[2012年文献] 日本人の心臓突然死に関連する因子は,高血圧,心電図上ST-T異常,喫煙,糖尿病

日本人における既知の心血管疾患危険因子と心臓突然死(SCD)との関連について,コホート内症例対照研究による検討を行った。その結果,因果関係を判断することはできないものの,高血圧,重度のST-T異常,喫煙や糖尿病などがSCD発生率と有意に関連することが示されたが,BMIや高脂血症とSCDとの関連はみられなかった。日本人のSCDの予防のために,今後,さらに他の危険因子や遺伝的要因なども含めた検討を行うことが期待される。

Ohira T, et al. Risk factors for sudden cardiac death among Japanese: the Circulatory Risk in Communities Study. J Hypertens. 2012; 30: 1137-43.pubmed

コホート
CIRCSの循環器リスク健診が行われた4地域(秋田県井川町,高知県[旧]野市町,茨城県筑西市協和地区,大阪府八尾市南高安地区)の30~84歳の26870人(男性10965人,女性15905人)を対象としてコホート内症例対照研究を実施。
各地域で,それぞれ以下の研究期間におけるCIRCSの循環器疾患発症状況データを用いて心臓突然死(SCD)ならびに心筋梗塞の発症状況を調査し(追跡期間中央値3.5年),心臓突然死1人につき,年齢(±3歳),性別,健診受診年(±1年),追跡期間,および地域でマッチさせた対照3人を設定した(SCD 239人,対照717人)。
  井川町,八尾市南高安地区,野市町: 1975~2005年
  筑西市協和地区: 1981~2005年

SCDの定義は発症から24時間以内に起こった予測不可能な死亡とし,脳卒中,癌,事故など原因が明らかなものは除外した。
結 果
◇ 対象背景
研究期間中の心臓突然死(SCD)239人の内訳は以下のとおり。
   冠動脈疾患あり72人,なし167人
   目撃者あり131人,なし108人
   院内150人,院外89人

ベースライン時,対照に比してSCDで有意に高い値がみられたのは,収縮期血圧,心拍数,高血圧の割合,降圧薬服用率,糖尿病の割合,喫煙率,心房細動の割合,心電図上の軽度のST-T異常の割合,重度のST-T異常の割合,左側R波増高の割合であった。BMI,拡張期血圧,総コレステロール,高脂血症の割合,脂質低下薬服用率,アルコール過剰摂取の割合などについては,SCDと対照との有意差はみられなかった。

◇ 心臓突然死の危険因子
ベースライン時の既知の心血管疾患危険因子とSCDのオッズ比との関連を調べたところ,有意な関連を示していたのは,高血圧,糖尿病,喫煙,心拍数(76拍/分以上),心房細動,重度のST-T異常,軽度のST-T異常,左側R波増高,異常Q波であった。高脂血症,BMI,アルコール過剰摂取,心房/心室期外収縮,PQ間隔延長,幅広いQRS波についてはSCDとの有意な関連はみられなかった。

多変量解析における各因子のSCDのオッズ比ならびに人口寄与割合(PAF)は以下のとおり。心房細動と幅広いQRS波については,ボーダーライン上の関連がみられた(それぞれP=0.05,0.06)。PAFがもっとも高いのは高血圧であり,次いで喫煙,心拍数(76拍/分以上),重度のST-T異常のPAFが高かった。
   高血圧(あり vs. なし): オッズ比1.52,95%信頼区間1.05-2.19 (PAF 23.0%,95%信頼区間2.9-39.0%)
   糖尿病(あり vs. なし): 2.24,1.23-4.07 (PAF 8.1%,2.2-13.7%)
   喫煙(あり vs. なし): 1.70,1.13-2.57 (PAF 15.3%,3.8-25.5%)
   心拍数(≧76 vs. <61拍/分): 1.85,1.10-3.12 (PAF 14.8%,3.4-24.9%)
   心房細動(あり vs. なし): 2.30,0.98-5.36 (PAF 3.1%,-0.3-6.3%)
   心房/心室期外収縮(あり vs. なし): 1.06,0.62-1.80 (PAF 0.6%,-5.2-6.1%)
   重度のST-T異常(あり vs. なし): 3.12,1.89-5.15 (PAF 14.5%,8.0-20.5%)
   軽度のST-T異常(あり vs. なし): 0.99,0.67-1.48 (PAF -0.2%,-12.1-10.4%)
   幅広いQRS波(あり vs. なし): 2.18,0.97-4.89 (PAF 2.7%,-0.5-5.8%)
   左側R波増高(あり vs. なし): 1.48,1.02-2.15 (PAF 10.5%,0.4-19.5%)
   異常Q波(あり vs. なし): 1.50,0.44-5.09 (PAF 1.0%,-2.0-3.8%)

目撃者のいないSCDを除外した解析では,糖尿病と左側R波増高が有意な因子とはならなかったことを除き,ほぼ同様の結果が得られた。

危険因子(高血圧,糖尿病,喫煙,心電図異常[心拍数高値,心房細動,重度のST-T異常,幅広いQRS波または左側R波増高のいずれか])の保有数とSCDとの関連を検討した結果は以下のとおり。
   危険因子なし: 対照
   1つ: オッズ比1.37(95%信頼区間0.77-2.42)
   2つ: 2.62(1.49-4.61)
   3つ以上: 5.76(3.20-10.39)


◇ 結論
日本人における既知の心血管疾患危険因子と心臓突然死(SCD)との関連について,コホート内症例対照研究による検討を行った。その結果,因果関係を判断することはできないものの,高血圧,重度のST-T異常,喫煙や糖尿病などがSCD発生率と有意に関連することが示されたが,BMIや高脂血症とSCDとの関連はみられなかった。日本人のSCDの予防のために,今後,さらに他の危険因子や遺伝的要因なども含めた検討を行うことが期待される。


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