[2014年文献] 居住地域の地理的剥奪の度合いと人口密度は死亡リスクと関連する

日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究において,市区町村より小さい単位の「町丁・字」における,地区の社会経済状況の水準を示す地理的剥奪指標(ADI)ならびに人口密度と,死亡リスクとの関連を検討した。21年間追跡した結果,居住地区のADIの高値と人口密度の高値は,ともに全死亡の危険因子であった。また,ADIと人口密度を組み合わせた検討を行ったところ,人口密度がもっとも高い地域に住む人では,ADIと死亡リスクとの関連が強くなった。

Nakaya T, et al.; Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. Associations of all-cause mortality with census-based neighbourhood deprivation and population density in Japan: a multilevel survival analysis. PLoS One. 2014; 9: e97802.pubmed

コホート
JPHC コホートI。
対象4保健所(岩手県二戸,秋田県横手,長野県佐久,沖縄県石川[現・うるま市])の管轄行政区内に居住し,1990年1月のベースライン調査に回答した40~59歳の男女43149人(回答率79%)のうち,日本国籍をもたない7人,追跡開始前に転居した2人,癌,脳卒中または心血管疾患の既往のある1549人を除いた41591人から,さらに住所を特定できない4人,世帯数25未満の「町丁・字」に居住している263人,ベースラインの質問票で必要項目への回答のない3869人を除いた37455人(263「町丁・字」に居住する男性18008人および女性19447人)を2010年12月31日まで21年間追跡。

対象者が居住する地域の社会経済的豊かさについては,行政単位として最小の「町丁・字」ごとに地理的剥奪指標(area deprivation index: ADI,地区の社会経済状況の水準を示す)を算出した。 ADIと人口密度は,それぞれの値により,もっとも低いカテゴリー(ADI: Q1,人口密度: Q’1)からもっとも高いカテゴリー(ADI: Q4,人口密度: Q’4)の,それぞれ4つのカテゴリーに分けて検討を行った。

国勢調査結果に基づいて,高齢者カップル世帯,高齢者単身世帯,シングルマザー世帯の割合,販売・セールス業就業者,農業就業者,ブルーカラー職就業者,非就業者の割合などの変数を重み付けしたうえで合計した複合的な指標。ADIの値が大きいほど,剥奪の度合いが大きい,すなわち社会経済的に豊かではないとみなされる。
結 果
追跡期間における死亡は4666人(男性3112人,女性1554人)。追跡不能は130人(男性68人,女性62人)。

◇ 対象背景
[全体],[ADI]Q1+Q2 vs. Q3+Q4,[人口密度]Q’1+Q’2 vs. Q’3+Q’4
 男性: [全体]48.1%,[ADI](47.9% vs. 48.3%),[人口密度](48.2% vs. 47.9%)
 BMI(25.0~30.0 kg/m2): 26.1%,(22.9% vs. 29.4%),(24.9% vs. 27.2%)
 BMI(>30 kg/m2): 2.7%,(1.8% vs. 3.5%),(2.0% vs. 3.4%)
 喫煙率: 28.3%,(29.4% vs. 27.3%),(28.6% vs. 28.2%)
 非飲酒: 50.0%,(46.0% vs. 54.1%),(49.6% vs. 50.3%)
 飲酒(>450 g/日): 8.0%,(9.3% vs. 6.6%),(8.5% vs. 7.5%)
 糖尿病: 3.7%,(3.8% vs. 3.7%),(3.9% vs. 3.5%)
 高血圧: 14.2%,(15.2% vs. 13.1%),(14.7% vs. 13.6%)

◇ 居住地域のADIと全死亡リスクとの関連
居住地域のADIのカテゴリーごとの全死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。ADIの高い地区に住んでいることは,全死亡の危険因子であった(年齢,性,保健所の管轄地区,糖尿病・高血圧の既往,BMI,喫煙,飲酒,運動習慣で調整)。

 [Q1]: 1.00,[Q2]: 1.018(0.925-1.120),[Q3]: 1.136(1.020-1.264),[Q4]: 1.166(1.007-1.352),P for trend=0.0172

◇ 居住地域の人口密度と死亡リスクとの関連
居住地域の人口密度のカテゴリーごとの全死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。人口密度の高い地区に住んでいることは,全死亡の危険因子であった。

 [Q’1]: 1.00,[Q’2]: 1.110(1.015-1.215),[Q’3]: 1.109(1.007-1.222),[Q’4]: 1.183(1.060-1.321),P for trend=0.0054

◇ ADI+人口密度と死亡リスクとの関連
居住地域の人口密度のカテゴリー別にみた,ADIのカテゴリーごとの全死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。居住地域の人口密度がもっとも高いカテゴリー(Q’4)のなかでみると,ADI値が高い地域に住んでいる人ほど死亡リスクが高くなる有意な関連がみられた(年齢,性,保健所の管轄地区,糖尿病,高血圧の既往,BMIにより調整)。

・人口密度[Q’1]
[Q1]1.128(0.880-1.445),[Q2]1.000(対照),[Q3]1.007(0.879-1.154),[Q4]1.026(0.839-1.255),P for trend=0.5263
・人口密度[Q’2]
[Q1]1.033(0.883-1.208),[Q2]1.045(0.895-1.221),[Q3]1.210(1.029-1.423),[Q4]1.067(0.712-1.599),P for trend=0.6922
・人口密度[Q’3]
[Q1]1.106(0.928-1.318),[Q2]1.030(0.885-1.199),[Q3]1.323(1.082-1.617),[Q4]1.272(1.028-1.574),P for trend=0.0714
・人口密度[Q’4]
[Q1]1.023(0.856-1.223),[Q2]1.108(0.875-1.403),[Q3]1.448(1.149-1.824),[Q4]1.469(1.196-1.804),P for trend=0.0004

◇ 結論
日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究において,市区町村より小さい単位の「町丁・字」における,地区の社会経済状況の水準を示す地理的剥奪指標(ADI)ならびに人口密度と,死亡リスクとの関連を検討した。21年間追跡した結果,居住地区のADIの高値と人口密度の高値は,ともに全死亡の危険因子であった。また,ADIと人口密度を組み合わせた検討を行ったところ,人口密度がもっとも高い地域に住む人では,ADIと死亡リスクとの関連が強くなった。


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