[2016年文献] 食事からの摂取エネルギー量が多い男性では全死亡リスクが高い

アジア人において総摂取エネルギーと死亡との関連を検討した,はじめての研究である。動物実験では,飼料のエネルギーを制限すると死亡や慢性疾患のリスクが低下することが報告されているものの,これまでの欧米のコホート研究からは,摂取エネルギーが少ないことと死亡リスク低下との関連は示されていない。そこで,日本人一般住民を対象に総摂取エネルギーと死亡リスクとの関連について検討した。29年間の追跡の結果,総摂取エネルギーが多い人では,性別を問わず冠動脈疾患死亡リスクが高く,男性に限っては全死亡および癌死亡リスクも高いことが示された。

Nagai M, et al.; NIPPON DATA80 Research Group.. Association of Total Energy Intake with 29-Year Mortality in the Japanese: NIPPON DATA80. J Atheroscler Thromb. 2016; 23: 339-54.pubmed

コホート
NIPPON DATA80。
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に居住し,ベースライン調査に回答した10546人(男性4639人,女性5907人)のうち,住所不定の909人,追跡不可能となった200人,総摂取エネルギーのデータがない85人,BMIのデータがない2人,最大の総摂取エネルギーが全体の下位0.5%(男性1184 kcal/日未満,女性970 kcal/日未満)または上位0.5%(それぞれ3392 kcal/日超,3264 kcal/日超)の92人,脳卒中既往のある107人,心筋梗塞既往のある43人,糖尿病既往のある275人,腎疾患既往のある337人,70歳以上の792人を除いた7704人(男性3373人,女性4331人)を,2009年末まで29年間追跡。

1980年の国民栄養調査において世帯単位で実施された秤量法食事記録(平均的な食事をとった連続3日間について実施)の結果をもとに,1995年の国民栄養調査での性別・年齢層ごとの平均摂取量データを用いて,総摂取エネルギー量および種々の栄養素の個人の摂取量を推算。
男女別に,総摂取エネルギー量の五分位による以下のカテゴリーに対象者を分類した。
[男性]
   Q1:2085.4 kcal/日未満(674人)
   Q2:2085.4 kcal/日以上,2322.8 kcal/日未満(675人)
   Q3:2322.8 kcal/日以上,2534.9 kcal/日未満(674人)
   Q4:2534.9 kcal/日以上,2801.2 kcal/日未満(675人)
   Q5:2801.2 kcal/日以上(675人)
[女性] 
   Q1:1656.7 kcal/日未満(863人)
   Q2:1656.7 kcal/日以上,1851.3 kcal/日未満(869人)
   Q3:1851.3 kcal/日以上,2027.3 kcal/日未満(866人)
   Q4:2027.3 kcal/日以上,2239.4 kcal/日未満(865人)
   Q5:2239.4 kcal/日以上(868人)
結 果
◇ 対象背景
総摂取エネルギーのカテゴリーごとにみると,男女とも,Q5ではQ1にくらべて年齢が若く,体重が重かった。男性では,BMIがQ5で高かったが,女性ではカテゴリー間の差はみられなかった。Q5では男女ともに喫煙未経験者が多く,男性では飲酒者の割合がQ5で高かった。男女とも,Q5では魚,肉,野菜,果実,炭水化物,脂肪,蛋白質,およびナトリウムの摂取量が多かった。女性では,収縮期血圧と降圧薬服用率がQ5で低かった。

◇ 総摂取エネルギーと全死亡リスク
追跡期間中に死亡したのは2289人(男性1250人,女性1039人)。

総摂取エネルギーのカテゴリーごとの全死亡の多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおりで,男性でのみ,総摂取エネルギーと全死亡リスクとの有意な関連がみとめられた(*年齢,性別,喫煙,飲酒,職種,職場での地位,BMI,収縮期血圧,血糖,総コレステロール,降圧薬の使用,魚の摂取量,肉の摂取量,野菜の摂取量,果実の摂取量,ナトリウムの摂取量[摂取量はいずれも四分位ごと]で調整)。

[全例]Q1:1.00,Q2:1.08(0.95-1.23),Q3:1.07(0.92-1.24),Q4:1.10(0.93-1.30),Q5:1.17(0.97-1.41),P for trend=0.146
[男性]Q1:1.00,Q2:1.07(0.90-1.28),Q3:1.11(0.91-1.36),Q4:1.18(0.94-1.48),Q5:1.45(1.12-1.86),P for trend=0.008
[女性]Q1:1.00,Q2:1.07(0.88-1.30),Q3:0.99(0.79-1.23),Q4:1.04(0.81-1.32),Q5:0.90(0.68-1.20),P for trend=0.527

男性における層別解析を行った結果,年齢(50歳未満/以上),飲酒(経験あり/なし),職種(ブルーカラー/ホワイトカラー),職場での地位(管理職/その他),BMI(18.5 kg/m2以上25.0 kg/m2未満/25.0 kg/m2以上)を問わず,総摂取エネルギーが高いほど全死亡リスクが高くなる傾向がみられたが,喫煙未経験者については,関連はみとめられなかった。

◇ 総摂取エネルギーと死因別死亡リスク
総摂取エネルギーと死因別(癌,心血管疾患,冠動脈疾患,心不全,脳卒中,脳梗塞)死亡リスクとの関連をみると,癌死亡リスク(男性のみ),および冠動脈疾患死亡リスクとの有意な関連がみられた。
総摂取エネルギーのカテゴリーごとの癌死亡および冠動脈疾患死亡の多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおり。

・癌死亡
[男性]Q1:1.00,Q2:1.19(0.89-1.59),Q3:1.20(0.86-1.67),Q4:1.47(1.03-2.10),Q5:1.50(0.999-2.24),P for trend=0.038
[女性]Q1:1.00,Q2:1.32(0.94-1.85),Q3:1.10(0.74-1.64),Q4:1.22(0.80-1.87),Q5:1.00(0.61-1.64),P for trend=0.905

・冠動脈疾患死亡
[男性]Q1:1.00,Q2:0.66(0.28-1.58),Q3:1.41(0.59-3.34),Q4:2.40(0.97-5.97),Q5:2.63(0.95-7.28),P for trend=0.016
[女性]Q1:1.00,Q2:1.47(0.71-3.04),Q3:1.16(0.48-2.84),Q4:2.52(1.05-6.04),Q5:2.91(1.02-8.29),P for trend=0.032


◇ 結論
アジア人において総摂取エネルギーと死亡との関連を検討した,はじめての研究である。動物実験では,飼料のエネルギーを制限すると死亡や慢性疾患のリスクが低下することが報告されているものの,これまでの欧米のコホート研究からは,摂取エネルギーが少ないことと死亡リスク低下との関連は示されていない。そこで,日本人一般住民を対象に総摂取エネルギーと死亡リスクとの関連について検討した。29年間の追跡の結果,総摂取エネルギーが多い人では,性別を問わず冠動脈疾患死亡リスクが高く,男性に限っては全死亡および癌死亡リスクも高いことが示された。


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