[2020年文献] 日本人では血漿中のNT-proBNP濃度が中程度であっても全脳卒中・虚血性脳卒中発症リスクが高くなる

脳性ナトリウム利尿ペプチドN端フラグメント(NT-proBNP)は,心不全の重症度の診断や,脳卒中を含む心血管疾患発症の予測マーカーとして利用されている。また,血漿中のNT-proBNPの増加は,脳卒中の予後不良と関連していることが知られている。しかし,これらは欧米からの報告が多く,日本での報告は少ない。脳卒中のサブタイプの割合は欧米人とアジア人では異なっているため,今回,日本人における血漿中のNT-proBNP濃度と脳卒中との関連を検討した。その結果,NT-proBNPの濃度が高いほど,脳卒中・虚血性脳卒中発症リスクが有意に高かった。また,ベースライン時に心房細動既往のある人(抗血小板薬,抗血栓薬を使用し,脳卒中発症リスクに影響を及ぼす可能性があるため)を除外して解析を行ったが,同様の結果が得られた。血漿中のNT-proBNP濃度が欧米人に比して低い日本人では,NT-proBNP濃度が中程度(125~399 pg/mL)であっても,全脳卒中および虚血性脳卒中の発症リスクと関連していることが示唆された。

Ebihara K, et al.; CIRCS Investigators. Moderate Levels of N-Terminal Pro-B-Type Natriuretic Peptide is Associated with Increased Risks of Total and Ischemic Strokes among Japanese: The Circulatory Risk in Communities Study. J Atheroscler Thromb. 2020; 27: 751-760.pubmed

コホート
2010~2012年に秋田県井川町,2010~2013年に茨城県筑西市協和地区にて健診を受診した20~95歳の4404人のうち,ベースライン時に脳卒中既往のある11人を除外した4393人を対象とした。追跡期間は,協和地区は2014年12月31日,井川地区は2016年12月31日までの平均4.7年。

血漿中の脳性ナトリウム利尿ペプチドN端フラグメント(NT-proBNP)濃度はCobas 8000 analyzer(Roche Diagnoatics Corporation)を用いて測定し,臨床で用いられているカットオフ値により,対象者を4つのカテゴリーに分類した。

[C1]<55 pg/mL,[C2]55~124 pg/mL,[C3]125~399 pg/mL [C4]≧400 pg/mL
結 果
追跡期間中に脳卒中を発症した人は50人。内訳は虚血性脳卒中が35人(ラクナ梗塞15人,心原性脳塞栓6人,脳塞栓10人),出血性脳卒中が14人であった。

◇ 対象背景
4つのカテゴリーごとの対象背景は以下のとおり。

 人数(人): [C1]2617,[C2]1218,[C3]457,[C4]101
 年齢(歳): 56.9,64.6,70.4,71.4,P for trend<0.001
 男性: 46.8%,30.4%,32.7%,48.8%,P for trend=0.29
 降圧薬服用: 25.1%,28.6%,36.9%,43.8%,P for trend<0.001
 血清総コレステロール(mg/dL): 211,203,195,188,P for trend<0.001
 eGFR(mL/min/1.73 m2): 79.1,78.6,76.5,70.2,P for trend<0.001
 心房細動既往: 0.07%,0.2%,1.5%,51.9%,P for trend<0.001
 心不全既往: 15.9%,18.0%,23.6%,24.2%,P for trend=0.03

◇NT-proBNP濃度と脳卒中発症リスク
血漿中のNT-proBNP濃度のカテゴリーごとの脳卒中発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。C1に比して,C3とC4は全脳卒中発症リスクが有意に高く,C4は虚血性脳卒中発症リスクが有意に高かった。また,高値のカテゴリーほど,全脳卒中発症リスク,虚血性脳卒中発症リスクが高くなる有意な傾向がみられた(年齢,性別,BMI,拡張期血圧値,降圧薬服用,non-HDL-C値,eGFR,心房細動既往で調整)。

・全脳卒中
 [C1]1.00,[C2]0.85(0.37-1.94),[C3]2.77(1.25-6.13),[C4]8.45(2.85-25.0),P for trend<0.001
・虚血性脳卒中
 1.00,0.88(0.32-2.43),2.53(0.95-6.70),9.45(2.67-33.4),P for trend<0.001
・ラクナ梗塞
 1.00,0.90(0.22-3.77),1.67(0.35-7.91),13.5(2.17-84.2),P for trend=0.003
・心原性脳塞栓(C3は対象者なし)
 1.00,0.71(0.07-7.53),-,26.9(2.92-248),P for trend<0.001

血漿中のNT-proBNP濃度(対数変換)の1 SD増加ごとの,全脳卒中,虚血性脳卒中,ラクナ梗塞発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれも有意な関連がみられた。

 全脳卒中: 1.94(1.44-2.61),虚血性脳卒中: 1.83(1.30-2.58),ラクナ梗塞: 1.52(0.93-2.49)

◇心房細動既往がある人を除外したときのNT-proBNP濃度と脳卒中発症リスク
ベースライン時に心房細動既往がある人を除外したときの血漿中のNT-proBNP濃度のカテゴリーごとの脳卒中発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。C1に比して,C3,C4の全脳卒中発症リスクは有意に高く,高値のカテゴリーほど脳卒中発症リスクが高くなる有意な傾向がみられた(年齢,性別,BMI,拡張期血圧値,降圧薬服用,non-HDL-C値,eGFR,地域で調整)。

・全脳卒中
 [C1]1.00,[C2]0.83(0.36-1.90),[C3]2.78(1.25-6.18),[C4]9.23(3.07-27.8),P for trend<0.001
・虚血性脳卒中
 1.00,0.86(0.31-2.36),2.60(0.97-6.97),11.0(3.02-40.4),P for trend<0.001
・ラクナ梗塞
 1.00,0.88(0.21-3.66),1.64(0.34-7.78),14.4(2.34-88.3),P for trend=0.002
・心原性脳塞栓(C3は対象者なし)
 1.00,0.70(0.07-7.42),-,28.8(3.21-258),P for trend<0.001

心房細動既往のある人を除外したときの,血漿中のNT-proBNP濃度(対数変換)の1 SD増加ごとの,脳卒中,虚血性脳卒中,ラクナ梗塞発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれも有意な関連がみられた。

 全脳卒中: 1.95(1.44-2.65),虚血性脳卒中: 1.86(1.30-2.66),ラクナ梗塞: 1.74(1.02-2.98)

◇ 結論
脳性ナトリウム利尿ペプチドN端フラグメント(NT-proBNP)は,心不全の重症度の診断や,脳卒中を含む心血管疾患発症の予測マーカーとして利用されている。また,血漿中のNT-proBNPの増加は,脳卒中の予後不良と関連していることが知られている。しかし,これらは欧米からの報告が多く,日本での報告は少ない。脳卒中のサブタイプの割合は欧米人とアジア人では異なっているため,今回,日本人における血漿中のNT-proBNP濃度と脳卒中との関連を検討した。その結果,NT-proBNPの濃度が高いほど,脳卒中・虚血性脳卒中発症リスクが有意に高かった。また,ベースライン時に心房細動既往のある人(抗血小板薬,抗血栓薬を使用し,脳卒中発症リスクに影響を及ぼす可能性があるため)を除外して解析を行ったが,同様の結果が得られた。血漿中のNT-proBNP濃度が欧米人に比して低い日本人では,NT-proBNP濃度が中程度(125~399 pg/mL)であっても,全脳卒中および虚血性脳卒中の発症リスクと関連していることが示唆された。


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