[2009年文献] 多量飲酒は朝の血圧上昇および心拍数上昇と関連

日本の都市部および農村部の4地域の男性を対象に,飲酒状況と自由行動下血圧値,心拍数および心拍数変動との関連を検討した。その結果,飲酒状況は朝の血圧上昇,起床中と就寝中の心拍数の上昇,および就寝中の交感神経活動と有意に関連することが示された。これまでに飲酒と心血管疾患リスクが関連するメカニズムについていくつかの仮説が挙げられてきたが,今回の結果はその一部を裏付けるものと考えられた。

Ohira T, et al. Effects of habitual alcohol intake on ambulatory blood pressure, heart rate, and its variability among Japanese men. Hypertension. 2009; 53: 13-9.pubmed

コホート
1997~2003年にかけて循環器リスク健診を受診した4地域のコホート(大阪府八尾市南高安地区[都市部],秋田県井川町[農村部],高知県旧野市町[農村部],茨城県旧協和町[農村部])の30~65歳の男性のうち,脳卒中,冠動脈疾患の既往のある人,降圧薬服用中の人,24時間自由行動下血圧データに不備がある人を除いた539人(断面解析)。

現在の飲酒量を1日あたりのエタノール摂取量に換算したうえで,全体を以下の4つのカテゴリーに分けて検討した。
   非飲酒者(106人): 0 g/日
   少量飲酒者(131人): 1~22 g/日
   中程度飲酒者(146人): 23~45 g/日
   多量飲酒者(156人): ≧46 g/日

24時間自由行動下血圧を測定するとともに,対象者には測定日の活動(就寝時間,起床時間を含む)を記録してもらった。
「就寝中の血圧」は,就寝時から起床時までの血圧の平均値,「起床中の血圧」は就寝時間以外の血圧の平均値,「朝の血圧」は起床してから2時間後までの血圧の平均値と定義した。
モーニングサージは,朝の収縮期血圧と,夜間の収縮期血圧の最低値(夜間の測定でもっとも低い値が記録された時点とその前後の計3回の平均値)の差と定義した。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢は50歳,平均アルコール摂取量は1日あたり29 g。

飲酒のカテゴリー(非飲酒者/少量飲酒者/中程度飲酒者/多量飲酒者)ごとに背景を比較した結果,飲酒量が多いほど有意に高い値を示していたのは随時血圧,高血圧の割合,現在喫煙率,HDL-C,朝の唾液中コルチゾール(視床下部-下垂体-副腎系の活性化の指標)で,飲酒量が多いほど有意に低い値を示していたのは空腹時インスリン。

◇ 飲酒状況と24時間自由行動下血圧
飲酒のカテゴリーごとに24時間自由行動下血圧の推移を比較した結果,24時間の血圧,および就寝中の血圧には差はみられなかったが,朝の血圧,および起床中の血圧は中程度飲酒者および多量飲酒者で高い傾向がみられた。

◇ 飲酒状況と血圧,心拍数,心拍変動との関連
血圧および心拍数について飲酒との関連を検討した結果,起床中および朝の血圧をはじめ,以下の項目について飲酒状況との有意な関連がみとめられた。

・ 収縮時血圧(mmHg)
   起床中: 非飲酒者130.8,少量飲酒者132.6,中程度飲酒者135.0,多量飲酒者134.8 (P=0.04)
   朝: 127.9,131.5,133.4,134.6 (P=0.01)
   就寝中と朝の血圧差: 17.6,18.6,22.1,24.4 (P<0.001)
・ 拡張期血圧(mmHg)
   起床中: 80.9,83.1,85.3,84.6 (P<0.001)
   朝: 81.3,83.8,87.0,87.0 (P<0.001)
   就寝中と朝の血圧差: 12.8,14.0,18.0,19.1 (P<0.001)
   起床中血圧の標準偏差: 11.3,11.5,12.4,12.7 (P<0.001)
・ 心拍数(bpm)
   24時間: 68.2,69.3,70.1,72.2 (P<0.001)
   起床中: 71.6,72.7,72.9,74.8 (P=0.01)
   就寝中: 60.7,62.1,64.4,66.8 (P<0.001)
・ 心拍変動の低周波成分/高周波成分比(交感神経活動および副交感神経活動の指標)
   24時間: 2.49,2.60,2.68,2.67 (P=0.03)
   就寝中: 1.91,2.11,2.15,2.23 (P<0.001)

これらの結果は,BMI,喫煙状況,糖尿病について調整を行っても同様であった。
飲酒状況と朝および起床中の血圧との関連は,4つの地域間で異なるものではなかった(P>0.15)。

◇ 飲酒状況とモーニングサージとの関連
飲酒量が多いほど,モーニングサージのリスクは高くなった。
モーニングサージの割合(年齢およびコホートで調整したオッズ比[95%信頼区間])は,非飲酒者6.6%(1[対照]),少量飲酒者6.1%(0.96[0.34~2.78]),中程度飲酒者9.6%(1.68[0.64~4.38]),多量飲酒者16.7%(2.73[1.12~6.67])であった(オッズ比のP for trend=0.006)。
飲酒状況とモーニングサージとの関連は,BMI,喫煙,糖尿病,朝の唾液中コルチゾール,就寝中の心拍数,就寝中の心電図の低周波成分/高周波成分比による多変量調整を行うと少し弱められたが,有意な関連は失われなかった(P=0.01)。


◇ 結論
日本の都市部および農村部の4地域の男性を対象に,飲酒状況と自由行動下血圧値,心拍数および心拍数変動との関連を検討した。その結果,飲酒状況は朝の血圧上昇,起床中と就寝中の心拍数の上昇,および就寝中の交感神経活動と有意に関連することが示された。これまでに飲酒と心血管疾患リスクが関連するメカニズムについていくつかの仮説が挙げられてきたが,今回の結果はその一部を裏付けるものと考えられた。


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