[2018年文献] 1日30本以上の喫煙者では血管内皮機能が低下している

喫煙は急性の血管内皮機能障害を引き起こすことが知られているが,喫煙者集団の内皮機能について検討した報告は少ない。そこで,日本人一般住民を対象としたコホート研究の断面解析を行い,量や期間を含むくわしい喫煙状況と,血流介在血管拡張反応(FMD)でみた内皮機能との関連を検討した。その結果,1日30本以上喫煙する人では,喫煙未経験者に比して内皮機能低下のリスクが有意に高かった。また,40箱・年以上の喫煙歴や,40年間以上の喫煙歴がある人でも内皮機能低下のリスクが高くなっており,多量・長期間の喫煙が内皮機能障害を引き起こす可能性が示唆された。

Cui M, et al.; CIRCS investigators. Associations of Tobacco Smoking with Impaired Endothelial Function: The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). J Atheroscler Thromb. 2018; 25: 836-845.pubmed

コホート
秋田県井川町または大阪府八尾市南高安地区に居住し,2013~2016年に循環器健診を受診した30~79歳の男性517人および女性393人。

血管超音波検査によって血流介在血管拡張反応(flow-mediated dilation: FMD)を測定し,内皮機能低下を示す「低値」のカットオフ値として,以下の2つを用いた。
・第1四分位値(5.1%)未満
・中央値(6.8%)未満

血管内皮機能の指標の1つ。
血流は,虚血状態から開放されると短時間のうちに増加し(反応性充血),血管内皮へのずり応力(shear stress)が増大することで血管内皮から一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が放出されて,これらが血管平滑筋細胞に作用することで動脈の拡張が生じる。
この過程における血管径の最大変化率を用いて内皮機能を非侵襲的に評価したのがFMDで,血管超音波検査によって,上腕部の安静時血管径,ならびにカフによる駆血(虚血状態)後の血流開放時にみられる最大拡張血管径を測定した結果から,以下のように算出される。

 FMD(%)=(最大拡張血管径-安静時血管径)/安静時血管径 × 100
結 果
◇ 対象背景
喫煙率は22%(男性33%,女性9%[P<0.001]),血流介在血管拡張反応(flow-mediated dilation: FMD)の平均値は7.1%(男性6.7%,女性7.8%[P<0.001])であった。

◇ 喫煙状況・量・期間とFMD値
喫煙状況,禁煙者および喫煙者の喫煙箱・年,および喫煙期間ごとにみたFMD値,およびFMD低値の割合は以下のとおりで,量が多い・期間の長い喫煙者ほど内皮機能が低下している傾向がみられた(*P<0.05 vs. 喫煙未経験者)。

・ベースライン時の喫煙状況別
  FMD: 喫煙未経験者7.37%,禁煙者7.05%,喫煙者(30本/日未満)7.01%,喫煙者(30本/日以上)6.21%*
  FMD低値(<5.1%)の割合: 18%,26%*,28%*,42%*
  FMD低値(<6.8%)の割合: 48%,50%,53%,68%*

・過去の喫煙量別
  FMD: 喫煙未経験者7.37%,喫煙経験者(1~19箱・年)7.10%,喫煙経験者(20~39箱・年)7.01%,喫煙経験者(40箱・年以上)6.63%*
  FMD低値(<5.1%)の割合: 18%,23%,24%,33%*
  FMD低値(<6.8%)の割合: 48%,50%,51%,60%*

・過去の喫煙期間別
  FMD: 喫煙未経験者7.37%,喫煙経験者(1~19年)7.14%,喫煙経験者(20~39年)7.03%,喫煙経験者(40年以上)6.33%*
  FMD低値(<5.1%)の割合: 18%,21%,26%,37%*
  FMD低値(<6.8%)の割合: 48%,48%,53%,65%*

◇ 喫煙状況・量・期間と内皮機能低下のリスク
喫煙状況,禁煙者および喫煙者の喫煙箱・年,および喫煙期間ごとにみたFMD低値(5.1%未満)の多変量調整オッズ比(vs. 喫煙未経験者)は以下のとおりで,量が多い,または期間の長い喫煙者ではリスクが有意に高かった。
これらの結果は,6.8%未満をカットオフ値とした解析でも同様であった。
年齢,性,コホート,上腕動脈径,BMI,収縮期血圧,降圧薬服用,non-HDL-C,HDL-C,トリグリセリド,脂質低下薬服用,糖尿病,糖尿病薬服用,飲酒状況および身体活動状況で調整)

・ベースライン時の喫煙状況別
禁煙者: 1.18(95%信頼区間0.75-1.84),喫煙者(30本/日未満): 1.26(0.75-2.13),喫煙者(30本/日以上): 2.23(1.00-5.14)*

・過去の喫煙量別
喫煙経験者(1~19箱・年): 1.10(0.70-1.70),喫煙経験者(20~39箱・年): 1.14(0.69-1.90),喫煙経験者(40箱・年以上): 1.83(1.04-3.20)*

・過去の喫煙期間別
喫煙経験者(1~19年): 1.07(0.66-1.75),喫煙経験者(20~39年): 1.20(0.75-1.94),喫煙経験者(40年以上): 2.16(1.15-4.06)*


男女別に解析を行うと,男性ではいずれも同様の結果がみとめられたが,女性では量が多い・期間の長い喫煙者がほとんどおらず,カテゴリー間の有意差はみられなかった。


◇ 結論
喫煙は急性の血管内皮機能障害を引き起こすことが知られているが,喫煙者集団の内皮機能について検討した報告は少ない。そこで,日本人一般住民を対象としたコホート研究の断面解析を行い,量や期間を含むくわしい喫煙状況と,血流介在血管拡張反応(FMD)でみた内皮機能との関連を検討した。その結果,1日30本以上喫煙する人では,喫煙未経験者に比して内皮機能低下のリスクが有意に高かった。また,40箱・年以上の喫煙歴や,40年間以上の喫煙歴がある人でも内皮機能低下のリスクが高くなっており,多量・長期間の喫煙が内皮機能障害を引き起こす可能性が示唆された。


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