[2021年文献] 塩味を感じとる力は血圧値と負の関連を示す

日本では,東北地方では血圧が高く西日本では低いなど,血圧や脳卒中の発症率に地域差が存在する。2017年の国民健康栄養調査によると,秋田県における20歳以上の成人の平均塩分摂取量は,男性が11.6 g,女性が9.6 gとなっていて,ほかの地域に比して高かった。これに対し,大阪では,男性9.9 g,女性8.4 gであった。また,これまでの横断研究では,塩味を感じとる力が弱いと,24時間蓄尿中のナトリウム排泄量が多く,塩分摂取量が多いことが知られ,高血圧の有病率が高いことが報告されている。そこで,秋田と大阪の人を対象に,塩味に対する認識閾値と塩分摂取量ならびに血圧との関連を調べた。その結果,秋田の男性(35~59歳)は,塩味の検出閾値ならびに認識閾値が高いほど,塩分摂取量のスコアが高かった。そして,秋田の男性(35~59歳)では,検出閾値・認識閾値が高いと収縮期血圧値(SBP)が高く,また,秋田の男性(60~74歳)では,検出閾値が高いと,秋田の35~59歳の女性では,認識閾値が高いとSBPが高かった。つまり秋田では,塩味を感じとる力が弱い人は,塩分摂取量が多く,血圧値が高くなる可能性が示唆された。

Kudo A, et al.; for CIRCS Investigators. Salt taste perception and blood pressure levels in population-based samples: the Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). Br J Nutr. 2021; 125: 203-211.pubmed

コホート
2015~2016年に循環器健診を受けた秋田県井川町と大阪府八尾市南高安地区に住む30~74歳の男女。井川町では1307人(男性524人,女性783人),八尾市では1760人(男性577人,女性1183人)。そのうち,1254人(男性504人,女性750人),1388人(男性452人,女性936人)が食塩含浸濾紙を用いた塩味試験を受けた。
食塩含浸濾紙に塩分を含まないにもかかわらず「塩味を感じる」と回答した396人(井川町の222人[男性75人,女性147人]と八尾市の174人[男性52人,女性122人])と,アンケートに記入漏れがあった23人(井川町8人,八尾市15人)を除外し,井川町では1024人(男性427人,女性597人),八尾市南高安地区では1199人(男性395人,女性804人)を対象とした。

塩味試験は,塩化ナトリウムを0,0.1,0.2,0.4,0.6,0.8,1.0,1.2,1.4,1.6%の濃度でそれぞれ浸み込ませた食塩含浸濾紙「ソルセイブ®」を,参加者の舌の先端に乗せて行った。
参加者が「少し味がする」と答えた濃度を検出閾値とし,「塩味がある」と答えた濃度を認識閾値とした。

参加者に対し,以下のアンケートを行い,塩分を含む食品を摂取した回数をカウントして塩分摂取スコアを算出した。
「Q1: すべての食品に塩味づけをするか」「Q2:スープ(味噌汁など)を1日に2回以上飲むか」「Q3: 麺類のスープを飲み干すか」「Q4: 塩蔵品を週に3回以上食べるか」「Q5: 味を確認する前に醤油やソースをかけるか」「Q6: 漬物を1日に2回以上食べるか」「Q7: 外食の頻度が週1回以上か」,「Q8: 市販の惣菜を食べる頻度が週1回以上か」
結 果
◇ 対象背景
秋田と大阪における性別・年齢別の対象背景は以下のとおり。
 人数(人): [30~59歳の男性]秋田148; 大阪135,[60~74歳の男性]秋田279; 大阪260,[30~59歳の女性]秋田245; 大阪398,[60~74歳の女性]秋田352; 大阪406
 年齢(歳): 46.4; 47.9,66.9; 68.9,46.0; 46.9,66.9; 67.8
 収縮期血圧(mmHg): 126.2; 126.1,137.0; 135.6,118.8; 116.3,134.3; 130.6
 拡張期血圧(mmHg): 84.4; 84.5,83.1; 82.4,75.7; 75.9,78.6; 78.9
 降圧薬服用率: 10.6%; 6.0%,25.2%; 18.9%,1.9%; 4.0%,18.5%; 16.9%
 BMI(kg/m2): 24.3; 24.2,24.2; 24.0,22.5; 21.8,23.7; 22.4
 糖尿病既往: 7.8%; 1.8%,10.4%; 12.1%,1.7%; 1.7%,7.1%; 9.6%
 喫煙率(現在): 21.2%; 19.1%,12.6%; 11.0%,5.1%; 6.4%,1.3%; 1.6%
 飲酒率(現在): 36.8%; 33.9%,40.1%; 32.5%,10.4%; 22.6%,6.1%; 12.9%
 塩分摂取スコア: 2.6; 2.6,2.0; 2.1,1.6; 1.3,1.6; 1.2
 アンケート(Q1~Q8)に「はい」と答えた割合
  Q1: 22.3%; 19.8%,17.6%; 16.0%,14.3%; 17.3%,16.6%; 11.5%
  Q2: 16.3%; 7.1%,17.6%; 5.0%,8.2%; 4.5%,11.6%; 3.2%
  Q3: 18.0%; 23.3%,12.8%; 17.8%,3.4%; 7.6%,1.9%; 5.5%
  Q4: 11.0%; 4.2%,13.4%; 6.3%,5.0%; 3.1%,8.6%; 7.9%
  Q5: 9.2%; 21.2%,8.7%; 14.3%,0.5%; 4.8%,0.8%; 4.0%
  Q6: 5.7%; 5.3%,14.1%; 11.3%,4.0%; 3.9%,16.0%; 9.8%
  Q7: 22.3%; 16.6%,7.1%; 15.8%,7.6%; 14.2%,4.2%; 9.4%
  Q8: 29.3%; 25.4%,10.8%; 14.3%,25.8%; 18.2%,13.2%; 12.8%

◇秋田と大阪における塩味に対する検出閾値と認識閾値
検出閾値は,秋田の男性は61%,大阪の男性は62%,女性は秋田・大阪ともに79%の人が,0.1%の塩分に対し,何らかの味を感じることができた。
認識閾値は,秋田の男性は20%,秋田の女性は32%,大阪の男性は15%,大阪の女性は24%の人が,0.1%の塩分に対し,塩味を感じることができた。しかし,秋田の男性は34%,大阪の男性は30%,秋田の女性は16%,大阪の女性は21%が,1.6%の塩分に対し塩味を感じることができなかった。

◇塩味に対する検出閾値・認識閾値と塩分摂取スコアとの関連
塩味に対する検出閾値・認識閾値のカテゴリーごとの塩分摂取スコア(性別,年齢で調整)は以下のとおり。秋田の35~59歳の男性では,塩味の検出閾値ならびに認識閾値が高いほど,塩分摂取スコアが有意に高かった。

・秋田(30~59歳の男性)
検出閾値: [0.1%]2.5,[0.2%]2.5,[≧0.4%]3.0,P for trend=0.13
認識閾値: [0.1%]2.2,[0.2~0.4%]2.5,[0.6~0.8%]3.0,[1.0~1.6%]2.1,[>1.6%]3.1,P for trend=0.05

・大阪(30~59歳の男性)
検出閾値: [0.1%]2.5,[0.2%]2.7,[≧0.4%]2.8,P for trend=0.26
認識閾値: [0.1%]2.6,[0.2~0.4%]2.3,[0.6~0.8%]2.7,[1.0~1.6%]2.6,[>1.6%]2.6,P for trend=0.79

・秋田(60~74歳の男性)
検出閾値: [0.1%]2.0,[0.2%]1.9,[≧0.4%]2.0,P for trend=0.99
認識閾値: [0.1%]2.3,[0.2~0.4%]1.9,[0.6~0.8%]1.7,[1.0~1.6%]1.9,[>1.6%]2.0,P for trend=0.6

・大阪(60~74歳の男性)
検出閾値: [0.1%]2.0,[0.2%]2.1,[≧0.4%]2.2,P for trend=0.38
認識閾値: [0.1%]1.9,[0.2~0.4%]2.1,[0.6~0.8%]2.7,[1.0~1.6%]2.3,[>1.6%]1.8,P for trend=0.46

◇塩味に対する検出閾値・認識閾値と収縮期血圧値(SBP)との関連
塩味に対する検出閾値・認識閾値のカテゴリーごとのSBP(mmHg,秋田では年齢で調整,大阪では年齢,BMI,喫煙,飲酒で調整)は以下のとおり。秋田の35~59歳の男性では,検出閾値・認識閾値が高いとSBPが高く,秋田の60~74歳の男性では,検出閾値が高いとSBPが高かった。また,秋田の35~59歳の女性では,認識閾値が高いとSBPが高かった。

・秋田(30~59歳の男性)
検出閾値: [0.1%]124.8,[0.2%]126.3,[≧0.4%]131.6,P for trend=0.08
認識閾値: [0.1%]121.9,[0.2~0.4%]127.9,[0.6~0.8%]125.6,[1.0~1.6%]121.4,[>1.6%]133.9,P for trend=0.03

・大阪(30~59歳の男性)
検出閾値: [0.1%]125.5,[0.2%]130.8,[≧0.4%]122.8,P for trend=0.81
認識閾値: [0.1%]127.8,[0.2~0.4%]127.8,[0.6~0.8%]127.4,[1.0~1.6%]122.4,[>1.6%]125.5,P for trend=0.26

・秋田(60~74歳の男性)
検出閾値: [0.1%]135.6,[0.2%]137.6,[≧0.4%]139.8,P for trend=0.09
認識閾値: [0.1%]139.2,[0.2~0.4%]138.8,[0.6~0.8%]131.8,[1.0~1.6%]135.1,[>1.6%]137.9,P for trend=0.77

・大阪(60~74歳の男性)
検出閾値: [0.1%]135.4,[0.2%]131.5,[≧0.4%]139.8,P for trend=0.23
認識閾値: [0.1%]138.0,[0.2~0.4%]133.4,[0.6~0.8%]131.2,[1.0~1.6%]138.8,[>1.6%]135.9,P for trend=0.70

・秋田(30~59歳の女性)
検出閾値: [0.1%]118.3,[0.2%]118.3,[≧0.4%]125.0,P for trend=0.16
認識閾値: [0.1%]116.4,[0.2~0.4%]118.4,[0.6~0.8%]120.5,[1.0~1.6%]120.4,[>1.6%]124.5,P for trend=0.02

・大阪(30~59歳の女性)
検出閾値: [0.1%]116.1,[0.2%]118.1,[≧0.4%]115.0,P for trend=0.85
認識閾値: [0.1%]113.6,[0.2~0.4%]116.8,[0.6~0.8%]114.5,[1.0~1.6%]121.8,[>1.6%]115.8,P for trend=0.08

・秋田(60~74歳の女性)
検出閾値: [0.1%]134.6,[0.2%]137.6,[≧0.4%]128.3,P for trend=0.14
認識閾値: [0.1%]136.7,[0.2~0.4%]133.1,[0.6~0.8%]133.0,[1.0~1.6%]133.7,[>1.6%]133.7,P for trend=0.35

・大阪(60~74歳の女性)
検出閾値: [0.1%]130.2,[0.2%]130.8,[≧0.4%]133.8,P for trend=0.28
認識閾値: [0.1%]131.8,[0.2~0.4%]132.2,[0.6~0.8%]128.7,[1.0~1.6%]130.2,[>1.6%]129.7,P for trend=0.08

◇ 結論
日本では,東北地方では血圧が高く西日本では低いなど,血圧や脳卒中の発症率に地域差が存在する。2017年の国民健康栄養調査によると,秋田県における20歳以上の成人の平均塩分摂取量は,男性が11.6 g,女性が9.6 gとなっていて,ほかの地域に比して高かった。これに対し,大阪では,男性9.9 g,女性8.4 gであった。また,これまでの横断研究では,塩味を感じとる力が弱いと,24時間蓄尿中のナトリウム排泄量が多く,塩分摂取量が多いことが知られ,高血圧の有病率が高いことが報告されている。そこで,秋田と大阪の人を対象に,塩味に対する認識閾値と塩分摂取量ならびに血圧との関連を調べた。その結果,秋田の男性(35~59歳)は,塩味の検出閾値ならびに認識閾値が高いほど,塩分摂取量のスコアが高かった。そして,秋田の男性(35~59歳)では,検出閾値・認識閾値が高いと収縮期血圧値(SBP)が高く,また,秋田の男性(60~74歳)では,検出閾値が高いと,秋田の35~59歳の女性では,認識閾値が高いとSBPが高かった。つまり秋田では,塩味を感じとる力が弱い人は,塩分摂取量が多く,血圧値が高くなる可能性が示唆された。


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