[2017年文献] 調査前5年間に一度でも非就業の状況にあった人では,継続して就業していた人よりも脳卒中発症・死亡リスクが高い

大規模な多施設前向きコホート研究において,就業状況の変化が長期的な脳卒中発症・死亡リスクにおよぼす影響を検討した。ベースラインの直前5年間に一度でも非就業の状況にあった人では,継続して就業していた人にくらべて脳卒中発症リスク・死亡リスクとも有意に高く,この結果は脳卒中病型別にみても同様であった。また,就業状況別にみると,失業した人については,男女とも有意な脳卒中発症・死亡リスクがみられたのに対し,再就業した人については,男性でのみ有意な脳卒中発症・死亡リスクがみとめられた。

Eshak ES, et al. Changes in the Employment Status and Risk of Stroke and Stroke Types. Stroke. 2017; 48: 1176-1182.pubmed

コホート
JPHCコホートI(初回調査: 1990年)およびコホートII(1993年)。
対象11保健所のうち,脳卒中発症データを有する9つの保健所の管轄行政区内に居住し,初回調査,ならびに5年後に実施された第2回調査に参加した40~59歳の男性22845人および女性22122人のうち,就業状況に関する回答が得られなかった男性101人・女性1206人,癌または心血管疾患既往のある男性842人・女性1090人を除いた男性21902人および女性19826人。
追跡期間は,脳卒中発症率については,第2回調査から平均15年間(コホートI: 1995年1月1日~2009年12月31日,コホートII: 1998年1月1日~2012年12月31日),脳卒中死亡率については平均17年間(コホートI: 1995年1月1日~2014年12月31日,コホートII: 1998年1月1日~2014年12月31日)。

初回調査,ならびに5年後の第2回調査時に自己記入式質問票を用いてたずねた就業状況とその変化をもとに,対象者を以下の4つのカテゴリーに分類した。
  継続して就業(初回: 就業→第2回調査時: 就業): 男性20946人,女性16075人
  失業(就業→非就業): 618人,627人
  再就業(非就業→就業): 165人,2597人
  継続して非就業(非就業→非就業): 173人,527人
結 果
◇ 対象背景
継続して就業していた人と,初回または第2回調査のいずれか一度でも非就業の状況だった人(失業,再就業または継続して非就業)のおもな背景は以下のとおり(身体活動量,高血圧既往および糖尿病既往は初回調査時,それ以外は第2回調査時)。
  年齢: [男性]継続して就業52歳 vs. 一度でも非就業54歳,[女性]52歳 vs. 52歳
  BMI(kg/m2): 23.8 vs. 23.6,23.5 vs. 23.6
  喫煙率: 50% vs. 53%,9% vs. 12%
  飲酒量(g/週): 290 vs. 318,111 vs. 119
  身体活動量(METs単位/週): 34 vs. 31,34 vs. 33
  高血圧既往: 13% vs. 17%,12% vs. 14%
  糖尿病既往: 6% vs. 9%,2% vs. 4%
  高度なストレスの自覚: 19% vs. 23%,24% vs. 17%
  人生を楽しんでいる自覚: 26% vs. 19%,24% vs. 19%

◇ 就業状況の変化と脳卒中発症リスク
追跡期間中に,脳卒中新規発症が男性で973件(うち出血性396件,虚血性577件),女性で460件(133件,219件)みられた。

就業状況ごとの脳卒中発症の多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおりで,失業および再就業(男性のみ)のカテゴリーにおける有意なリスク増加がみとめられた。
*年齢,居住地域,高血圧・糖尿病既往,脂質低下薬服用,BMI,身体活動,喫煙,飲酒,自覚的ストレス,人生を楽しんでいる自覚,家族の同居状況により調整)

[男性]継続して就業1.00,失業1.62(1.20-2.18),再就業2.94(1.88-4.61),継続して非就業1.52(0.81-2.87)
[女性]1.00,1.46(1.06-2.23),1.28(0.96-1.66),1.48(0.93-2.35)

初回または第2回調査のいずれか一度でも非就業の状況だった人において,脳卒中発症の多変量調整ハザード比*(vs. 継続して就業していた人)を病型別にみた結果は以下のとおりで,男女とも,病型を問わず有意なリスク増加がみとめられた。

[男性]全脳卒中1.82(95%信頼区間1.43-2.32),出血性脳卒中1.90(1.29-2.80),虚血性脳卒中1.78(1.31-2.42)
[女性]1.34(1.08-1.67),1.43(1.12-2.09),1.34(1.07-1.81)

◇ 就業状況の変化と脳卒中死亡リスク
追跡期間中の脳卒中死亡は,男性275人(うち出血性169人,虚血性49人),女性131人(96人,16人)であった。

就業状況ごとの脳卒中死亡の多変量調整ハザード比*(95%信頼区間)は以下のとおりで,失業,再就業(男性のみ),および継続して非就業のカテゴリーにおける有意なリスク増加がみとめられた。

[男性]継続して就業1.00,失業2.23(1.34-3.71),再就業4.25(1.97-9.16),継続して非就業6.02(2.99-12.12)
[女性]1.00,2.19(1.11-4.30),1.21(0.71-2.04),3.85(2.13-6.96)

初回または第2回調査のいずれか一度でも非就業の状況だった人において,脳卒中死亡の多変量調整ハザード比*(vs. 継続して就業していた人)を病型別にみた結果は以下のとおりで,男女とも,病型を問わず有意なリスク増加がみとめられた。

[男性]全脳卒中死亡3.05(95%信頼区間2.07-4.48),出血性脳卒中死亡2.20(1.26-3.84),虚血性脳卒中死亡4.36(1.93-9.87)
[女性]1.81(1.23-2.66),1.83(1.16-2.88),1.72(1.02-9.36)


◇ 結論
大規模な多施設前向きコホート研究において,就業状況の変化が長期的な脳卒中発症・死亡リスクにおよぼす影響を検討した。ベースラインの直前5年間に一度でも非就業の状況にあった人では,継続して就業していた人にくらべて脳卒中発症リスク・死亡リスクとも有意に高く,この結果は脳卒中病型別にみても同様であった。また,就業状況別にみると,失業した人については,男女とも有意な脳卒中発症・死亡リスクがみられたのに対し,再就業した人については,男性でのみ有意な脳卒中発症・死亡リスクがみとめられた。


▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.