[2009年文献] 正常血圧者の心電図上左室肥大(Cornell積基準)は脳卒中発症リスクと関連する

心電図を用いた左室肥大の診断の際,Cornell積基準のほうがSokolow-Lyon基準より感度が高いとの報告があるが,欧米より心疾患の少ない日本人における検討は行われていない。そこで,日本人一般住民を対象とした多施設前向きコホート研究のデータを用いて,両基準による左室肥大に関連する因子,ならびに両基準による左室肥大と脳卒中および心筋梗塞発症リスクとの関連を比較した。平均127.5か月の追跡の結果,Cornell積基準による左室肥大とSokolow-Lyon基準による左室肥大はいずれも脳卒中発症リスクと有意に関連していたが,多変量調整後も有意な関連を示していたのはCornell積基準による左室肥大のみであった。血圧カテゴリーごとの解析では,正常血圧者でもCornell積基準による左室肥大と脳卒中発症リスクとの関連がみとめられた。

Ishikawa J, et al.; for the Jichi Medical School Cohort Study Investigators Group. Cornell Product Left Ventricular Hypertrophy in Electrocardiogram and the Risk of Stroke in a General Population. Hypertension. 2009; 53: 28-34.pubmed

コホート
JMSコホート研究の12コホート(岩泉,多古,大和,久瀬,高鷲,和良,佐久間,北淡,作木,大川,相島,赤池)。
1992年4月~1995年7月にベースライン健診を受けた12490人のうち,心電図データのない1285人,心電図所見を判定できなかった28人,完全左脚ブロックの20人,完全右脚ブロックの189人,心房細動の53人,血圧データのない160人を除いた10755人を平均127.5か月追跡(11万4270人・年)。

左室肥大の診断基準として,Cornell積基準(aVL誘導のR波+V3誘導のS波[女性では+6 mm]≧244 mV・ms),およびSokolow‐Lyonの基準(V1誘導のS波+V5誘導のR波≧3.8 mV)の2つを用いた。

高血圧の基準は血圧≧140 / 90 mmHgまたは降圧薬服用とし,前高血圧の基準は120~139 / 80~89 mmHgとした。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢55.6歳,男性37.8%,平均血圧130 / 78 mmHg,高血圧34.5%,前高血圧32.6%,脳卒中既往1.0%,心筋梗塞既往0.5%,降圧薬服用11.1%,禁煙者12.4%,喫煙者21.8%,飲酒者(20 g/日以上)27.6%,高脂血症35.3%,空腹時血糖異常2.5%,糖尿病3.6%。

Cornell積基準で診断された左室肥大(CP-LVH)の頻度は6.4%,Sokolow-Lyon基準で診断された左室肥大(SL-LVH)の頻度は9.5%であった。

CP-LVHの人,およびSL-LVHの人では,いずれも年齢が高く,高血圧の割合が高く,降圧薬服用率が高かった。

◇ 左室肥大に関連する因子
CP-LVH,およびSL-LVHのそれぞれに関連する因子を検討した結果,両者と有意な関連を示していたものは以下のとおりであった。
  収縮期血圧(+10 mmHgあたり): CP-LVHのオッズ比1.20(95%信頼区間1.15-1.25),SL-LVHのオッズ比1.26(1.21-1.30)
  降圧薬服用: 1.79(1.45-2.20),1.71(1.41-2.08)

CP-LVHにのみ有意に関連していたのは年齢(+10歳あたり,オッズ比1.16[1.07-1.27]),およびBMI高値(+1 kg/m2あたり,1.03[1.00-1.06])で,SL-LVHにのみ有意に関連していたのは性別(男性,3.00[2.47-3.65]),およびBMI低値(+1 kg/m2あたり,0.92[0.89-0.93])であった。

血圧のカテゴリーごとにCP-LVHおよびSL-LVHの両方と有意な関連を示していた因子をみると,正常血圧の人では性別(男性)およびBMI低値,前高血圧の人では収縮期血圧,高血圧の人では降圧薬服用および収縮期血圧であった。

◇ 左室肥大と脳卒中発症リスク
追跡期間中の脳卒中発症は391件(うち脳内出血91件,脳梗塞252件,くも膜下出血47件,病型不明1件)であった。

CP-LVHの人(vs. CP-LVHなし)およびSL-LVHの人(vs. SL-LVHなし)における脳卒中発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。CP-LVHとSL-LVHはいずれも調整を行わないモデルでは脳卒中リスクと有意に関連していたが(P<0.001),調整を行うと,有意な関連がみられたのはCP-LVHのみであった。
血圧カテゴリーごとにみると,CP-LVHは,正常血圧者においてのみ脳卒中の有意な予測因子となっていた。
年齢,性,BMI,脳卒中既往,心筋梗塞既往,飲酒,喫煙,収縮期血圧,降圧薬服用,高脂血症,糖尿病で調整)

・全対象者
  CP-LVH: 1.62(1.19-2.20),P=0.002
  SL-LVH: 1.29(0.98-1.71),P=0.07

・正常血圧者
  CP-LVH: 7.65(3.40-17.21),P<0.001
  SL-LVH: 0.89(0.30-2.60),P=0.82

・前高血圧者
  CP-LVH: 1.39(0.60-3.23),P=0.45
  SL-LVH: 1.66(0.86-3.17),P=0.13

・高血圧者
  CP-LVH: 1.38(0.97-1.98),P=0.076
  SL-LVH: 1.23(0.89-1.69),P=0.22

CP-LVHとSL-LVHの組み合わせごとの脳卒中発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,CP-LVHではSL-LVHの有無にかかわらず有意なリスク増加がみとめられた。

  CP-LVHなし+SL-LVHなし: 対照
  CP-LVHなし+SL-LVHあり: 1.18(0.86-1.62)
  CP-LVHあり+SL-LVHなし: 1.49(1.03-2.15)
  CP-LVHあり+SL-LVHあり: 2.37(1.44-3.91)

◇ 左室肥大と心筋梗塞発症リスク
追跡期間中の心筋梗塞の発症は79件であった。

CP-LVHの人(vs. CP-LVHなし)およびSL-LVHの人(vs. SL-LVHなし)における心筋梗塞発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおりで,いずれの基準を用いた場合も心筋梗塞との有意な関連はみとめられなかった。

・全対象者
  CP-LVH: 0.43(0.14-1.39),P=0.16
  SL-LVH: 1.53(0.86-2.75),P=0.15

・正常血圧者
  CP-LVH: 0.00,P=0.99
  SL-LVH: 2.96(0.47-18.56),P=0.25

・前高血圧者
  CP-LVH: 0.00,P=0.99
  SL-LVH: 1.52(0.34-6.77),P=0.59

・高血圧者
  CP-LVH: 0.53(0.16-1.73),P=0.29
  SL-LVH: 1.50(0.76-2.98s),P=0.24


◇ 結論
心電図を用いた左室肥大の診断の際,Cornell積基準のほうがSokolow-Lyon基準より感度が高いとの報告があるが,欧米より心疾患の少ない日本人における検討は行われていない。そこで,日本人一般住民を対象とした多施設前向きコホート研究のデータを用いて,両基準による左室肥大に関連する因子,ならびに両基準による左室肥大と脳卒中および心筋梗塞発症リスクとの関連を比較した。平均127.5か月の追跡の結果,Cornell積基準による左室肥大とSokolow-Lyon基準による左室肥大はいずれも脳卒中発症リスクと有意に関連していたが,多変量調整後も有意な関連を示していたのはCornell積基準による左室肥大のみであった。血圧カテゴリーごとの解析では,正常血圧者でもCornell積基準による左室肥大と脳卒中発症リスクとの関連がみとめられた。


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