[2016年文献] 多量飲酒は血管内皮機能障害と関連する

血管内皮機能の低下は,アテローム血栓性脳梗塞や心血管疾患の発症に関連すると考えられている。飲酒状況と血管内皮機能との関連について,日本人一般住民(男性)を対象とした断面解析による検討を行った。その結果,多量飲酒者(エタノール換算≧46.0 g/日)では,飲酒未経験者に比して,血流依存性血管拡張反応(%FMD)の平均値が低く,%FMDが低値の人の割合が高かった。このことから,多量飲酒は血管内皮機能障害の独立した危険因子となる可能性が示唆された。飲酒習慣が血管内皮機能障害に与える影響について明らかにするために,追跡研究によるさらなる検討が必要である。

Tanaka A, et al.; CIRCS Investigators. Heavy Alcohol Consumption is Associated with Impaired Endothelial Function. J Atheroscler Thromb. 2016; 23: 1047-1054. pubmed

コホート
2013~2014年に上腕での血流依存性血管拡張反応(FMD)の測定が実施された2地域(大阪府八尾市,秋田県井川町)の30歳以上の男性410人のうち,80歳以上の6人を除いた404人(断面解析)。
年齢による内皮機能への影響を考慮して,80歳以上は除外した。飲酒者の割合が低いため,女性は除外した。

血管内皮機能は血流依存性血管拡張反応(%FMD: 低値ほど機能低下)により評価した。

飲酒状況については,循環器検診の際に1週間あたり何合飲むかをたずね,0.3合以上飲む人を「飲酒者」,最近3ヵ月以上飲酒していない人を「禁酒者」としたうえで,以下のカテゴリーに分類した(1合はエタノール換算で23 g,日本酒180 mL・ビール1本[633 mL]・ウイスキー2ショット[75 mL]・ワイン2杯[180 mL]に相当)。

 飲酒未経験者: 81人
 禁酒者: 33人
 少量飲酒者(エタノール<23.0 g/日): 114人
 中程度飲酒者(エタノール23.0~45.9 g/日): 74人
 多量飲酒者(エタノール≧46.0 g/日): 102人
結 果
◇ 対象背景
年齢は54.8歳,飲酒率は72%,平均アルコール消費量はエタノール換算24.5 g/日,FMDは6.7%,ベースライン時の上腕動脈径4.4 mm,BMI 24.3 kg/m2,血圧126.9/81.6 mmHg,高血圧49%,降圧薬服用率27%,総コレステロール201.1 mg/dL,LDL-C 119.9 mg/dL,HDL-C 58.0 mg/dL,トリグリセリド132.8 mg/dL,脂質低下薬服用率10%,血糖100.8 mg/dL,HbAlc 5.7%,糖尿病治療薬服用率6%,喫煙率30%,脳卒中既往1.2%,冠動脈疾患既往2%。

ベースライン時の飲酒状況のカテゴリー間で比較すると,多量飲酒者では,飲酒未経験者に比して,%FMDが低く,上腕動脈径が大きく,収縮期血圧値・高血圧有病率・HDL-Cが高く,LDL-C・HbAlcが低かった。

◇ 飲酒状況と血管内皮機能(%FMD)の関連
飲酒状況のカテゴリーごとの%FMD(平均±SE)は以下のとおり。飲酒未経験者に比して,いずれの飲酒状況のカテゴリーでも,多変量調整後に有意な差をみとめなかった。
年齢,上腕動脈径,BMI,収縮期血圧,LDL-C,HbAlc,喫煙状況[禁煙・1日20本未満・1日20本以上],降圧薬服用,地域で調整)

 飲酒未経験者: 6.98%±0.34
 禁酒者: 6.25%±0.52
 少量飲酒者: 7.25%±0.28
 中程度飲酒者: 6.76%±0.34
 多量飲酒者: 6.16%±0.31

飲酒状況のカテゴリーごとの,%FMD低値(<5.3%)の人数と多変量調整オッズ比(95%信頼区間)は以下のとおり。飲酒未経験者に比して,多量飲酒者では%FMDが低値となるリスクが有意に高かった。

 飲酒未経験者: 20人,1.00(対照)
 禁酒者: 13人,1.76(0.69-4.50)
 少量飲酒者: 26人,0.86(0.42-1.76)
 中程度飲酒者: 2人,0.98(0.45-2.12)
 多量飲酒者: 51人,2.39(1.15-4.95),P<0.05

◇ 結論
血管内皮機能の低下は,アテローム血栓性脳梗塞や心血管疾患の発症に関連すると考えられている。飲酒状況と血管内皮機能との関連について,日本人一般住民(男性)を対象とした断面解析による検討を行った。その結果,多量飲酒者(エタノール換算≧46.0 g/日)では,飲酒未経験者に比して,血流依存性血管拡張反応(%FMD)の平均値が低く,%FMDが低値の人の割合が高かった。このことから,多量飲酒は血管内皮機能障害の独立した危険因子となる可能性が示唆された。飲酒習慣が血管内皮機能障害に与える影響について明らかにするために,追跡研究によるさらなる検討が必要である。


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