[2015年文献] 心電図上QT延長は,左室肥大のない人でも脳卒中発症リスクと関連

QT時間の延長は,致死的不整脈などを介して心血管疾患死亡リスクを増加させることが報告されているが,高齢,高血圧,左室肥大といった心血管危険因子の集積のマーカーである可能性もある。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,QT時間と脳卒中発症リスクとの関連を,心電図上左室肥大の有無ごとに検討した。平均128.7か月間の追跡の結果,QT延長(QTcが男性≧440 ms,女性≧460 ms)は脳卒中発症リスクと有意に関連することが示され,層別解析では,心電図上左室肥大のない人でも有意な関連がみとめられた。

Ishikawa J, et al. Prolonged corrected QT interval is predictive of future stroke events even in subjects without ECG-diagnosed left ventricular hypertrophy. Hypertension. 2015; 65: 554-60.pubmed

コホート
JMSコホート研究の12コホート(岩泉,多古,大和,久瀬,高鷲,和良,佐久間,北淡,作木,大川,相島,赤池)。
1992年4月~1995年7月にベースライン健診を受けた12490人のうち,心電図データのない1285人,ペースメーカを植え込んでいる7人,心房細動の57人,高度房室ブロックの1人,完全房室ブロックの1人,右胸心の2人,完全左脚ブロックの20人,完全右脚ブロックの196人,QT時間測定不可能だった27人,心拍数>150拍/分の1人,データに不備のある5人,追跡データのない84人,Cornell積のデータのない7人,脳卒中既往のある104人,心筋梗塞の50人を除いた10643人を平均128.7か月間追跡(11万4142人・年)。

12誘導心電図の,おもにII誘導(難しい場合はIまたはIII誘導)におけるQT時間を測定し,Bazettの式による補正QT時間(QTc)が男性440 ms以上,女性460 ms以上の場合に「QT延長あり」とした。
心電図上左室肥大の診断基準は,Cornell積≧244 mV・msとした。
結 果
◇ 対象背景
平均年齢55.4歳,男性37.6%,BMI 23.1 kg/m2,ベースライン時喫煙率22.6%,1日20 g超の飲酒率31.9%,高血圧33.9%,降圧薬服用率11.1%,血圧129.4 / 77.5 mmHg,高脂血症35.6%,総コレステロール192.6 mg/dL,トリグリセリド117.3 mg/dL,糖尿病3.6%,Cornell積150.7 mV・ms,Sokolow-Lyon電位2.7 mV,Bazettの式による補正QT時間(QTc)388 ms,心拍数67.0拍/分。

QT延長がみられたのは,男性89人,女性73人。
性別を問わず,QT延長のある人はない人にくらべて年齢,高血圧の割合,収縮期血圧,拡張期血圧,Cornell積,Sokolow-Lyon電位,QTc,心拍数がいずれも有意に高かった。

追跡期間中の脳卒中発症は375件。
うち虚血性脳卒中が242件,脳内出血が85件,くも膜下出血が47件,病型不明が1件であった。

◇ QT延長と脳卒中発症率
脳卒中発症率は,QT延長ありの人で9.9%(1万人・年あたり99.6),なしの人で3.4%(1万人・年あたり31.5)であった。

QT延長ありの人における脳卒中発症のハザード比は,心電図上左室肥大(LVH)を含めた多変量調整後も,2.13(vs. QT延長なし95%信頼区間1.22-3.73,P=0.008)と有意に高かった。
年齢,性,BMI,喫煙,飲酒,収縮期血圧,降圧薬服用,糖尿病,高脂血症,心拍数,ならびにLVHで調整)

年齢層,性,BMI,高血圧・糖尿病・高脂血症・LVHの有無による層別化解析の結果,QT延長と脳卒中発症の多変量調整ハザード比との有意な関連がみとめられたのは,65歳以上,男性,BMI 25 kg/m2未満,高血圧の人,糖尿病のない人,高脂血症の人,およびLVHのない人であった。

脳卒中病型別にみると,虚血性脳卒中についてはQT延長との有意な関連がみとめられたが(ハザード比2.27,95%信頼区間1.16-4.44,P=0.017),脳内出血およびくも膜下出血とQT延長との関連はみられなかった。

◇ QT延長による脳卒中リスク予測能の改善
既知の心血管危険因子を含む脳卒中発症リスク予測モデルに,QT延長やLVHを加えた場合の予測能の改善について,純再分類改善度(net reclassification improvement: NRI)を指標に検討した結果は以下のとおり。
  QT延長(カテゴリー変数)の追加: 有意な改善はみられず
  QTc(連続変数)の追加: 有意に改善
  LVH(カテゴリー変数)の追加: 有意に改善
  LVH(カテゴリー変数)とQTc(連続変数)の追加: 有意に改善
また,既知の心血管危険因子ならびにLVHを含む脳卒中リスク予測モデルにQTc(連続変数)を追加すると,NRIが0.014(P<0.001)と有意な改善がみられた。

◇ QT延長とLVHの組合せと脳卒中リスク
QT延長とLVHの両方をあわせもつ人は非常に少なかったことから,対象者を「LVHあり(671人)」「LVHなし+QT正常(9841人)」「LVHなし+QT延長(131人)」の3つのカテゴリーに分けて対象背景や脳卒中発症リスクを比較した。
その結果,LVHなし+QT延長の人では,LVHなし+QT正常にくらべて年齢,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数,Cornell積が有意に高かった。

脳卒中発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)を比較した結果は以下のとおりで,全脳卒中,虚血性脳卒中および脳内出血について,LVHありの人のハザード比より,LVHなし+QT延長の人のハザード比のほうが大きかった。

 [全脳卒中]LVHなし+QT正常: 1.00(対照),LVHなし+QT延長: 2.70(1.48-4.94,P<0.001),LVHあり: 1.83(1.31-2.57,P<0.001)
 [脳内出血]1.00,3.86(1.16-12.82,P=0.028),1.85(0.90-3.82)
 [虚血性脳卒中]1.00,2.53(1.20-5.35,P=0.015),1.65(1.07-2.56,P=0.024)
 [くも膜下出血]1.00,1.90(0.25-14.30),2.38(1.03-5.53,P=0.043)


◇ 結論
QT時間の延長は,致死的不整脈などを介して心血管疾患死亡リスクを増加させることが報告されているが,高齢,高血圧,左室肥大といった心血管危険因子の集積のマーカーである可能性もある。そこで,日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,QT時間と脳卒中発症リスクとの関連を,心電図上左室肥大の有無ごとに検討した。平均128.7か月間の追跡の結果,QT延長(QTcが男性≧440 ms,女性≧460 ms)は脳卒中発症リスクと有意に関連することが示され,層別解析では,心電図上左室肥大のない人でも有意な関連がみとめられた。


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