した結果,スコアが高いほど全死亡リスクが低くなる有意な関連がみとめられた(+1カテゴリーごとのHR: 0.98,P for trend=0.029)。

・男性
低糖質食スコアと全死亡リスクとの有意な関連はみとめられなかった。

・男女をあわせた解析
低糖質食スコアの十分位によるカテゴリー間で全死亡の多変量調整HRを比較した結果,スコアが高いほど全死亡リスクが低くなる傾向がみられたが,有意ではなかった(+1カテゴリーごとのHR: 0.99,P for trend=0.090)。


◇ 結論
これまでに,糖質(炭水化物)の割合の少ない食事(低糖質食)による介入で体重減少や心血管系危険因子の改善効果がみられたとの臨床試験やメタ解析の結果が報告されているが,低糖質食の長期的な効果や安全性は明らかになっておらず,とくに,欧米にくらべて食事に占める糖質の割合が高い日本人でのエビデンスは少ない。そこで,日本人一般住民を対象とした前向き観察研究において,ベースライン時(1980年)の食事調査結果から算出した低糖質食スコアと,長期的な死亡リスクとの関連を検討した。29年間の追跡の結果,女性では,低糖質食スコアの高い(糖質の割合が少ない)食事をとっていた人ほど,心血管疾患(CVD)死亡リスク,および全死亡リスクが低いという有意な関連がみとめられた。一方,男性では,低糖質食スコアとCVD死亡リスク,ならびに全死亡リスクとの有意な関連はみられなかった。これらの結果から,日本人の日常食として糖質の割合が低め・蛋白質や脂肪の割合が高めである食事が,少なくとも女性において,CVD死亡ならびに全死亡リスクの低下と関連する可能性が示唆された。


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