[2012年文献] 心臓突然死の発生率は,1981~1995年にかけて低下,1996~2005年の間は変化せず

日本における心臓突然死(SCD)発生率の長期的な傾向については,これまでに十分なデータが得られていない。近年,都市部一般住民での冠動脈疾患の増加が指摘されており,SCDについてもこの数十年での増加が懸念されることから,4つの地域に住む日本人一般住民を対象に,1981~2005年の25年間のSCD発生率の変化,および同時期の危険因子の変化を検討した。その結果,SCDの年齢・性別調整発生率は,1981年から1995年にかけては低下していたが,その後は変化していなかった。この間に高血圧有病率や喫煙率は低下していたが,糖尿病有病率は増加傾向であり,今後も引き続きSCD発生率の変化に注意する必要がある。

Maruyama M, et al. Trends in sudden cardiac death and its risk factors in Japan from 1981 to 2005: the Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). BMJ Open. 2012; 2: e000573.pubmed

コホート
(1)心臓突然死発生率,冠動脈疾患発症率の推移
CIRCSの循環器リスク健診が行われている4地域(秋田県井川町,高知県[旧]野市町,茨城県筑西市協和地区,大阪府八尾市南高安地区)に住む30~84歳を対象とし,1981年1月1日~2005年12月31日の期間に,国民健康保険請求,死亡診断書,救急搬送記録,地域の開業医からの報告,CIRCSの循環器リスク健診,保健師からの報告などにより心臓突然死した人,および冠動脈疾患を発症した人をすべて登録した。全期間を1981~1985年,1986~1990年,1991~1995年,1996~2000年,2001~2005年の5つに区切って解析を行った。

心臓突然死の定義は発症から24時間以内に起こった予測不可能な死亡とし,脳卒中,癌,事故など原因が明らかなものは除外した。

各地域における30~84歳の国勢調査人口は以下のとおり。
  井川町: 1985年3983人,1995年4166人,2000年4173人
  筑西市協和地区: 9614人,9590人,10948人
  八尾市南高安地区: 12940人,14170人,14825人
  野市町: 8149人,10772人,10573人

(2)危険因子の推移
4つの地域で1981~2005年の期間にCIRCSの循環器リスク健診を受診した人。全期間を1981~1985年(解析対象: 男性5350人,女性7949人),1986~1990年(4992人,7781人),1991~1995年(5175人,8463人),1996~2000年(5039人,8436人),2001~2005年(4900人,8082人)の5つに区切って解析を行った。
結 果
◇ 心臓突然死(sudden cardiac death: SCD)発生率,冠動脈疾患(CHD)発症率の推移
1981~2005年の25年間で,SCDは471人であった。
このうち,心筋梗塞をともなっていたのは117人,ともなっていなかったのは354人であった。
発症から1時間以内に死亡したのは163人,発症後1時間以降24時間以内に死亡したのは308人であった。
また,病院または救急治療室で死亡したのは281人,それ以外で死亡したのは190人であった。

期間ごとのSCDの発生率(10万人・年あたり,年齢・性別調整)は1981~1985年: 76.0(95%信頼区間44.8-107.2),1986~1990年: 57.9(32.7-83.1),1991~1995年: 39.3(20.3-58.3),1996~2000年: 31.6(15.6-47.6),2001~2005年: 36.8(19.8-53.8)と(P for trend<0.01),1991~1995年までは減少していたが,その後,減少は止まった。
年齢層(30~64歳/65~74歳/75歳以上)ごとにみると,30~64歳および65~74歳の年齢層でも同様の推移がみられたが,75歳以上では一貫した低下がみられた。

これらの結果を用いて,日本全国における心臓突然死の発生率を推算したところ,2009年のSCDの発生は少なくとも51700人と考えられた。

CHD発症率についても,突然死発生率と同様の傾向がみとめられた。
期間ごとのCHD発症率(10万人・年あたり,年齢・性別調整)は1981~1985年: 98.2(95%信頼区間62.7-133.7),1986~1990年: 87.0(56.0-118.0),1991~1995年: 78.0(50.9-105.1),1996~2000年: 50.0(29.8-70.2),2001~2005年: 57.5(36.5-78.5)であった。心筋梗塞発症率(10万人・年あたり,性別・年齢調整)はそれぞれ55.2(28.6-81.8),58.9(33.4-84.4),57.5(34.4-80.6),34.6(17.9-51.3),45.6(26.9-64.3)であった。

◇ 層別化解析
・ 性別
男性のSCD発生率は,女性の2~3倍と高かった。
期間ごとのSCD発生率(10万人・年あたり,年齢調整)は,男性で1981~1985年: 111.7,1986~1990年: 82.1,1991~1995年: 54.4,1996~2000年: 49.3,2001~2005年: 57.9で,女性ではそれぞれ50.6,39.5,27.1,16.7,18.2であった。

・ 心筋梗塞の有無
心筋梗塞をともなうSCDの期間ごとの発生率(10万人・年あたり,年齢・性別調整)は,16.1,15.5,14.0,5.3,8.4で,心筋梗塞をともなわないSCDは59.8,42.4,25.3,26.4,28.4であった。

・ 発症から死亡までの時間
発症後1時間以内のSCDの期間ごとの発生率(10万人・年あたり,年齢・性別調整)は27.4,19.7,12.7,9.2,15.7で,発症後1時間以降24時間以内のSCDは48.6,38.1,26.6,22.5,21.1であった。

・ 死亡した場所
病院または救急治療室におけるSCDの期間ごとの発生率(10万人・年あたり,年齢・性別調整)は35.0,32.7,26.5,20.3,26.2で,それ以外におけるSCDは41.0,25.1,12.8,11.4,10.5であった。
 
◇ 危険因子の推移
  • 血圧: 収縮期血圧は,男女とも1981~1985年から2001~2005年にかけて有意に低下した(P for trend<0.01)。拡張期血圧は,男性では1991~1995年までは変わらなかったが,その後は増加し(P for trend<0.01),女性では一貫した低下がみられた(P for trend<0.01)。
  • 高血圧有病率: 男女とも1991~1995年までは低下したが,1996年以降は変化していない。
  • BMI: 男性では有意な増加,女性では有意な減少がみられた(いずれもP for trend<0.01)。
  • 喫煙率: 男性では有意な低下がみられた(P for trend<0.01)が,女性で有意に増加していた(P for trend<0.01)。
  • 多量飲酒の割合: 男性では有意に低下していた(P for trend<0.01)が,女性では変化はみられなかった。
  • 総コレステロール: 男女とも有意に増加していた(P for trend<0.01)。
  • 糖尿病有病率: 男女とも有意に増加していた(P for trend<0.01)。
  • 左室肥大の割合: 男女とも顕著に低下した(P for trend<0.01)。
これらの結果は,年齢層,および地域ごとに解析を行っても同様であった。

◇ 結論
日本における心臓突然死(SCD)発生率の長期的な傾向については,これまでに十分なデータが得られていない。近年,都市部一般住民での冠動脈疾患の増加が指摘されており,SCDについてもこの数十年での増加が懸念されることから,4つの地域に住む日本人一般住民を対象に,1981~2005年の25年間のSCD発生率の変化,および同時期の危険因子の変化を検討した。その結果,SCDの年齢・性別調整発生率は,1981年から1995年にかけては低下していたが,その後は変化していなかった。この間に高血圧有病率や喫煙率は低下していたが,糖尿病有病率は増加傾向であり,今後も引き続きSCD発生率の変化に注意する必要がある。


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