[2014年文献] 1日3合超の多量飲酒は心房細動発症リスクと関連

アルコール摂取と心房細動発症リスクとの関連について,日本人地域住民を対象とした前向きコホート研究において,既往歴や服薬情報だけでなく毎年の心電図検査結果も用いた検討も行った。6.4年間(中央値)の追跡の結果,1日3合以上の多量飲酒者ではAF発症リスクが有意に高くなっていたが,少量飲酒者や中程度飲酒者では有意なリスクの増加はみられなかった。いまだ男性における多量飲酒者の割合が高い日本人では,多量飲酒の抑制が心房細動そのものの予防だけでなく,心房細動に関連する脳卒中や心不全の予防にもつながる可能性がある。

Sano F, et al. Heavy Alcohol Consumption and Risk of Atrial Fibrillation.Circ J. 2014; 78: 955-61. pubmed

コホート
1991~1995年に循環器健診を受診した4地域(秋田県井川町,高知県旧野市町,茨城県筑西市協和地区,大阪府八尾市南高安地区)の30~80歳の8602人。このうち,心房細動既往のない8516人を,2000年の終わりまで6.4年間(中央値)追跡した。追跡率は84.6%。

飲酒状況については,循環器健診の際に1週間あたり何合飲むかをたずね,0.3 合超を現在飲酒者としたうえで,現在飲酒者の飲酒量も考慮した以下のカテゴリーに対象者を分類した(1合はエタノールに換算して23 g。日本酒180 mL,ビール1本[633 mL],ウイスキー2ショット[75 mL],ワイン2杯[180 mL]に相当)。
  飲酒未経験者: 男性524人,女性3949人
  禁酒者: 161人,78人
  少量飲酒者(1日1合未満): 614人,530人
  少量~中程度飲酒者(1日1~2合): 625人,53人
  中程度飲酒者(1日2~3合): 470人,10人
  多量飲酒者(1日3合超): 174人,4人

心房細動の発症状況を調査するために,毎年の循環器健診において,対象者に既往歴や服薬情報をたずねるとともに,12誘導心電図検査を実施した。
結 果
◇ 対象背景
ベースライン時の心房細動(AF)有病者も含めた解析において,飲酒状況のカテゴリー間で有意に値が異なっていたのは,男性では現在喫煙率,血糖高値の割合,総コレステロール値,および心電図上ST-T異常の割合で,女性では現在喫煙率およびBMIのみ。

追跡期間中にAFを発症したのは296人。
AF発症者と非発症者とで有意な差がみられたのは,男性では1日あたりのエタノール換算飲酒量,多量飲酒者の割合,血糖高値の割合で,女性では多量飲酒者の割合,BMI,肥満(BMI≧30 kg/m2)の割合,血糖値であった。

◇ 飲酒状況とAF発症リスク
飲酒状況ごとにみたAF発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。多量飲酒者における有意なAF発症リスクの増加がみとめられ,男女別の解析では男性でのみ同様の結果がみられた。
年齢,喫煙状況,BMI,高血圧,高脂血症,血糖高値,心電図上ST-T異常,心筋梗塞既往,心不全既往で調整[全体の解析では,性別による調整も実施])
・全体
  飲酒未経験者: 1.00(対照)
  禁酒者: 1.30(0.68-2.49)
  少量飲酒者: 0.89(0.60-1.32)
  少量~中程度飲酒者: 1.19(0.73-1.95)
  中程度飲酒者: 1.36(0.79-2.35)
  多量飲酒者: 2.90(1.61-5.23)

・男性
  飲酒未経験者: 1.00(対照)
  禁酒者: 1.50(0.67-3.35)
  少量飲酒者: 0.91(0.48-1.74)
  少量~中程度飲酒者: 1.22(0.67-2.23)
  中程度飲酒者: 1.47(0.78-2.77)
  多量飲酒者: 3.14(1.58-6.24)

・女性
  飲酒未経験者: 1.00(対照)
  禁酒者: 0.89(0.22-3.62)
  少量飲酒者: 0.90(0.54-1.50)
  少量~中程度飲酒者: 1.21(0.29-4.97)
  中程度飲酒者: -(このカテゴリーにおけるAF発症者なし)
  多量飲酒者: 3.56(0.48-26.4)

◇ AF発症の危険因子
AFの発症リスクと独立した有意な関連を示していたのは,年齢(多変量調整ハザード比1.02,95%信頼区間1.01-1.03),多量飲酒(2.61,1.55-4.39),肥満(2.24,1.41-3.58),血糖高値(1.35,1.02-1.78)。
男女別の解析では,肥満については女性のみ,多量飲酒および高脂血症については男性のみで有意な関連がみとめられたが,AF発症リスクに対する肥満および血糖高値と性別との有意な相互作用はみとめられなかった。


◇ 結論
アルコール摂取と心房細動発症リスクとの関連について,日本人地域住民を対象とした前向きコホート研究において,既往歴や服薬情報だけでなく毎年の心電図検査結果も用いた検討も行った。6.4年間(中央値)の追跡の結果,1日3合以上の多量飲酒者ではAF発症リスクが有意に高くなっていたが,少量飲酒者や中程度飲酒者では有意なリスクの増加はみられなかった。いまだ男性における多量飲酒者の割合が高い日本人では,多量飲酒の抑制が心房細動そのものの予防だけでなく,心房細動に関連する脳卒中や心不全の予防にもつながる可能性がある。


▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.