[2015年文献] 果物と野菜の摂取量は,心血管疾患死亡リスクと関連する

これまでに,おもに西洋諸国のコホート研究から,果物と野菜の摂取量が増加は,心血管疾患(CVD)死亡(脳卒中死亡,冠動脈疾患[CHD]死亡)と負に関連することが報告されている。しかし,アジア諸国では,脂肪の摂取量が少ない,塩分や魚介類の摂取量が多いなど,西洋諸国とは食習慣が異なっている。そこで,全国から無作為に抽出された日本人一般住民を対象に,果物と野菜の摂取量と,全CVD・脳卒中・CHDによる死亡との関連を検討した。24年間の追跡の結果,果物と野菜の摂取量が多い人と,全CVD死亡リスク・CHD死亡リスクとのあいだには,有意な負の関連がみとめられ,脳卒中死亡リスクも低くなる傾向がみとめられた。心血管疾患の予防を目的として,塩分の摂取量を抑えることに加えて,果物と野菜を十分に摂取することが推奨される。

Okuda N, et al.; NIPPON DATA80 Research Group. Fruit and vegetable intake and mortality from cardiovascular disease in Japan: a 24-year follow-up of the NIPPON DATA80 Study. Eur J Clin Nutr. 2015; 69: 482-8.pubmed

コホート
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の10546人のうち,同年(1980年)に実施された国民栄養調査のデータとの照合により両調査データが確認された10422人から,住所不定の872人,80歳以上の150人,BMI,喫煙・飲酒習慣,降圧薬の使用,糖尿病・冠動脈疾患・脳卒中の既往に関するデータがない274人,1日の総摂取エネルギーが500 kcal未満または5000 kcal以上の14人を除いた9112人(男性4000人,女性5112人)を対象とした。追跡期間は2004年までの24年間。

1980年の国民栄養調査において世帯単位で実施された秤量法食事記録(土・日・祝日を除いた連続3日間)の結果をもとに,果物(ジュース,缶詰を含むすべての果物)と野菜(緑黄色+そのほかすべての野菜[漬け物を含む]+マッシュルーム[ジャガイモは含まず])の個人の摂取量を推算した。

果物・野菜の摂取量の四分位値(男女別)によって,以下のカテゴリーに分類した(g/1000 kcal,中央値[四分位範囲])。

 Q1(2278人): [男性]113(0~137),[女性]148(11~178)
 Q2(2278人): 154(137~170),201(178~225)
 Q3(2278人): 190(170~213),251(225~282)
 Q4(2278人): 249(213~576),332(282~748)
結 果
追跡期間における心血管疾患死亡は823人,そのうち,脳卒中死亡は385人,冠動脈疾患(CHD)死亡は165人。

◇ 対象背景
果物・野菜の摂取量ごとのカテゴリーの背景は以下のとおり。いずれのカテゴリーでも,女性は約56%であった。

 年齢(歳): [Q1]46.1,[Q2]48.0,[Q3]50.7,[Q4]55.2(P for trend<0.001)
 果物の摂取量(g/1000 kcal): 38,63,86,132(P for trend<0.001)
 野菜の摂取量(g/1000 kcal): 90,118,139,179(P for trend<0.001)
 魚介類の摂取量(g/1000 kcal): 49,49,52,56(P for trend<0.001)
 肉の摂取量(g/1000 kcal): 30,29,28,27(P for trend<0.001)
 牛乳・乳製品の摂取量(g/1000 kcal): 34,39,41,43(P for trend<0.001)
 大豆・豆類の摂取量(g/1000 kcal): 32,35,37,42(P for trend<0.001)
 降圧剤を使用している人の割合(%): 7.1%,7.9%,10.3%,16.0%
 糖尿病を罹患している人の割合(%): 2.3%,2.7%,3.3%,3.8%

◇ 果物・野菜の摂取量と死因別死亡リスク
果物と野菜の摂取量のカテゴリーごとの死因別死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。果物・野菜の摂取量が多いカテゴリーでは,もっとも低いカテゴリーにくらべ,心血管疾患死亡とCHD死亡のリスクが有意に低かった。また,脳卒中死亡については,多いほどリスクが下がる有意な負の関連がみとめられた(年齢,性別,BMI,喫煙習慣,飲酒習慣,ナトリウム摂取量,肉の摂取量,魚介類の摂取量,牛乳と乳製品の摂取量,大豆と豆類の摂取量で調整)。

・心血管疾患死亡
 Q1: 1,Q2: 0.85(0.69-1.05),Q3: 0.72(0.58-0.89),Q4: 0.74(0.61-0.91),P for trend =0.003
・脳卒中死亡
 Q1: 1,Q2: 1.10(0.81-1.50),Q3: 0.83(0.60-1.13),Q4: 0.80(0.59-1.09),P for trend =0.036
・CHD死亡
 Q1: 1,Q2: 0.39(0.23-0.66),Q3: 0.65(0.43-1.00),Q4: 0.57(0.37-0.87),P for trend =0.109

◇ 結論
これまでに,おもに西洋諸国のコホート研究から,果物と野菜の摂取量が増加は,心血管疾患(CVD)死亡(脳卒中死亡,冠動脈疾患[CHD]死亡)と負に関連することが報告されている。しかし,アジア諸国では,脂肪の摂取量が少ない,塩分や魚介類の摂取量が多いなど,西洋諸国とは食習慣が異なっている。そこで,全国から無作為に抽出された日本人一般住民を対象に,果物と野菜の摂取量と,全CVD・脳卒中・CHDによる死亡との関連を検討した。24年間の追跡の結果,果物と野菜の摂取量が多い人と,全CVD死亡リスク・CHD死亡リスクとのあいだには,有意な負の関連がみとめられ,脳卒中死亡リスクも低くなる傾向がみとめられた。心血管疾患の予防を目的として,塩分の摂取量を抑えることに加えて,果物と野菜を十分に摂取することが推奨される。


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