[2013年文献] 大気中粒子状物質への長期的な曝露は心筋梗塞発症リスク

粒子状物質による大気汚染への長期的な曝露の影響については,これまでに心血管疾患死亡リスクとの関連が報告されているが,心血管疾患の発症リスクとの関連をみた研究はわずかであり,とくに男性での検討は実施されていない。そこで,若年の日本人一般住民の男女を16年間追跡した大規模コホート研究において,粒子状物質への長期的な暴露と死因別死亡および心血管疾患発症リスクとの関連を検討した(男性での発症リスクを検討したはじめての研究)。その結果,若年の日本人男女において,粒子状物質への暴露は心筋梗塞発症リスクを上昇させることが示され,とくに女性および喫煙者への影響が大きい可能性が示唆された。

Nishiwaki Y, et al.; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. Long-term exposure to particulate matter in relation to mortality and incidence of cardiovascular disease: the JPHC Study. J Atheroscler Thromb. 2013; 20: 296-309.pubmed

コホート
JPHCコホートI,II。
一般環境大気測定局がある9保健所管内に居住し,質問票に回答した40~59歳の80587人のうち,
・死亡リスクに関する解析: 肺癌,心筋梗塞,狭心症,または脳卒中の既往がない78057人(男性37121人,女性40936人)を2008年12月31日まで追跡(追跡期間中央値16.0年,1215721人・年)。
・発症リスクに関する解析: 死亡リスクに関する解析対象者のうち,疾患発症に関するデータも得られている7保健所管内に居住する62142人(男性30238人,女性31904人)を2005年12月31日まで追跡(826453人・年)。

大気中粒子状物質の平均年間濃度は,国立環境研究所のデータを使用。
結 果
◇ 対象背景
各保健所管内(岩手,秋田,新潟,長野,沖縄,茨城,高知,大阪,東京)の対象者数,男性の割合,平均年齢,喫煙状況,および粒子状物質(PM)の濃度,二酸化窒素(NO2)濃度,二酸化硫黄(SO2)濃度はそれぞれ以下のとおり。

 人数: 9141人,11551人,1929人,10610人,10244人,13512人,5155人,9007人,6908人
 男性の割合: 46.3%,46.7%,48.1%,49.8%,49.4%,50.9%,47.9%,44.8%,41.2%
 平均年齢: 49.3歳,49.8歳,50.1歳,49.7歳,49.0歳,48.5歳,48.7歳,46.9歳,45.8歳
 喫煙状況
   喫煙未経験:63.1%,60.9%,59.9%,55.4%,60.0%,52.6%,58.7%,54.5%,51.0%
   禁煙:8.3%,11.1%,11.5%,13.0%,13.7%,11.1%,9.7%,12.1%,14.2%
   喫煙中:28.6%,28.0%,28.7%,31.6%,26.3%,36.4%,31.7%,33.4%,34.8%
 PM濃度(μg/m3): 21.1,17.2,21.9,21.9,22.6,24.9,28.7,29.7,43.7
 NO2濃度(ppb): 13.8,10.3,9.7,11.3,6.5,11.6,11.9,27.7,27.1
 SO2濃度(ppb): 4.2,2.6,1.3,3.7,1.1,3.7,5.2,5.9,4.2

◇ PM濃度と死亡との関連
追跡期間中の死亡は5597人。うち心血管疾患(CVD)死亡は1464人,肺癌死亡は507人であった。
PM濃度10 μg/m3上昇あたりの死因別死亡の多変量調整ハザード比(HR)*は以下のとおりで,PM濃度が高くなると冠動脈性心疾患(CHD)死亡リスクが増加する可能性が示されたが,脳卒中死亡およびCVD死亡リスクとは負の関連がみられ,肺癌死亡リスクとの関連はみられなかった。
*年齢,性別(男女あわせた解析の場合のみ),BMI,喫煙状況,受動喫煙,飲酒消費量により調整(以下同様)

 CHD死亡:HR 1.11(95%信頼区間 0.92-1.33)
 脳卒中死亡:HR 0.69(0.59-0.82)
 CVD死亡:HR 0.78(0.71-0.87)
 肺癌死亡:HR 0.91(0.78-1.08)

性別または喫煙状況での層別解析を行っても,同様の結果が得られた。

◇ PM濃度と疾患発症との関連
追跡期間中にCVDを発症したのは2720人,肺癌を発症したのは512人。
PM濃度10 μg/m3上昇あたりのCVDおよび肺癌発症の多変量調整HR*は以下のとおりで,PM濃度が高くなると心筋梗塞発症リスクが有意に増加すること(とくに女性および喫煙者),ならびに喫煙者のCHD発症リスクが有意に増加することが示された。

・CHD
   全例:HR 1.25(0.95-1.64)
    男性:HR 1.14(0.84-1.55)
    女性:HR 1.63(0.91-2.92)
    喫煙者:HR 1.39(1.01-1.93)
    非喫煙者:HR 1.03(0.62-1.69)

・心筋梗塞
   全例:HR 1.37(1.03-1.82)
    男性:HR 1.21(0.88-1.68)
    女性:HR 1.99(1.07-3.70)
    喫煙者:HR 1.52(1.08-2.13)
    非喫煙者:HR 1.15(0.67-1.98)

・脳卒中
   全例:HR 0.68(0.59-0.78)
    男性:HR 0.79(0.66-0.95)
    女性:HR 0.51(0.40-0.64)
    喫煙者:HR 0.76(0.62-0.92)
    非喫煙者:HR 0.60(0.48-0.74)

・CVD
   全例:HR 0.76(0.67-0.87)
    男性:HR 0.85(0.72-0.99)
    女性:HR 0.60(0.48-0.75)
    喫煙者:HR 0.86(0.73-1.02)
    非喫煙者:HR 0.65(0.54-0.80)

・肺癌
   全例:HR 0.74(0.55-1.00)
    男性:HR 0.77(0.54-1.10)
    女性:HR 0.68(0.39-1.19)
    喫煙者:HR 0.88(0.62-1.25)
    非喫煙者:HR 0.61(0.34-1.09)


◇ 結論
粒子状物質による大気汚染への長期的な曝露の影響については,これまでに心血管疾患死亡リスクとの関連が報告されているが,心血管疾患の発症リスクとの関連をみた研究はわずかであり,とくに男性での検討は実施されていない。そこで,若年の日本人一般住民の男女を16年間追跡した大規模コホート研究において,粒子状物質への長期的な暴露と死因別死亡および心血管疾患発症リスクとの関連を検討した(男性での発症リスクを検討したはじめての研究)。その結果,若年の日本人男女において,粒子状物質への暴露は心筋梗塞発症リスクを上昇させることが示され,とくに女性および喫煙者への影響が大きい可能性が示唆された。


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