[2015年文献] 農林水産業の男性では,就業中の座位の時間が長いと全死亡リスクが高い

日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究により,就業中に座位で過ごす時間の長さと全死亡リスクとの関連について,その他の身体活動も考慮した検討を行った。平均10.1年間の追跡の結果,第一次産業(農林水産業)に従事する男性では,就業中の座位の時間が1日3時間以上の場合に,1日1時間未満にくらべて有意に全死亡リスクが高いことが示されたが,第二・三次産業の男性,および女性では有意な関連はみられなかった。

Kikuchi H, et al.; Japan Public Health Centre (JPHC) study group. Occupational sitting time and risk of all-cause mortality among Japanese workers. Scand J Work Environ Health. 2015; 41: 519-28.pubmed

コホート
JPHCコホートI・II。
対象11保健所の管轄行政区内に居住し,ベースライン(コホートI: 1990~1994年,コホートII: 1993~1994年)から10年後に実施された第3次調査(ベースライン)に参加した40~69歳の12万6028人(回答率79%)のうち,75歳以上の8891人(後期高齢者の医療制度が異なるため),癌の既往のある4683人,心血管疾患の既往のある5801人,日常生活における身体活動に支障があると回答した1305人,就業していないか家事のみの24483人,就業時間が1日3時間以下の19407人,ベースラインからさかのぼって5年以内に転職していた15189人,一次産業と二・三次産業の両方に従事していた3941人,およびデータに不備のある4261人を除いた,日本国籍をもつ36516人(男性19863人,女性16653人)を,2011年12月31日まで平均10.1年間追跡(36万8120人・年)。

ベースライン時の自己記入式質問票調査により,就業中の動作・姿勢(座位/立位/歩く/力仕事)とそれぞれの時間の長さ(なし/1時間未満/1時間以上3時間未満/3時間以上5時間未満/5時間以上7時間未満/7時間以上9時間未満/9時間以上11時間未満/11時間超)を調査。
その結果から,就業中に座位で過ごす時間の長さについて,対象者を以下のいずれかのカテゴリーに分類した。
  短い(1日1時間未満):
  中程度(1日1時間以上3時間未満)
  長い(1日3時間以上)
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は男性58.7歳,女性59.0歳。
職種別にみると,第二・三次産業(勤務者,自営業,専門職)の男性では,第一次産業(農林水産業)にくらべて喫煙率が高く,飲酒量が多かった。

◇ 就業中の座位の時間と全死亡リスク
性および職種ごとにみた,就業中の座位の時間と全死亡の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,第一次産業の男性でのみ,座位の時間が「長い」カテゴリーで「短い」に比した有意なリスク増加がみとめられた。
年齢,性,地区,喫煙,飲酒,BMI,糖尿病既往,就業中に歩く時間,就業中の力仕事の時間,余暇の中等度~活発な身体活動の時間,および高血圧で調整)

・男性
  第一次産業: 短い1.00(対照),中程度1.16(0.94-1.43),長い1.23(1.00-1.51)
  第二・三次産業: 1.00,0.91(0.77-1.08),0.87(0.75-1.01)

・女性
  第一次産業: 1.00,1.01(0.73-1.42),1.34(0.97-1.84)
  第二・三次産業: 1.00,1.09(0.80-1.51),1.03(0.77-1.39)

全死亡リスクに対する,就業中の座位の時間と職種の相互作用は有意であった(P<0.001)。

以上の結果は,ベースライン後の早期死亡を除外した解析を行っても同様であった。

◇ 層別解析
具体的な職種(男性では農業・勤務者・自営業,女性では専門職・農業・勤務者・自営業)ごとに,就業中の座位の時間と全死亡リスクとの関連を検討した結果,農業に従事する男性では,座位の時間が「長い」カテゴリーで「短い」に比した有意なリスク上昇がみとめられたが(多変量調整ハザード比1.26,95%信頼区間1.01-1.56),その他のカテゴリーでは有意な差はみられなかった。


◇ 結論
日本人一般住民を対象とした大規模前向きコホート研究により,就業中に座位で過ごす時間の長さと全死亡リスクとの関連について,その他の身体活動も考慮した検討を行った。平均10.1年間の追跡の結果,第一次産業(農林水産業)に従事する男性では,就業中の座位の時間が1日3時間以上の場合に,1日1時間未満にくらべて有意に全死亡リスクが高いことが示されたが,第二・三次産業の男性,および女性では有意な関連はみられなかった。


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