[2009年文献] 1960~80年代にかけ,軽症高血圧の集団寄与危険度割合(PAF)が増加

これまで,高血圧の「寄与リスク」や「集団寄与危険度割合(PAF)」はあまり注目されてこなかった。軽症高血圧と脳卒中リスクとの関連は重症・中等症高血圧よりも弱いものの,集団における軽症高血圧の頻度は高いため,そのPAFも高くなる。そこで,前向きに追跡した年代別(1960,70,80年代)のコホートのデータを用いて,脳卒中リスクに対する高血圧の寄与度がどのように推移しているかを検討した。その結果,重症高血圧や中等症高血圧のPAFが経時的に低下していた一方で,1970年代,80年代コホートでは軽症高血圧のPAFがもっとも大きくなっていた。この結果より,脳卒中予防のための早期からの血圧管理の重要性が示された。

Imano H, et al. Trends for blood pressure and its contribution to stroke incidence in the middle-aged Japanese population: the Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). Stroke. 2009; 40: 1571-7.pubmed

コホート
1960~80年代に循環器リスク健診を受診した4地域(秋田県井川町,高知県旧野市町,茨城県筑西市協和地区,大阪府八尾市南高安地区)の40~69歳の住民を,1960年代,70年代,80年台の3つの年代別コホートに分け,それぞれの約10年間の追跡データを比較した。参加率はそれぞれ95 %,68 %,62 %。
脳卒中または冠動脈疾患既往のある人を除外したのちの各コホートの対象者数は以下のとおり。
   1960年代コホート: 5,439人(男性2,270人,女性3,169人),平均追跡期間10.3年間
   1970年代コホート: 9,945人(3,875人,6,070人),10.4年間
   1980年代コホート: 11,788人(4,599人,7,189人),10.2年間

1999年の世界保健機関(WHO)・国際高血圧学会(ISH)による高血圧の治療と管理ガイドラインpubmedによる以下の血圧カテゴリーを用いた。
   至適血圧: 収縮期血圧120 mmHg未満 / 拡張期血圧80 mmHg未満
   正常血圧: 120~130 mmHg未満 / 80~85 mmHg未満
   正常高値血圧: 130~139 mmHg / 85~89 mmHg
   軽症高血圧: 140~159 mmHg / 90~99 mmHg
   中等症高血圧: 160~179 mmHg / 100~109 mmHg
   重症高血圧: 180 mmHg以上 / 110 mmHg以上   
結 果
◇ 対象背景
・ 血圧カテゴリーによる比較
いずれの年代のコホートでも,血圧カテゴリーが高くなるほど,年齢,BMI,降圧薬服用率,心電図による虚血所見の割合,左室肥大の割合が高くなっていた。総コレステロール値も血圧カテゴリーとともに高くなる傾向を示したが,1970年代,1980年代コホートでは軽症高血圧以上のカテゴリーでの上昇はみられなかった。
心房細動の割合については,血圧カテゴリー間の差はみられなかった。

・ 年代による比較
心電図による虚血所見または左室肥大の割合は,すべての血圧カテゴリーにおいて,1960年代から1970年代にかけて低下していた。中等症および重症高血圧カテゴリーでは,1970年代から1980年代にかけてもさらに低下がみとめられた。
降圧薬服用率は,すべての血圧カテゴリーにおいて,1960年代から1980年代にかけて低下していた。ただし,1970年代から1980年代にかけての服用率は,中等症高血圧カテゴリーでは同等であり,重症高血圧カテゴリーでは低下していた。

◇ 脳卒中発症率の変化
全脳卒中,出血性脳卒中(脳内出血またはくも膜下出血)および虚血性脳卒中の年間発症率(1000人あたり)は,性別および年齢層(40~49歳,50~59歳,60~69歳)を問わず,いずれも1960年代から1980年代にかけて経時的に低下していた。
全脳卒中に占める出血性脳卒中の割合は,1960年代から1980年代にかけて26 %,27 %,30 %と増加する傾向を示しており,一方の虚血性脳卒中の割合は65 %,61 %,59 %と低下傾向を示した。

◇ 各血圧カテゴリーの脳卒中リスクおよび集団寄与危険度割合(population attributable fraction: PAF)の経時的変化
全脳卒中の発症率は,1960年代から1980年代にかけて低下していた。
全脳卒中発症のハザード比は,いずれの年代のコホートでも血圧カテゴリーとともに増加しており,1970年代,1980年代コホートでは,正常血圧カテゴリーでも至適血圧の2倍近いリスクがみとめられた。
これらの結果は,降圧薬服用者を除外した解析でも同様であった。

1960年代コホートでは,総PAFの半分以上が中等症高血圧と重症高血圧によるものであった。
1970年代コホートでは重症高血圧のPAFは低下し,血圧によるPAFの半分以上が軽症高血圧と中等症高血圧によるものであった。
1980年代コホートでは1970年代コホートよりも軽症高血圧と中等症高血圧のPAFが低下したが,軽症高血圧のPAFがもっとも大きいという結果は変わらなかった。
これらの結果は,降圧薬服用者を除外した解析でも同様であった。
また,出血性脳卒中および虚血性脳卒中についての検討でも,同様の結果が得られた。

各年代コホートにおける血圧カテゴリーごとの全脳卒中発症率(1000人・年あたり),全脳卒中発症の多変量調整ハザード比(95 %信頼区間[confidence interval: CI]),およびPAF(95 %CI)は以下のとおり。

・ 1960年代コホート [全体の発症率4.6]
   至適血圧: 発症率1.3,HR 1(対照)
   正常血圧: 発症率1.4,HR 1.1(0.5-2.5,P=0.870),PAF 0.3 %(有意差なし)
   正常高値血圧: 発症率3.9,HR 2.8(1.4-5.7,P=0.005),PAF 11%(5-18 %)
   軽症高血圧: 発症率4.4,HR 3.0(1.5-6.0,P=0.002),PAF 17 %(9-25 %)
   中等症高血圧: 発症率9.1,HR 4.5(2.2-9.2,P<0.001),PAF 19 %(12-25 %)
   重症高血圧: 発症率13.9,HR 6.1(3.0-12.8,P<0.001),PAF 20 %(14-26 %)

・ 1970年代コホート [全体の発症率3.6]
   至適血圧: 発症率0.8,HR 1(対照)
   正常血圧: 発症率1.6,HR 1.8(0.9-3.6,P=0.094),PAF 3 %(0-6 %)
   正常高値血圧: 発症率2.3,HR 2.9(1.5-5.5,P=0.001),PAF 8 %(4-12 %)
   軽症高血圧: 発症率4.2,HR 4.6(2.5-8.4,P<0.001),PAF 26 %(19-33 %)
   中等症高血圧: 発症率6.8,HR 6.9(3.7-12.9,P<0.001),PAF 24 %(18-29 %)
   重症高血圧: 発症率11.2,HR 9.9(5.2-18.8,P<0.001),PAF 14 %(10-18 %)

・ 1980年代コホート [全体の発症率2.7]
   至適血圧: 発症率1.1,HR 1(対照)
   正常血圧: 発症率2.0,HR 1.8(1.1-3.0,P=0.020),PAF 6 %(1-10 %)
   正常高値血圧: 発症率1.9,HR 1.6(1.0-2.7,P=0.053),PAF 5 %(0-11 %)
   軽症高血圧: 発症率3.5,HR 2.8(1.7-4.4,P<0.001),PAF 23 %(14-31 %)
   中等症高血圧: 発症率3.8,HR 2.7(1.6-4.4,P<0.001),PAF 11 %(6-17 %)
   重症高血圧: 発症率7.4,HR 4.6(2.7-7.8,P<0.001),PAF 9 %(6-13 %)

以上の結果は,米国高血圧合同委員会の第7次報告(JNC7)による血圧カテゴリー分類を用いた解析でも同様であった。


◇ 結論
これまで,高血圧の「寄与リスク」や「集団寄与危険度割合(PAF)」はあまり注目されてこなかった。軽症高血圧と脳卒中リスクとの関連は重症・中等症高血圧よりも弱いものの,集団における軽症高血圧の頻度は高いため,そのPAFも高くなる。そこで,前向きに追跡した年代別(1960,70,80年代)のコホートのデータを用いて,脳卒中リスクに対する高血圧の寄与度がどのように推移しているかを検討した。その結果,重症高血圧や中等症高血圧のPAFが経時的に低下していた一方で,1970年代,80年代コホートでは軽症高血圧のPAFがもっとも大きくなっていた。この結果より,脳卒中予防のための早期からの血圧管理の重要性が示された。


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