[2003年文献] 飽和脂肪酸摂取量が少ないと脳内出血リスクが増加

アメリカ人女性を対象に実施された大規模前向き研究Nurses’ Health Studyにおいて,飽和脂肪酸摂取量および動物性蛋白質摂取量が少ないと脳内出血リスクが上昇し,そのリスク上昇は高血圧者で著しいことが示された。本研究では,日本の都市部および農村部の5地域の中年住民を対象に,飽和脂肪酸摂取量および動物性蛋白質摂取量と脳内出血リスクとの関連を検討した。その結果,飽和脂肪酸摂取量は脳内出血リスクと有意な負の関連を示し,動物性蛋白質摂取量は脳内出血リスクと負の関連を示す傾向が認められ,Nurses’ Health Studyの結果を支持するものとなった。

Iso H, et al. Fat and protein intakes and risk of intraparenchymal hemorrhage among middle-aged Japanese. Am J Epidemiol. 2003; 157: 32-9.pubmed

コホート
1973~1984年(秋田県井川町,秋田県[旧]石沢町,大阪府八尾市南高安地区),1973~1979年(高知県[旧]野市町),1982~1988年(茨城県[旧]協和町)に循環器健診を受けた40~69歳の一般住民のうち,脳卒中の既往のある64人を除いた4775人(男性2269人,女性2506人)を,1997年末まで平均14.3年間追跡(68510人・年)。

栄養摂取量は,24時間思い出し法,および日本の食品成分表(第4版)に基づいて算出。
結 果
◇ 対象背景
ベースライン時の飽和脂肪酸摂取量と正の関連を示したのは,男性の割合,血清総コレステロール値,総脂肪摂取量,一価不飽和脂肪酸摂取量,n-3またはn-6多価不飽和脂肪酸摂取量,コレステロール摂取量,総蛋白質摂取量,および動物性蛋白質摂取量であり,負の関連を示したのは,年齢,BMI,高血圧の割合,飲酒量,植物性蛋白質摂取量であった。
動物性蛋白質摂取量と正の関連を示したのは,血清総コレステロール値,飲酒量,総脂肪摂取量,飽和脂肪酸摂取量,一価不飽和脂肪酸摂取量,n-3多価不飽和脂肪酸摂取量,コレステロール,および総蛋白質であり,負の関連を示したのはBMI,高血圧の割合,および植物性蛋白質摂取量であった。

追跡期間における脳内出血の発症は68人,くも膜下出血は41人,虚血性脳卒中は166人,分類不能の脳卒中は20人であった。

◇ 飽和脂肪酸摂取量と脳内出血
飽和脂肪酸摂取量と脳内出血発症リスクは負の関連を示していた。
飽和脂肪酸摂取量(四分位)による脳内出血発症の多変量調整相対危険度(RR)(95%信頼区間[CI])は以下のとおり(年齢,性別,総摂取エネルギー,BMI,血圧カテゴリー,糖尿病,総コレステロール,喫煙状況,飲酒状況,閉経状況[女性のみ]により調整)。

     Q1(5.2 g/日): 1.0(対照)
     Q2(8.4 g/日): 0.77(0.42~1.42)
     Q3(11.9 g/日):0.66(0.34~1.25)
     Q4(17.1 g/日):0.30(0.12~0.71)
     P for trend=0.005

飽和脂肪酸摂取量と脳内出血発症リスクとの負の関連は,高血圧患者,非高血圧患者のいずれにおいても認められた。飽和脂肪酸摂取量が1 SD(5.4 g/日)増加した場合の多変量調整RRは,高血圧患者で0.72(95%CI 0.52~1.00),非高血圧患者で0.36(0.14~0.95)(P for interaction=0.26)。

◇動物性蛋白質摂取量と脳内出血
動物性蛋白質摂取量と脳内出血発症リスクは負の関連を示す傾向がみられた。
動物性蛋白質摂取量(四分位)による脳内出血発症の多変量調整RR(95%CI)は以下のとおり(年齢,性別,総摂取エネルギー,BMI,血圧カテゴリー,糖尿病,総コレステロール,喫煙状況,飲酒状況,閉経状況[女性のみ]により調整)。
     Q1(15.6 g/日): 1.0(対照)
     Q2(26.2 g/日): 0.96(0.49~1.86)
     Q3(36.2 g/日):0.81(0.41~1.61)
     Q4(52.7 g/日):0.60(0.29~1.23)
     P for trend=0.14

動物性蛋白質摂取量が1SD(17.6 g/日)増加した場合の脳内出血の多変量調整RRは0.79(95%CI 0.60~1.02)で,負の関連を示す傾向がみられた(P=0.07)。この関連傾向は,高血圧患者(0.80,0.60~1.07),非高血圧患者(0.70,0.33~1.51)(P for interaction=0.90)においても認められた。


◇ 結論
アメリカ人女性を対象に実施された大規模前向き研究Nurses’ Health Studyにおいて,飽和脂肪酸摂取量および動物性蛋白質摂取量が少ないと脳内出血リスクが上昇し,そのリスク上昇は高血圧者で著しいことが示された。本研究では,日本の都市部および農村部の5地域の中年住民を対象に,飽和脂肪酸摂取量および動物性蛋白質摂取量と脳内出血リスクとの関連を検討した。その結果,飽和脂肪酸摂取量は脳内出血リスクと有意な負の関連を示し,動物性蛋白質摂取量は脳内出血リスクと負の関連を示す傾向が認められ,Nurses’ Health Studyの結果を支持するものとなった。


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