[2020年文献] 世帯単位で塩分摂取量が多い人は心血管疾患リスクが高い

アジア諸国におけるおもな塩分摂取源は,家庭の食事で用いる調味料または食卓塩である。疫学研究から,塩分摂取量が多い人ほど血圧が高く,心血管疾患リスクが高くなることが報告されているが,世帯単位での塩分摂取量と疾患との関連を調べた報告は少ない。そこで,全国から無作為に抽出された日本人一般住民を対象に,世帯単位での塩分摂取量と,全死亡ならびに心血管疾患(CVD)死亡との関連を検討した。24年間の追跡の結果,世帯単位の総エネルギー摂取量1000 kcalあたりの塩分摂取量が増加すると,全死亡ならびにCVD,冠動脈疾患(CHD),脳卒中による死亡リスクが有意に高くなった。また,塩分摂取量が多い世帯ほど,全死亡ならびにCVD,CHD,脳卒中による死亡リスクが高くなる傾向がみられた。塩分摂取量を減らすためには,世帯単位で食事内容を考慮することが重要である。

Shima A, et al.; NIPPON DATA80 Research Group. Relationship of household salt intake level with long-term all-cause and cardiovascular disease mortality in Japan: NIPPON DATA80. Hypertens Res. 2020; 43: 132-139.pubmed

コホート
1980年の第3次循環器疾患基礎調査に登録され,無作為に抽出された日本各地の300地区に住む30歳以上の10546人のうち,同居家族のいる10147人が対象。そのうち,極端にエネルギー摂取量が多いまたは少ない92人,80歳以上の164人,心筋梗塞既往のある48人,脳卒中既往のある101人,栄養調査の結果に不備のある114人,自己記入式調査票への回答に不備のある36人,健診結果に不備のある14人,追跡不可能だった886人を除外した8702人(男性3871人,女性4831人)を解析対象とした。追跡期間は2004年までの24年間。

1980年の国民栄養調査において世帯単位で実施された秤量法食事記録(土・日・祝日を除いた連続3日間)の結果をもとに,世帯単位の塩分摂取量を算出した。

世帯単位の塩分摂取量(総エネルギー摂取量1000 kcalあたり)の四分位値によって,対象者を以下の4つのカテゴリーに分類した(g/1000 kcal)。
[Q1]≦4.9,[Q2]4.9~5.9,[Q3]5.9~7.2,[Q4]≧7.2
結 果
追跡期間中の死亡は2360人。そのうち,心血管疾患(CVD)死亡は787人(冠動脈疾患[CHD]死亡165人,脳卒中死亡361人)。

◇対象背景
ベースライン時の対象背景は以下のとおり。世帯単位でみた塩分摂取量の平均値は,6.25 g/1000 kcalであった。

 年齢(歳): [全体]49.4([男性]49.4,[女性]49.3)
 BMI(kg/m2): 22.7(22.6,22.9)
 収縮期血圧(mmHg): 135(138,133)
 拡張期血圧(mmHg): 81(84,80)
 降圧薬服用: 10.3%(9.5%,10.8%)
 喫煙: 33.0%(63.8%,8.4%)
 飲酒: 23.1%(48.5%,2.7%)
 世帯人数
  2人: 15.7%(15.1%,16.1%)
  3~5人: 63.3%(63.2%,63.4%)
  6人以上: 21.0%(21.6%,20.5%)

◇ 世帯単位の塩分摂取量の増加と死亡リスクとの関連
世帯単位の塩分摂取量(総エネルギー摂取量1000 kcalあたり)が2.0 g増加したときの,死亡リスクの多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。塩分摂取量の多い世帯の人ほど,全死亡ならびにCVD,CHD,脳卒中死亡リスクが有意に高かった(性別,年齢,BMI,喫煙,飲酒,労働状況(軽~重労働),カリウム摂取量,飽和脂肪酸摂取量,ω3多価不飽和脂肪酸摂取量で調整)。

全死亡: 1.07(1.02-1.11),CVD死亡: 1.11(1.03-1.19),CHD死亡: 1.25(1.08-1.44),脳卒中死亡: 1.12(1.00-1.25)

◇ 世帯単位の塩分摂取量と死亡リスクとの関連
世帯単位の塩分摂取量によるカテゴリーごとの死亡リスクの多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。塩分摂取量が多い世帯の人ほど,全死亡,CVD死亡,CHD死亡,脳卒中死亡リスクが高くなる有意な傾向がみられた。

全死亡: [Q1]1.00,[Q2]0.92(0.82-1.04),[Q3]1.04(0.92-1.17),[Q4]1.08(0.95-1.23),P for trend=0.004
 CVD死亡: 1.00,0.95(0.76-1.17),1.08(0.88-1.33),1.17(0.93-1.46),P for trend=0.007
  CHD死亡: 1.00,1.08(0.67-1.73),1.00(0.61-1.61),1.49(0.92-2.40), P for trend=0.002
  脳卒中死亡: 1.00,1.13(0.82-1.57),1.38(1.01-1.90),1.39(0.99-1.95), P for trend=0.044

◇ 結論
アジア諸国におけるおもな塩分摂取源は,家庭の食事で用いる調味料または食卓塩である。疫学研究から,塩分摂取量が多い人ほど血圧が高く,心血管疾患リスクが高くなることが報告されているが,世帯単位での塩分摂取量と疾患との関連を調べた報告は少ない。そこで,全国から無作為に抽出された日本人一般住民を対象に,世帯単位での塩分摂取量と,全死亡ならびに心血管疾患(CVD)死亡との関連を検討した。24年間の追跡の結果,世帯単位の総エネルギー摂取量1000 kcalあたりの塩分摂取量が増加すると,全死亡ならびにCVD,冠動脈疾患(CHD),脳卒中による死亡リスクが有意に高くなった。また,塩分摂取量が多い世帯ほど,全死亡ならびにCVD,CHD,脳卒中による死亡リスクが高くなる傾向がみられた。塩分摂取量を減らすためには,世帯単位で食事内容を考慮することが重要である。


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