[2012年文献] いびきを毎日かく女性は心血管疾患リスクが高い

これまでいくつかの前向き研究において,いびきと心血管疾患との関連が報告されているが,アジア人に関するエビデンスは少ない。そこで,日本の都市部および農村部住民を対象とした前向きコホート研究において,自己申告によるいびきの頻度が心血管疾患発症リスクと関連するかを検討した。6年間の追跡の結果,習慣的にいびきをかく中年女性では心血管疾患リスクが増加していることが示されたが,この結果には過体重,いびきに関連する高血圧,代謝異常などが部分的に関与している可能性がある。

Nagayoshi M, et al. Self-Reported Snoring Frequency and Incidence of Cardiovascular Disease: The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). J Epidemiol. 2012; pubmed

コホート
CIRCSの八尾コホート,井川町コホート,協和町コホート。
2001~2005年(八尾市[1994人],井川町[1446人]),2000~2004年(協和町[3209人])に循環器検診を受けた,睡眠呼吸障害のない40~69歳の地域住民のうち,睡眠調査のデータに不備のある82人,BMIまたはその他のデータに不備のある10人,虚血性心疾患既往のある17人,脳卒中既往のある19人を除いた男性2350人,女性4163人を6年間(中央値)追跡した(井川町コホート:2009年末まで,八尾コホート:2008年末まで,協和町コホート:2006年末まで)。
平均年齢は男性57.5歳,女性55.6歳。

就寝時のいびきについて,対象者に過去3ヵ月間の状況をたずね,その回答に応じて,性別ごとに4つのカテゴリー(かかない/ときどきかく/毎日かく/不明)を設定した。
結 果
◇ 対象背景
平均BMIは23.5 kg/m2,血圧の平均値は132.3 / 80.4 mmHg,高血圧の割合は42.5%,降圧薬服用は17.5%,糖尿病は5.9%,高脂血症は44.7%,現在飲酒している人は37.6%,現在喫煙している人は21.1%,女性のうち閉経している人は69.1%であった。

いびきの状況は以下のとおりで,いびきをかく人ほど,男女とも血圧やBMIなどが高い傾向がみとめられた。また,「不明」の女性では,それ以外の女性にくらべ,年齢が2.6歳低く(P<0.001), BMIが0.5ポイント低く(P=0.001),喫煙者の割合が4.3%高かった(P<0.001)が,男性では有意差はみられなかった。
  毎日かく:14.0%(男性23.9%,女性8.5%)
  ときどきかく:46.7%(48.7%,45.6%)
  かかない:28.9%(20.7%,33.6%)
  不明:10.3%(6.8%,12.3%)

◇ いびきの状況と心血管疾患発症リスク
いびきの状況ごとの心血管疾患発症の年齢およびコホートで調整したハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,いびきを毎日かく女性では,いびきをかかない女性にくらべて有意なリスク上昇がみとめられた。男性では有意な差はみられなかった。
・男性  
  毎日かく:1.1(0.5-2.2)
  ときどきかく:0.7(0.4-1.4)
  かかない:1.0(対照)
  不明:0.7(0.2-2.3)
・女性
  毎日かく:2.6(1.1-6.3),
  ときどきかく:0.9(0.5-2.0)
  かかない:1.0(対照),
  不明:0.8(0.2-2.4)

アルコール摂取,喫煙,閉経状態(女性)を追加して調整した後にも,いびきを毎日かく女性の,かかない女性に比した有意なリスク上昇がみとめられた(ハザード比2.5,95%信頼区間1.0-6.1)。
ただし,BMIを追加して調整すると有意差は消失し(ハザード比2.1,0.9-5.4),さらに収縮期血圧,降圧薬の使用,糖尿病,高コレステロール血症を追加して調整した後も,その差は減弱した(ハザード比1.9,0.8-4.9)。


◇ 結論
これまでいくつかの前向き研究において,いびきと心血管疾患との関連が報告されているが,アジア人に関するエビデンスは少ない。そこで,日本の都市部および農村部住民を対象とした前向きコホート研究において,自己申告によるいびきの頻度が心血管疾患発症リスクと関連するかを検討した。6年間の追跡の結果,習慣的にいびきをかく中年女性では心血管疾患リスクが増加していることが示されたが,この結果には過体重,いびきに関連する高血圧,代謝異常などが部分的に関与している可能性がある。


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