[2019年文献] 従業員数29人以下の企業に勤務する人では,500人以上の企業に勤務する人に比して心血管疾患死亡リスクが高かった

いくつかの研究から,社会的・経済的地位の低い人は心血管疾患(CVD)死亡リスクが高いことが報告されている。また,大規模企業の従業員は,小規模企業と比べて賃金や労働時間の面で労働環境がよいため,健康的な生活が可能であると考えられている。しかし,その多くが欧米での研究で,日本からの報告は少ない。そこで,全国から無作為に抽出された日本人一般住民の男性を対象に,労働環境とCVD死亡ならびに全死亡との関連を検討した。20年間の追跡の結果,小規模企業(従業員が29人以下)に勤める人は,大規模企業(従業員が500人以上)に勤める人と比べて,CVD死亡リスクが有意に高かった。

Okuda N, et al.; NIPPON DATA90 Research Group. Association of Work Situation With Cardiovascular Disease Mortality Risk Among Working-Age Japanese Men - A 20-Year Follow-up of NIPPON DATA90. Circ J. 2019; 83: 1506-13.pubmed

コホート
1990年の第4次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30~59歳の男性2256人のうち,脳卒中または虚血性心疾患既往のある人,データに不備のある人,非正規雇用(就業期間が限られている)の人,働いていない人を除外した2091人。追跡期間は2010年までの20年間。

労働環境に関しては,国民生活基礎調査への回答を用いて,「正規雇用の従業員」,「自営業の人または企業の役員」の2グループに分類した。

 [G1]正規雇用の従業員,[G2]自営業の人または企業の役員

さらに,正規雇用の従業員を,以下の3つのグループに分類した。

 [G1_A]大規模企業(従業員500人以上)または公務員,[G1_B]中規模企業(30~499人),[G1_C]小規模企業(29人以下)。
結 果
追跡期間中の全死亡は225人。そのうち心血管疾患(CVD)で死亡した人は61人。

◇ 対象背景
労働環境のグループごとの対象背景は以下のとおり。

 人数(人): [G1]1407,[G2]684; [G1_A]602,[G1_B]471,[G1_C]334
 年齢(歳): 44.0,46.9(P<0.001); 43.9,44.2,44.0(P=0.737)
 喫煙習慣: 58.9%,58.9%; 53.5%,62.4%,63.8%(P=0.006)
 飲酒習慣: 63.3%,60.8%; 62.8%,65.6%,60.8%
 運動習慣: 20.8%,15.8%(P=0.006); 25.7%,16.1%,18.6%(P<0.001)
 BMI(kg/m2): 23.1,23.4(P=0.030); 23.2,23.2,22.8
 自覚のあるCVDリスク因子
  高血圧: 14.8%,16.8%; 15.8%,15.1%,12.6%
  糖尿病: 4.1%,4.2%; 4.2%,5.1%,2.4%
  脂質異常症: 6.0%,6.0%; 5.8%,7.0%,5.1%
 降圧薬服用: 5.3%,8.5%(P=0.005); 5.0%,5.9%,4.8%
 糖尿病治療薬服用: 1.6%,1.9%; 1.8%,1.7%,1.2%
 脂質低下薬服用: 1.1%,2.0%; 1.5%,0.8%,0.9%

◇ 労働環境のグループと全死亡リスクならびにCVD死亡リスクとの関連
・労働環境のグループ(正規雇用の従業員 vs. 自営業の人または企業の役員)ごとにみた,全死亡ならびにCVD死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
全死亡,CVD死亡ともに,正規雇用の従業員と自営業の人または管理職とのあいだに,有意な差はみとめられなかった(年齢,BMI,喫煙,飲酒,食塩摂取量,果物・野菜の摂取量,居住する自治体の規模[20万人未満 or 20万人以上],降圧薬・糖尿病治療薬・脂質低下薬の服用,収縮期血圧値,拡張期血圧値,HbA1c値,血清総コレステロール値,血清HDL-C値,血清トリグリセリド値で調整)。

 全死亡: [G1: 対照]1,[G2]0.90(0.68-1.20),P=0.471
 CVD死亡: 1,0.94(0.54-1.63),P=0.824


・正規雇用の従業員における,労働環境の3つのグループごとにみた,全死亡ならびにCVD死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。
大規模企業に勤める人と比べて,小規模企業に勤める人ではCVD死亡リスクが有意に高かった。

 全死亡: [G1_A: 対照]1,[G1_B]1.25(0.83-1.88),[G1_C]1.29(0.82-2.02)
 CVD死亡: 1,1.68(0.67-4.23),2.85(1.16-7.04)P=0.023

◇ 結論
いくつかの研究から,社会的・経済的地位の低い人は心血管疾患(CVD)死亡リスクが高いことが報告されている。また,大規模企業の従業員は,小規模企業と比べて賃金や労働時間の面で労働環境がよいため,健康的な生活が可能であると考えられている。しかし,その多くが欧米での研究で,日本からの報告は少ない。そこで,全国から無作為に抽出された日本人一般住民の男性を対象に,労働環境とCVD死亡ならびに全死亡との関連を検討した。20年間の追跡の結果,小規模企業(従業員が29人以下)に勤める人は,大規模企業(従業員が500人以上)に勤める人と比べて,CVD死亡リスクが有意に高かった。


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