[2016年文献] 1990~2000年代にかけて糖尿病の有病率は増加し,心血管疾患発症に対する人口寄与割合も顕著に増加

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究のデータを用い,1990年代から2000年代にかけての糖尿病有病率,ならびに心血管疾患に対する糖尿病の人口寄与割合の推移を検討した。その結果,糖尿病の性・年齢調整有病率は経時的に有意に増加しており,心血管疾患発症に対する糖尿病の人口寄与割合も,顕著な増加を示していた。

Hayama-Terada M, et al.; CIRCS Investigators. Diabetes Trend and Impact on Risk of Cardiovascular Disease in Middle-Aged Japanese People - The CIRCS Study. Circ J. 2016; 80: 2343-2348. pubmed

コホート
秋田県井川町,高知県[旧]野市町,茨城県[旧]協和町,または大阪府八尾市南高安地区の4地域において,以下の期間に循環器健診を受診した,冠動脈疾患または脳卒中既往のない40~69歳の一般住民(追跡期間の中央値: 10.1年間)。
・コホート1(1992~1995年): 8744人(男性3178人,女性5566人)を2002年12月まで追跡。
・コホート2(1996~1999年): 7996人(2889人,5107人)を2007年12月まで追跡(野市町コホートのみ2005年まで追跡)。
・コホート3(2000~2003年): 7273人(2575人,4698人)を2012年12月まで追跡(野市町コホートでは2005年まで,協和町コホートでは2010年まで追跡)。

ベースライン時に測定した血糖値(空腹時とは限らない)により,対象者を以下の3つのカテゴリーに分けて解析を行った。
  糖尿病: 空腹時血糖≧126 mg/dL,非空腹時血糖≧200 mg/dL,または糖尿病治療中
  境界型糖尿病: 空腹時血糖110~125 mg/dLまたは非空腹時血糖血糖140~199 mg/dL
  正常: 空腹時血糖110 mg/dL未満および非空腹時血糖140 mg/dL未満
結 果
◇ 糖尿病有病率の推移
糖尿病の性・年齢調整有病率は,コホート1で4.4%,コホート2で4.8%,コホート3で5.6%と有意に増加していた(P for trend<0.001)。
境界型糖尿病の有病率はそれぞれ8.9%,8.4%,8.6%で,有意な変化はみられなかった(P for trend=0.40)。

◇ 心血管危険因子の推移
コホート1~3にかけての糖尿病有病者の対象背景を比較すると,経時的に有意に増加していたのは糖尿病治療率,平均年齢,総コレステロール,HDL-Cおよび脂質低下薬服用率で,有意に減少していたのは収縮期血圧およびトリグリセリドであった。
コホート1~3にかけての境界型糖尿病の人の対象背景を比較すると,経時的に有意に増加していたのは平均年齢,BMI,過体重の割合,総コレステロール,HDL-Cおよび脂質低下薬服用率であった。

◇ 糖尿病・境界型糖尿病者の心血管疾患発症リスクの推移
血糖値のカテゴリーごとの心血管疾患発症の多変量調整ハザード比は以下のとおりで,糖尿病有病者の心血管疾患リスクは経時的に増加する傾向がみられた(出血性脳卒中を除く)。
性,年齢,BMI,総コレステロール,トリグリセリド,収縮期血圧,降圧薬服用,喫煙,飲酒,採血のタイミング[食事からの経過時間],コホートで調整)

[全心血管疾患]
 コホート1: 正常1.00(対照),境界型糖尿病0.99(95%信頼区間0.67-1.47),糖尿病1.40(0.91-2.14),
 コホート2: 1.00,1.43( 0.95-2.15),1.93(1.25-3.00)
 コホート3: 1.00,0.83(0.48-1.44),2.59(1.77-3.81)

[冠動脈疾患]
 コホート1: 1.00,0.59(0.27-1.32),1.29(0.62-2.69)
 コホート2: 1.00,0.88(0.34-2.28),2.68(1.31-5.51)
 コホート3: 1.00,1.03(0.42-2.53),3.55(1.86-6.78)

[全脳卒中]
 コホート1: 1.00,1.23(0.79-1.90),1.39(0.83-2.34)
 コホート2: 1.00,1.64(1.04-2.59),1.63(0.93-2.84)
 コホート3: 1.00,0.81(0.41-1.58),2.35(1.47-3.77)

[虚血性脳卒中]
 コホート1: 1.00,1.19(0.69-2.03),1.55(0.85-2.84)
 コホート2: 1.00,1.70(0.97-2.97),2.00(1.05-3.80)
 コホート3: 1.00,0.85(0.35-2.02),3.00(1.65-5.29)

[出血性脳卒中]
 コホート1: 1.00,1.25(0.58-2.71),1.03(0.36-2.96)
 コホート2: 1.00,1.53(0.68-3.40),0.95(0.29-3.13)
 コホート3: 1.00,0.59(0.18-1.95),1.60(0.69-3.70)

◇ 人口寄与割合(PAF)の推移
全心血管疾患の発症に対する糖尿病のPAFは,コホート1で2.8(95%信頼区間-1.2-6.6),コホート2で5.6(0.9-10.2),コホート3で12.4(5.8-18.5)と顕著に増加していた。この結果は,冠動脈疾患や脳卒中についても同様であった。
一方,境界型糖尿病のPAFの推移に明らかな傾向はみられなかった。


◇ 結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究のデータを用い,1990年代から2000年代にかけての糖尿病有病率,ならびに心血管疾患に対する糖尿病の人口寄与割合の推移を検討した。その結果,糖尿病の性・年齢調整有病率は経時的に有意に増加しており,心血管疾患発症に対する糖尿病の人口寄与割合も,顕著な増加を示していた。


▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.