[1995年文献] 多量飲酒は脳卒中リスクと関連

飲酒量と心血管疾患,とくに脳卒中とその各病型のリスクについて,3つの地域の日本人一般住民男性を10.5年間追跡したデータにより検討を行った。その結果,1日あたりのエタノール摂取量が70 g以上の多量飲酒者では,脳卒中の発症リスクが有意に高くなっていた。とくに出血性脳卒中のリスクが高く,飲酒が高血圧を介して出血性脳卒中リスクを高める可能性が示唆された。

Iso H, et al. Alcohol intake and the risk of cardiovascular disease in middle-aged Japanese men. Stroke. 1995; 26: 767-73.pubmed

コホート
CIRCSの井川町,石沢地区,協和地区コホート。
秋田県井川町,秋田県由利本荘市石沢地区,および茨城県筑西市協和地区の循環器健診(井川町および石沢地区: 1975~1979年,協和地区: 1981~1985年)に参加した40~69歳の男性2985人のうち,脳卒中既往のある75人,冠動脈疾患既往のある20人を除いた2890人(井川町842人,石沢地区518人,協和地区1530人)を平均10.5年間追跡。

飲酒量については,問診により1週間の飲酒量を合(180 mL)単位で聴取し,エタノール摂取量(28 g/合)に換算したうえで以下の6つのカテゴリーに分けて検討を行った。
 飲酒未経験者: 585人,禁酒者: 159人,飲酒者(1~20 g/日): 368人,
 飲酒者(21~41 g/日): 527人,飲酒者(42~69 g/日): 812人,飲酒者(70 g/日以上): 439人
結 果
◇ 対象背景
飲酒量のカテゴリーごとに対象背景を比較した結果(vs. 飲酒未経験者)は以下のとおり。
  • 年齢: 禁酒者では高く,エタノール摂取量が42 g/日以上の飲酒者では低かった。
  • 血圧: 飲酒量が多いほど血圧が高いという用量-反応関係がみられた。
  • 降圧薬服用率: 禁酒者で19%,飲酒者で16~23%,飲酒未経験者で10%であった。
  • 高血圧(≧160 / 95 mmHgまたは降圧薬服用)の割合: 飲酒未経験者でもっとも低く,禁酒者および70 g/日未満の禁酒者では中程度で,70 g/日以上の飲酒者ではもっとも高かった。
  • 総コレステロール値: 飲酒者では約10 mg/dL低かった。
  • 糖尿病の割合: 禁酒者および飲酒者で2~3倍高かった。
  • 喫煙本数: 42 g/日以上の飲酒者で多かった。
  • 高血圧性眼底変化の割合: 21 g/日以上の飲酒者で2~3倍高かった。
  • 左室肥大の割合: 飲酒状況との関連はみられなかった。
  • BMI: 飲酒状況との関連はみられなかった。

◇ 飲酒状況と心血管疾患発症リスク
・ 全脳卒中
飲酒状況ごとの全脳卒中発症の相対危険度(RR,多変量調整)は以下のとおりで,70 g/日以上の多量飲酒者についてのみ,有意なリスク増加がみとめられた。
   飲酒未経験者: 1.0 (対照)
   禁酒者: 1.2 (95%信頼区間0.6-2.4)
   飲酒者(1~20 g/日): 0.7 (0.4-1.4)
   飲酒者(21~41 g/日): 0.8 (0.5-1.4)
   飲酒者(42~69 g/日): 1.1 (0.7-1.8)
   飲酒者(70 g/日以上): 1.9 (1.2-3.1)

・ 出血性脳卒中
70 g/日以上の多量飲酒者における年齢調整RRは6.2(95%信頼区間2.3-16.5)であったが,多変量調整を行うとRRは低下した。これはおもに血圧カテゴリーによる調整の影響と考えられた。
飲酒状況ごとの出血性脳卒中発症の相対危険度(RR,多変量調整)は以下のとおり。
   飲酒未経験者: 1.0 (対照)
   禁酒者: 1.7 (95%信頼区間0.4-7.2)
   飲酒者(1~20 g/日): 1.3 (0.4-4.6)
   飲酒者(21~41 g/日): 1.4 (0.5-4.1)
   飲酒者(42~69 g/日): 1.2 (0.4-3.4)
   飲酒者(70 g/日以上): 3.4 (1.2-9.2)

・ 非出血性脳卒中
70 g/日以上の多量飲酒者における年齢調整RRは2.1(95%信頼区間1.1-3.9)であったが,多変量調整を行うとRRは低下し,有意差は消失した。また,41 g以下の飲酒者では,有意差はないもののRRが1を下回っており,飲酒量と非出血性脳卒中リスクとのJカーブ型の関連が示唆された。
飲酒状況ごとの非出血性脳卒中発症の相対危険度(RR,多変量調整)は以下のとおり。
   飲酒未経験者: 1.0 (対照)
   禁酒者: 0.7 (95%信頼区間0.3-1.9)
   飲酒者(1~20 g/日): 0.6 (0.3-1.5)
   飲酒者(21~41 g/日): 0.8 (0.4-1.5)
   飲酒者(42~69 g/日): 1.3 (0.7-2.3)
   飲酒者(70 g/日以上): 1.7 (0.9-3.1)

・ 全心血管疾患
全脳卒中と同様に,70 g/日以上の多量飲酒者についてのみ有意なリスク増加(RR 2.0,95%信頼区間1.3-3.1)がみとめられた。

・ 冠動脈疾患
飲酒者では,有意差はないもののRRが1を下回っていた。

・ 突然死
70 g/日以上の多量飲酒者では,大幅なリスク増加がみとめられた(多変量調整RR 8.8,95%信頼区間1.0-76.1)。

◇ 結論
飲酒量と心血管疾患,とくに脳卒中とその各病型のリスクについて,3つの地域の日本人一般住民男性を10.5年間追跡したデータにより検討を行った。その結果,1日あたりのエタノール摂取量が70 g以上の多量飲酒者では,脳卒中の発症リスクが有意に高くなっていた。とくに出血性脳卒中のリスクが高く,飲酒が高血圧を介して出血性脳卒中リスクを高める可能性が示唆された。


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