[2017年文献] 毎年の心電図検査で心筋虚血所見が悪化した人では,心血管疾患発症リスクが高い

心筋の虚血状態を示す心電図所見の有無,ならびに一定期間内の所見の変化と長期的な心血管疾患発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究における検討を行った。23年間の追跡の結果,継続して重度異常がみられた場合のみならず,所見の悪化がみられた場合にも,継続して異常なしだった場合にくらべて心血管疾患発症リスクが有意に高くなっていた。

Sawai T, et al. Changes in ischaemic ECG abnormalities and subsequent risk of cardiovascular disease. Heart Asia. 2017; 9: 36-43.pubmed

コホート
秋田県井川町,高知県[旧]野市町,茨城県[旧]協和町,または大阪府八尾市南高安地区の4地域において,1975~1987年に初回の循環器健診を受けた40~69歳の一般住民11611人のうち,健診データに不備がある,または心血管疾患既往のある517人,初回の心電図検査時に異常所見(陳旧性心筋梗塞を示唆する異常Q波またはQSパターン異常など)のあった38人を除いた11056人。
初回の健診後,ならびにその10年後(1985~1997年)までの毎年の健診時に心電図検査を実施し,2010年まで(野市地区のみ2007年まで)追跡を行った。

心電図所見の変化については,2回目以降の心電図データのない1621人,および追跡開始前に転居した,または心血管疾患を発症した61人を除く9374人を解析対象とした。
初回から10年後にかけての毎年の心電図検査で,
・2年目以降に重度異常がみつかった場合は,初回からその時点までの変化
・2年目以降に重度異常はなかったが軽度異常がみつかった場合は,初回からその時点までの変化
・2年目以降に異常がなかった場合は,初回から10年後までの変化
をもとに対象者を以下の9つのカテゴリーに分類。
上記の変化を判断した時点(異常が見つかった時点または10年後)から追跡を開始し,心血管疾患の発症状況を調査した。
  「継続して異常なし」「異常なし→軽度異常」「異常なし→重度異常」
  「軽度異常→異常なし」「継続して軽度異常」「軽度異常→重度異常」
  「重度異常→異常なし」「重度異常→軽度異常」「継続して重度異常」

心電図異常として,心筋虚血の指標となる以下の2つの所見について,ミネソタコードに沿った検討を行った。
・ST異常(ミネソタコード4)
  重度異常(major abnormality): 4-1または4-2
  軽度異常(minor abnormality): 4-3,4-4,または4-5(modified)
・T波異常(ミネソタコード5)
  重度異常: 5-1または5-2
  軽度異常: 5-3,5-4,または5-5(modified)
結 果
◇ 初回の心電図所見と心血管疾患(CVD)発症リスク
平均年齢は52.9歳。
年齢,BMI,収縮期血圧,拡張期血圧,総コレステロール,降圧薬服用率,および糖尿病有病率は,いずれも心電図異常が重度であるほど高値を示していた。

25.5年間の追跡期間中,CVD(脳卒中または冠動脈疾患)の発症は1468件であった。
ST異常,ならびにT波異常のカテゴリーごとのCVD発症の多変量調整ハザード比*(vs. 異常なし)は以下のとおり。いずれについても,重度異常は全CVDおよび脳卒中のリスク増加と有意に関連しており,重度のT波異常は冠動脈疾患のリスクとも関連していた(*P<0.05)。
*年齢,性,収縮期血圧,降圧薬服用,BMI,喫煙状況,飲酒状況,総コレステロール,糖尿病,その他の心電図異常で調整)

(1)ST異常
 全CVD: 軽度異常1.18(95%信頼区間1.01-1.39)*,重度異常1.57(1.26-1.96)*
 脳卒中: 1.16(0.96-1.39), 1.57(1.22-2.02)*
 冠動脈疾患: 1.21(0.87-1.67),1.47(0.93-2.34)

(2)T波異常
 全CVD: 1.21(1.03-1.42)*,2.10(1.67-2.63)*
 脳卒中: 1.08(0.90-1.30),1.90(1.46-2.47)*
 冠動脈疾患: 1.48(1.09-2.02)*,2.65(1.73-4.06)*

◇ 心電図所見の変化とCVD発症リスク
23.0年間の追跡期間中,9374人におけるCVDの発症は1196件であった。
ST異常,ならびにT波異常所見の変化のカテゴリーごとのCVD発症の多変量調整ハザード比*(vs. 異常なし)をみた結果,「継続して異常なし」に対する有意差がみとめられた項目は以下のとおりで,継続して重度異常がみられたカテゴリー,ならびに悪化がみられたカテゴリーの多くで,有意なリスク増加がみとめられた。

(1)ST異常
・全CVD: 軽度異常→重度異常1.47(95%信頼区間1.08-2.01),継続して重度異常1.58(1.18-2.12)
・脳卒中: 継続して重度異常1.51(1.08-2.10)
・冠動脈疾患: 継続して重度異常1.81(1.02-3.21)

(2)T波異常
・全CVD: 異常なし→軽度異常1.38(1.16-1.64),軽度異常→重度異常1.85(1.38-2.48),継続して重度異常2.48(1.88-3.28)
・脳卒中: 異常なし→軽度異常1.40(1.15-1.70),軽度異常→重度異常1.83(1.32-2.55),継続して重度異常2.15(1.55-2.98)
・冠動脈疾患: 異常なし→重度異常1.92(1.03-3.59),軽度異常→異常なし2.10(1.13-3.90),継続して重度異常3.62(2.17-6.05)


◇ 結論
心筋の虚血状態を示す心電図所見の有無,ならびに一定期間内の所見の変化と長期的な心血管疾患発症リスクとの関連について,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究における検討を行った。23年間の追跡の結果,継続して重度異常がみられた場合のみならず,所見の悪化がみられた場合にも,継続して異常なしだった場合にくらべて心血管疾患発症リスクが有意に高くなっていた。


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