[2021年文献] 体重過多の有無にかかわらず,高血圧または糖尿病は心血管疾患発症のリスク因子となる

CVDリスク因子をもつ人は,体重過多の有無にかかわらず,CVDの発症リスクが高いことが明らかになっているが,未治療のCVDリスク因子をもつ人に関する疫学的エビデンスは乏しい。そこで,本研究では,CVDリスク因子に関連するCVD発症リスクの検討と人口寄与割合(PAF)の算出を行った。その結果,BMIが25未満かつCVD発症の低リスク群の人に比して,BMIが25 kg/m2未満であっても25 kg/m2以上であっても,血圧が高いカテゴリーの人はCVD発症リスクが高かった。さらに,血糖値が高いカテゴリーの人でも同様の結果が得られた。一方,LDL-Cならびに蛋白尿の高リスクのカテゴリーではこのような関連性は認められなかった。CVD予防のためには,体重過多の有無にかかわらず,高血圧と糖尿病をもつ人に対する治療を優先することが有用であることが示唆された。

Matsumura T, et al. Impact of Major Cardiovascular Risk Factors on the Incidence of Cardiovascular Disease among Overweight and Non-Overweight Individuals: The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). J Atheroscler Thromb. 2021; Mar 16. doi: 10.5551/jat.60103.pubmed

コホート
1995~2000年に,秋田県井川町,大阪府八尾市南高安地区,高知県(旧)野市町,茨城県(旧)協和町で検診を受けた40~74歳の男女10822人のうち,心血管疾患(CVD)既往のある人,高血圧,糖尿病,脂質異常症,腎臓病の治療を受けている人などを除外した,8051人(男性2959人,女性5092人)を対象とした。追跡期間中央値は14.1年。

J-HARP*基準を基に,対象者をそれぞれのリスク因子ごとに3つのカテゴリーに分類した。
・血圧
[低リスク群]収縮期血圧(SBP)140 mmHg未満ならびに拡張期血圧(DBP)90 mmHg未満,[中リスク群]低リスク群にも高リスク群にも入らない人,[高リスク群]SBP 160 mmHg以上またはDBP 100 mmHg以上

*J-HARP: 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業[生活習慣病重症化予防のための戦略研究])

・血糖値
[低リスク群]空腹時血糖値 110 mg/dL未満または非空腹時血糖値 140 mg/dL未満,[中リスク群]空腹時血糖値 110 mg/dL以上130 mg/dL未満または非空腹時血糖値 140 mg/dL以上180 mg/dL未満,[高リスク群]空腹時血糖値 130 mg/dL以上または非空腹時血糖値 180 mg/dL以上

・LDL-C
[低リスク群]LDL-C 140 mg/dL未満,[中リスク群]LDL-C 140 mg/dL以上180 mg/dL未満,[高リスク群]LDL-C 180 mg/dL以上

・蛋白尿
[低リスク群]-または±,[中リスク群]1+,[高リスク群]≧2+
結 果
追跡中にCVDを発症した人は327人(男性188人,女性139人)。そのうち,脳卒中は223人(男性117人,女性106人),冠動脈疾患(CHD)は111人(男性76人,女性35人)。

◇ 対象背景
CVDを発症した人,またはしなかった人の背景は以下のとおり。

 人数: [CVDを発症した人]327人,[CVDを発症しなかった人]7724人
 年齢: 62.3歳,56.1歳,P<0.001
 女性: 42.5%,64.1%,P<0.001
 BMI(kg/m2): 23.5,23.2,P=0.09
 SBP(mmHg): 142.0,132.2,P<0.001
 DBP(mmHg): 85.0,80.3,P<0.001
 空腹時血糖(mg/dL): 101.4,96.7,P=0.006
 非空腹時血糖(mg/dL): 121.3,106.5,P<0.001
 トリグリセリド(mg/dL): 139.2,119.7,P<0.001
 LDL-C(mg/dL): 124.8,126.0,P=0.51
 HDL-C(mg/dL): 55.3,58.8,P<0.001
 喫煙(現在): 34.7%,22.2%,P<0.001
 飲酒: 41.4%,36.1%,P=0.05
 CVDの家族歴: 36.7%,30.1%,P=0.01

◇ 3つのリスク因子とCVD発症リスクとの関連
CVDイベント発症の割合の経時的変化をKaplan–Meier曲線でみると,血圧と血糖値の高リスク群では,低リスク群,中リスク群に比べ,経時的にCVDイベントが増加した。

◇ CVD発症リスクと4つのリスク因子との関連
リスク因子のカテゴリーごとのCVD発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)と人口寄与割合(PAF,%)は以下のとおり。血圧ならびに血糖値が高い人ほどCVDの発症リスクが高くなり,リスクが高いカテゴリーほど,CVD発症リスクが高くなる傾向がみられた(年齢,性別,居住地域,BMI,喫煙歴,飲酒歴,CVDの家族歴,その他のリスク因子[血圧,血糖値,LDL-C,HDL-C,トリグリセリド,蛋白尿]で調整)。

・CVD
 血圧: [低リスク群]1,[中リスク群]1.7(1.3-2.2),[高リスク群]2.3(1.7-3.1),P for trend<0.001
  PAF(%): -,14.5(8.7-19.1),13.7(10.2-16.3)
 血糖値: 1.0,1.2(0.8-1.7),2.1(1.4-3.1),P for trend=0.002
  PAF(%): -,1.5(-2.5-4.2),3.9(2.0-5.2)
 LDL-C: 1.0,1.0(0.8-1.3),0.9(0.5-1.5),P for trend=0.69
  PAF(%): -,-0.4(-8.0-5.5),-0.6(-4.3-1.5)
 蛋白尿: 1.0,1.2(0.5-2.9),1.6(0.5-5.0),P for trend=0.41
  PAF(%): -,0.2(-1.7-1.0),0.3(-0.9-0.7)

・脳卒中
 血圧: 1,1.8(1.3-2.5),2.8(2.0-4.0),P for trend<0.001
  PAF(%): -,15.4(8.2-20.6),18.0(14.0-20.8)
 血糖値: 1.0,1.4(0.9-2.1),1.6(0.9-2.8),P for trend=0.03
  PAF(%):-,3.7(-0.8-6.7),2.1(-0.7-3.8)
 LDL-C: 1.0,0.8(0.6-1.2),0.7(0.3-1.4),P for trend=0.14
  PAF(%): -,-4.7(-15.2-3.0),-1.9(-7.7-1.0)
 蛋白尿: 1.0,1.4(0.5-3.9),1.4(0.3-5.8),P for trend=0.44
  PAF(%): -,0.5(-1.7-1.3),0.3(-1.7-0.7)

・CHD
 血圧: 1,1.5(1.0-2.4),1.4(0.8-2.4),P for trend=0.1
 PAF(%): -,12.0(0.1-19.8),4.8(-3.9-9.9)
 血糖値: 1.0,0.8(0.4-1.7),2.9(1.6-5.3),P for trend=0.01
 PAF(%): -,-1.7(-11.3-2.9),7.1(3.9-8.8)
 LDL-C: 1.0,1.4(0.9-2.1),1.4(0.6-3.2),P for trend=0.15
 PAF(%): -,8.2(-3.5-15.9),1.5(-3.9-3.7)
 蛋白尿: 1.0,0.7(0.1-5.0),2.0(0.3-15.0),P for trend=0.76
 PAF(%): -,-0.4(-8.6-0.7),0.5(-2.4-0.8)

◇ BMI別にみたCVD発症リスクと4つのリスク因子との関連
BMI別にみた,リスク因子のカテゴリーごとのCVD発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)とPAF(%)は以下のとおり。

・CVD
 血圧(BMI<25 kg/m2): 1.0,2.0(1.5-2.6),2.0(1.4-2.9); (BMI≧25 kg/m2): 1.1(0.7-1.6),1.3(0.9-2.0),2.9(1.9-4.3)
  PAF(%): -,12.5(8.1-15.9),7.0(4.1-9.0); 0.6(-3.9-3.6),2.2(-1.3-4.4),6.8(5.0-8.0)

 血糖値(BMI<25 kg/m2): 1.0,1.5(1.0-2.2),2.0(1.2-3.4); (BMI≧25 kg/m2): 1.1(0.8-1.4),0.7(0.3-1.5),2.2(1.1-4.3)
  PAF(%): -,2.6(-0.2-4.5),2.5(0.9-3.5); 1.7(-5.4-7.1),-1.0(-4.6-0.7),1.5(0.3-2.1)

 LDL-C(BMI<25 kg/m2): 1.0,1.1(0.8-1.5),0.7(0.4-1.5); (BMI≧25 kg/m2)1.0(0.8-1.4),0.9(0.6-1.3),1.2(0.6-2.6)
  PAF(%): -,1.1(-4.7-5.4),-0.9(-4.5-0.8); 0.7(-5.9-5.5),-1.3(-6.2-1.9),0.4(-1.7-1.3)

 蛋白尿(BMI<25 kg/m2): 1.0,0.6(0.2-2.6),0.9(0.1-6.4); (BMI≧25 kg/m2)1.0(0.7-1.2),2.5(0.8-7.8),2.5(0.6-10.3)
  PAF(%): -,-0.3(-3.3-0.4),0.0(-2.2-0.3); -1.3(-9.9-5.2),0.5(-0.3-0.8),0.4(-0.4-0.6)

◇ 結論
CVDリスク因子をもつ人は,体重過多の有無にかかわらず,CVDの発症リスクが高いことが明らかになっているが,未治療のCVDリスク因子をもつ人に関する疫学的エビデンスは乏しい。そこで,本研究では,CVDリスク因子に関連するCVD発症リスクの検討と人口寄与割合(PAF)の算出を行った。その結果,BMIが25未満かつCVD発症の低リスク群の人に比して,BMIが25 kg/m2未満であっても25 kg/m2以上であっても,血圧が高いカテゴリーの人はCVD発症リスクが高かった。さらに,血糖値が高いカテゴリーの人でも同様の結果が得られた。一方,LDL-Cならびに蛋白尿の高リスクのカテゴリーではこのような関連性は認められなかった。CVD予防のためには,体重過多の有無にかかわらず,高血圧と糖尿病をもつ人に対する治療を優先することが有用であることが示唆された。


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