[2019年文献] 中年男性において,朝食から摂取するエネルギー量ならびに飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸の摂取量は脳内出血発症リスクと負に関連する

これまでの研究で,朝食の習慣は,冠動脈疾患・脳出血・2型糖尿病の発症リスクの低下と関連することが報告されている。そこで,日本人一般住民を対象として,朝食から摂取するエネルギー量ならびに各種栄養素(蛋白質・飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸・炭水化物)の摂取量と,脳卒中発症リスクとの関連を調べた。その結果,中年男性において,朝食から摂取するエネルギー量ならびに飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸の摂取量は,脳内出血の発症リスクと負に関連していた。

Okada C, et al.; CIRCS Investigators. Dietary Intake of Energy and Nutrients from Breakfast and Risk of Stroke in The Japanese Population: The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). J Atheroscler Thromb. 2018; 26: 145-153.pubmed

コホート
1981~1990年にCIRCSの循環器健診が行われた4地域(秋田県井川町,大阪府八尾市南高安地区,高知県野市町[現香南市],茨城県協和町[現筑西市])に居住の 40~59歳の3289人のうち,脳卒中・冠動脈疾患の既往のある人を除いた3248人(男性1662人,女性1586人)を24.6年間(中央値)追跡。

食事については24時間思い出し法により調査した。朝食・昼食・夕食から摂取するエネルギー量と,蛋白質・脂質・炭水化物ならびに飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸の1日あたりの摂取量については,食品成分表(第7版)をもとに算出した。

朝食から摂取するエネルギー量,ならびに各栄養素の摂取量ごとの四分位値で対象者を4つのカテゴリーにわけて解析した。

・朝食から摂取するエネルギー量ごとのカテゴリー(四分位範囲[kcal])
 男性: [Q1]0~381,[Q2]382~518,[Q3]518~657,[Q4]657~1729
 女性: [Q1]0~297,[Q2]297~388,[Q3]388~493,[Q4]582~1465

・男性における,朝食から摂取する各栄養素の摂取量ごとのカテゴリー(四分位範囲[g])
 蛋白質: [Q1]0.0~11.1,[Q2]11.1~16.1,[Q3]16.1~22.3,[Q4]22.4~71.5
 飽和脂肪酸: 0.0~0.8,0.8~1.9,1.9~4.0,4.0~22.1
 一価不飽和脂肪酸: 0.0~0.9,0.9~2.4,2.4~4.5,4.5~19.6
 多価不飽和脂肪酸: 0.0~1.3,1.3~2.2,2.2~3.6,3.6~18.5
 炭水化物: 0.0~62.7,62.7~85.0,85.1~112.9,113.1~297.9

女性については,朝食から摂取するエネルギー量と心血管疾患とのあいだに有意な関連がみとめられなかったため,対象としなかった。
結 果
追跡期間中に脳卒中を発症した人は230人(男性147人,女性83人)。

◇ 対象背景
朝食から摂取するエネルギー量でわけた4つのカテゴリー別の対象背景は以下のとおり。

・男性
 年齢(歳): [Q1]48.4,[Q2]49.3,[Q3]49.1,[Q4]49.0(P=0.12)
 BMI(kg/m2): 23.3,23.2,23.5,23.7(P=0.02)
 1日の総エネルギー摂取量(kcal/日): 2023,2201,2465,2932(P<0.001)
 朝食から摂取するエネルギー量(kcal/日): 276,448,584,821(P<0.001)
 血清総コレステロール(mg/dL): 193.0,189.1,184.5,187.9(P=0.004)
 血清総トリグリセリド(mg/dL): 177,166.4,160.2,156.6(P=0.10)
 喫煙習慣: 64%,60%,58%,53%(P=0.01)
 飲酒習慣: 73%,74%,73%,73%(P=0.99)

・女性
 年齢(歳): 49.0,49.4,49.7,49.0(P=0.27)
 BMI(kg/m2): 24.0,23.9,23.8,23.8(P=0.90)
 1日の総エネルギー摂取量(kcal/日): 1484,1659,1787,2168(P<0.001)
 朝食から摂取するエネルギー量(kcal/日): 224,341,436,622(P<0.001)
 血清総コレステロール(mg/dL): 203.4,198.4,199.9,193.4(P<0.001)
 血清総トリグリセリド(mg/dL): 129.2,131.0,133.6,135.4(P=0.77)
 喫煙習慣: 5%,5%,4%,5%(P=0.92)
 飲酒習慣: 9%,7%,8%,7%(P=0.61)

◇ 朝食から摂取するエネルギー量と心血管疾患発症リスクとの関連
朝食から摂取するエネルギー量のカテゴリーごとの,心血管疾患発症の多変量調整後ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。男性では,朝食から摂取するエネルギー量の増加は,脳内出血発症リスクと負に関連した(年齢,地域,昼食・夕食からのエネルギー摂取量,喫煙の習慣,飲酒の習慣,BMI,トリグリセリド値,総コレステロール値,収縮期血圧,降圧薬の服用の有無,糖尿病既往で調整)(*P<0.05)。

・脳卒中
 男性: [Q1]1.00,[Q2]0.90(0.56-1.44),[Q3]0.73(0.45-1.19),[Q4]0.92(0.56-1.50),P for trend=0.56
 女性: 1.00,1.28(0.67-2.44),0.95(0.49-1.85),1.25(0.65-2.41),P for trend=0.74

・脳内出血
 男性: 1.00,0.73(0.34-1.58),0.55(0.24-1.23),0.38(0.15-0.99)*,P for trend=0.04
 女性: 1.00,0.50(0.09-2.80),1.13(0.29-4.39),1.36(0.36-5.10),P for trend=0.45

・くも膜下出血
 男性: 1.00,0.22(0.02-1.99),0.28(0.05-1.60),1.32(0.33-5.28),P for trend=0.69
 女性: 1.00,3.58(0.72-17.6),2.44(0.47-12.7),2.27(0.41-12.5),P for trend=0.56

・虚血性脳卒中
 男性: 1.00,1.35(0.70-2.59),1.11(0.56-2.19),1.40(0.71-2.76),P for trend=0.48
 女性: 1.00,1.15(0.50-2.61),0.59(0.23-1.50),1.04(0.43-2.53),P for trend=0.66

◇ 朝食から摂取する各栄養素の摂取量と脳内出血発症リスクとの関連
男性における,朝食から摂取する各栄養素の摂取量のカテゴリーごとの,脳内出血発症の多変量調整後ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。飽和脂肪酸ならびに一価不飽和脂肪酸の摂取量の増加は,脳内出血発症リスクと負に関連した(*P<0.05)。

 蛋白質: [Q1]1.00,[Q2]1.03(0.46-2.31),[Q3]1.41(0.57-3.47),[Q4]1.12(0.35-3.62),P for trend=0.65
 飽和脂肪酸: 1.00,1.19(0.58-2.43),0.44(0.17-1.18),0.22(0.06-0.79)*,P for trend=0.008
 一価不飽和脂肪酸: 1.00,1.20(0.58-2.50),0.84(0.35-2.00),0.21(0.05-0.86)*,P for trend=0.06
 多価不飽和脂肪酸: 1.00,1.44(0.63-3.29),1.83(0.74-4.50),1.39(0.47-4.13),P for trend=0.43
 炭水化物: 1.00,0.74(0.34-1.61),0.42(0.16-1.07),0.59(0.22-1.58),P for trend=0.16

■ 結論
これまでの研究で,朝食の習慣は,冠動脈疾患・脳出血・2型糖尿病の発症リスクの低下と関連することが報告されている。そこで,日本人一般住民を対象として,朝食から摂取するエネルギー量ならびに各種栄養素(蛋白質・飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸・炭水化物)の摂取量と,脳卒中発症リスクとの関連を調べた。その結果,中年男性において,朝食から摂取するエネルギー量ならびに飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸の摂取量は,脳内出血の発症リスクと負に関連していた。


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