[2002年文献] 血中のリノール酸の比率は脳卒中リスクと負の関連

日本の農村部3地域の一般住民を対象としたコホート内症例対照研究を実施し,血中の脂肪酸とくにリノール酸と,脳卒中および脳卒中の各病型との関連を検討した。その結果,血中の全脂質に対するリノール酸の比率は脳卒中発症リスク,とくに虚血性脳卒中発症リスクと負の関連を示していた。リノール酸を多く摂取することで,血圧低下,血小板凝集能低下,赤血球変形能上昇などを介して,虚血性脳卒中およびラクナ梗塞の発症リスクが低下する可能性がある。

Iso H, et al. Linoleic acid, other fatty acids, and the risk of stroke. Stroke. 2002; 33: 2086-93.pubmed

コホート
1984~1993年(協和町[6874人]),1989~1992年(井川町[2822人],野市町[5199人])に循環器検診を受けた40~85歳の地域住民9174人を1998年末まで追跡(コホート内症例対照研究)。
脳卒中発症者1人につき,性別,年齢(±2歳),地域,血清採取の年度,血清採取時の空腹状態(食後8時間以上/未満)などでマッチさせた対照3人を設定した。
結 果
◇ 対象背景
追跡期間中における脳卒中の発症は197人。
うち,出血性脳卒中は75人(脳内出血45人,くも膜下出血30人),虚血性脳卒中は114人(ラクナ梗塞95人,アテローム血栓性脳梗塞19人,脳塞栓8人)。

平均年齢は全脳卒中発症者65.4歳,対照65.4歳であった。

脳卒中発症者と対照との比較において,有意な差が認められた危険因子は以下のとおり。
*P<0.05,**P<0.01,***P<0.001 vs. 対照)

  • 全脳卒中発症者 vs. 対照
      収縮期血圧(SBP):143 mmHg *** vs. 135 mmHg
      拡張期血圧(DBP):83 mmHg *** vs. 79 mmHg
      高血圧の割合:58%*** vs. 42%
      BMI:24.0 kg/m2 ** vs. 23.1 kg/m2
      喫煙率:36%* vs. 28%
      トリグリセリド:126 mg/dL * vs. 113 mg/dL
      糖尿病の割合:10%* vs. 5%
  • 虚血性脳卒中発症者 vs. 対照
      SBP:141 mmHg ** vs. 135 mmHg
      高血圧の割合:60%** vs. 43%
      BMI:23.8 kg/m2 * vs. 23.0 kg/m2
      トリグリセリド:123 mg/dL * vs. 109 mg/dL
      糖尿病の割合:13%** vs. 4%
  • ラクナ梗塞発症者 vs. 対照
      SBP:140 mmHg ** vs. 135 mmHg
      高血圧の割合:63%*** vs. 41%,
      BMI:23.8 kg/m2 * vs. 23.0 kg/m2
      糖尿病の割合:12%* vs. 4%
  • アテローム血栓性脳梗塞発症者 vs. 対照
      糖尿病の割合:21%* vs. 4%
  • 出血性脳卒中発症者 vs. 対照
      SBP:146 mmHg *** vs. 135 mmHg
      DBP:86 mmHg *** vs. 79 mmHg
      高血圧の割合:55%* vs. 40%
      喫煙率:32%* vs. 20%
  • 脳内出血発症者 vs. 対照
      SBP:147 mmHg ** vs. 135 mmHg
      DBP:87 mmHg*** vs. 80 mmHg
      喫煙率:33%* vs. 18%
  • くも膜下出血発症者 vs. 対照
      SBP:145 mmHg * vs. 134 mmHg
      DBP:86 mmHg* vs. 79 mmHg
      トリグリセリド:147 mg/dL * vs. 123 mg/dL

◇ 血中の各脂肪酸の比率と脳卒中
脳卒中発症者と対照の,血中の全脂質に対する各脂肪酸の構成比は以下のとおりで,対照に比して,全脳卒中発症者では血中の飽和脂肪酸のうちミリスチン酸,パルミチン酸の比率,一価不飽和脂肪酸(パルミトオレイン酸,オレイン酸)の比率が高く,n-6系多価不飽和脂肪酸のうちリノール酸,アラキドン酸の比率は低かった。血中のn-3系多価不飽和脂肪酸の比率は,全脳卒中発症者,各病型の発症者と対照とで同度であった。
  • 全脳卒中発症者(*P<0.01,**P<0.001)
    飽和脂肪酸(ミリスチン酸1.2%,パルミチン酸23.8%*,ステアリン酸7.9%),一価不飽和脂肪酸(パルミトオレイン酸3.9%**,オレイン酸21.4%*),n-6系多価不飽和脂肪酸(リノール酸26.5%**,γ-リノレン酸0.4%,ジホモ-γ-リノレン酸0.9%,アラキドン酸4.6%*),n-3系多価不飽和脂肪酸(α-リノレン酸1.0%,エイコサペンタエン酸3.6%,ドコサペンタエン酸0.5%,ドコサヘキサエン酸4.3%)
  • 対照
    飽和脂肪酸(ミリスチン酸1.1%,パルミチン酸23.0%,ステアリン酸7.9%),一価不飽和脂肪酸(パルミトオレイン酸3.6%,オレイン酸20.9%),n-6系多価不飽和脂肪酸(リノール酸28.2%,γ-リノレン酸0.2%,ジホモ-γ-リノレン酸0.8%,アラキドン酸4.9%),n-3系多価不飽和脂肪酸(α-リノレン酸1.1%,エイコサペンタエン酸3.5%,ドコサペンタエン酸0.5%,ドコサヘキサエン酸4.3%)

血中全脂質に対する各脂肪酸の比率が1SD増加した場合の脳卒中発症リスクを単変量解析にて検討した。
その結果,飽和脂肪酸のうちミリスチン酸,パルミチン酸の比率の1SD増加,および一価不飽和脂肪酸のパルミトオレイン酸,オレイン酸の比率の1SD増加は,いずれも全脳卒中発症のオッズ比(OR)と正の関連を示していた。一方,n-6系多価不飽和脂肪酸のうちリノール酸,アラキドン酸の比率の増加は,全脳卒中発症のORと負の関連を示していた。病型別にみると,これらの結果は虚血性脳卒中(とくにラクナ梗塞),および出血性脳卒中(とくに脳内出血)についても同様であった。

◇ 血中の飽和脂肪酸,リノール酸の比率と心血管危険因子
飽和脂肪酸,およびリノール酸の比率はいずれも脳卒中発症リスクと一貫した関連を示していたことから,これらの脂肪酸と心血管危険因子との関連が,脳卒中非発症者(対照)でみられるかどうかを検討した。
その結果,リノール酸の比率は糖尿病と正の関連,DBPと負の関連を示していた。飽和脂肪酸の比率は,血清総コレステロール値と負の関連を示していた。

◇ 血中の飽和脂肪酸,リノール酸の比率と脳卒中リスク
飽和脂肪酸とリノール酸について,血中の全脂質に対する比率が1SD増加した場合の脳卒中発症リスクを多変量解析にて検討した。

・ リノール酸
血中のリノール酸の比率は,脳卒中発症リスク,および脳卒中の各病型の発症リスクと負の関連を示し,比率が1SD(5%)増加した場合の全脳卒中発症のORは0.72(95%信頼区間0.59-0.89)で,虚血性脳卒中では0.66(0.49-0.88),ラクナ梗塞では0.63(0.46-0.88),出血性脳卒中では0.81(0.59-1.12)であった。

・ 飽和脂肪酸
血中の飽和脂肪酸の比率は,脳卒中発症リスク,および脳卒中の各病型の発症リスクと正の関連を示し,比率が1SD(4%)増加した場合の全脳卒中発症の多変量調整ORは1.13(1.05-1.65)で,虚血性脳卒中で1.35(1.01-1.79),ラクナ梗塞で1.44(1.03-2.01),出血性脳卒中で1.21(0.82-1.80)であった。

◇ 結論
日本の農村部3地域の一般住民を対象としたコホート内症例対照研究を実施し,血中の脂肪酸とくにリノール酸と,脳卒中および脳卒中の各病型との関連を検討した。その結果,血中の全脂質に対するリノール酸の比率は脳卒中発症リスク,とくに虚血性脳卒中発症リスクと負の関連を示していた。リノール酸を多く摂取することで,血圧低下,血小板凝集能低下,赤血球変形能上昇などを介して,虚血性脳卒中およびラクナ梗塞の発症リスクが低下する可能性がある。


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