[2011年文献] 身長と脳卒中発症リスクは負の関連を示す

幼少期の社会・身体的な状況を反映するサロゲート指標としての身長が,脳卒中や冠動脈疾患の発症リスクと負に関連するという仮説について,大規模多施設前向きコホート研究における検討を行った。16年間(中央値)の追跡の結果,身長と脳卒中,出血性脳卒中,および虚血性脳卒中発症リスクとのあいだに有意な負の関連がみられたが,冠動脈疾患との関連はなかった。身長と脳卒中発症リスクとの関連に対する教育年数(中学卒業/高校卒業以上)の影響はみとめられなかった。

Honjo K, et al. Adult height and the risk of cardiovascular disease among middle aged men and women in Japan. Eur J Epidemiol. 2011; 26: 13-21.pubmed

コホート
JPHCコホートI。
1990年に対象4保健所の管轄下14行政区内に居住していた,日本国籍をもつ40~59歳の54380人のうち,癌・脳卒中・心筋梗塞の既往がなく,かつ,同年に実施された質問票調査と市町村の健診の両方を受けた15564人(男性5703人,女性9861人)を,2006年1月1日まで16.0年間(中央値)追跡。

健診で測定された身長の四分位により,対象者を男女別にQ1[低い]~Q4の4つのカテゴリーに分類した(四分位数の記載なし)。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は男性50.1歳,女性50.4歳で,平均身長はそれぞれ162.8 cm,150.8 cm。

男女をあわせて身長のカテゴリー(Q1~Q4)ごとに対象背景を比較した結果,身長が高いほど有意に高い値を示していたのは婚姻率,喫煙率,週1回以上運動する人の割合,飲酒量,高い心理的ストレスを自覚している人の割合,ホワイトカラー職の割合,総摂取エネルギー量,および脳卒中や冠動脈疾患家族歴をもつ人の割合で,有意に低い値を示していたのは年齢,中学卒業の人の割合,BMI,収縮期血圧,総コレステロール値,および脂質異常症の割合であった。

◇ 身長と心血管疾患発症リスク
追跡期間中に脳卒中を発症したのは565例で,冠動脈疾患を発症したのは90例であった。

身長のカテゴリーごとにみた心血管疾患発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,全脳卒中,出血性脳卒中および虚血性脳卒中については身長が低いほど有意にリスクが高いという有意な負の関連がみられたが,冠動脈疾患については関連はみられなかった。
年齢,性,行政区,教育歴,職業,BMI,喫煙,飲酒,身体活動,心理的ストレス,高血圧,糖尿病,高脂血症,脳卒中・冠動脈疾患家族歴,婚姻状況および閉経状況[女性のみ]で調整)

・全脳卒中(P for trend=0.0004)
  Q1: 1.63(1.25-2.12),Q2: 1.50(1.15-1.96),Q3: 1.36(1.04-1.78),Q4: 1(対照)
  身長+1 SDあたりの多変量調整ハザード比: 0.82(0.74-0.90)

・出血性脳卒中(P for trend=0.002)
  1.95(1.30-2.91),2.03(1.36-3.02),1.78(1.20-2.66),1
  身長+1 SDあたり: 0.80(0.70-0.92)

・虚血性脳卒中(P for trend=0.05)
  1.39(0.989-1.99),1.15(0.79-1.66),1.08(0.75-1.56),1
  身長+1 SDあたり: 0.83(0.73-0.95)

・冠動脈疾患(P for trend=0.36)
  0.85(0.46-1.58),0.74(0.39-1.40),1.12(0.63-1.99),1
  身長+1 SDあたり: 1.08(0.85-1.38)

◇ 層別解析
年齢層(40~49/50~59歳)ごとに解析を行った結果,身長+1 SDあたりの全脳卒中の多変量調整ハザード比はそれぞれ0.76(95%信頼区間0.64-0.91),0.84(0.75-0.94)で,有意な相互作用はみとめられなかった(P=0.61)。

教育年数(中学卒業/高校卒業以上)ごとにみると,身長+1 SDあたりの全脳卒中の多変量調整ハザード比はそれぞれ0.85(0.75-0.95),0.78(0.67-0.91)で,有意な相互作用はみとめられなかった(P=0.42)。


◇ 結論
幼少期の社会・身体的な状況を反映するサロゲート指標としての身長が,脳卒中や冠動脈疾患の発症リスクと負に関連するという仮説について,大規模多施設前向きコホート研究における検討を行った。16年間(中央値)の追跡の結果,身長と脳卒中,出血性脳卒中,および虚血性脳卒中発症リスクとのあいだに有意な負の関連がみられたが,冠動脈疾患との関連はなかった。身長と脳卒中発症リスクとの関連に対する教育年数(中学卒業/高校卒業以上)の影響はみとめられなかった。


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