[2018年文献] 頚動脈内膜-中膜壁厚の進展は心血管疾患リスクと有意な正の関連を示す

頚動脈内膜-中膜壁厚(IMT)は脳卒中や冠動脈疾患の非侵襲的なマーカーであり,心血管リスク因子およびアテローム性動脈硬化症のサロゲートマーカーでもある。頚動脈IMTを古典的なリスク因子に加えることで心血管疾患(CVD)の予測能が高まれば,一次予防に有用である。しかし,これまでの研究では,用いられたIMT値や患者背景の違いから一貫した結果は得られていない。また,ほとんどが欧米の研究であり,IMTとCVDとの関係を前向きに検討した研究もなかった。そこで,日本の都市部の一般住民を対象に,さまざまな頚動脈IMT値とCVD(脳卒中,冠動脈疾患)発症リスクとの関連,頚動脈プラークの進展とCVD発症リスクとの関連を検討した。その結果,ベースライン時の総頚動脈(CCA)の平均IMT(平均CIMT),CCAおよび頚動脈全体の最大IMT(最大CIMT,最大IMT)高値はCVD発症のリスク因子であり,なかでも最大CIMTは古典的リスク因子に追加した場合にリスク予測能を改善することが示された。さらに,頚動脈プラークの進展はCVDリスクの増加と有意に関連することも明らかとなった。

Kokubo Y, et al. Impact of Intima-Media Thickness Progression in the Common Carotid Arteries on the Risk of Incident Cardiovascular Disease in the Suita Study. J Am Heart Assoc. 2018; 7: e007720.pubmed

コホート
1994年4月~2001年8月に国立循環器病研究センターで健診を受けた吹田市の住民6590人から,心血管疾患(CVD)の既往/現病を有する352人,頚動脈超音波検査を受けていない1008人,追跡不能の506人を除外した4724人(うち女性2566人)を解析対象とした。CVD発症の追跡期間は平均12.7年(2013年末まで)。

(1)ベースラインの頚動脈IMTとCVD発症の関係
1994年4月~2001年8月(ベースライン期間)に頚動脈超音波検査を実施した4724人を解析対象とした。総頚動脈(CCA)の平均IMT(平均CIMT),CCAの最大IMT(最大CIMT),全検査領域の最大IMT(最大IMT)を測定し,それぞれのベースライン値とCVD発症の関連を検討した。

(2)プラークの進展とCVD発症の関係
1998年4月~2005年3月(追跡期間頚動脈超音波検査期間[以下,追跡期間期間])に2年ごとに超音波検査を実施(平均2.1回)。ベースラインにプラークを認めた人(最大CIMT>1.1 mm:1156人,最大IMT>1.7 mm:1088人),追跡不能(それぞれ804人,822人),追跡期間期間中にCVDを発症した人(42人,46人)を除外し,最大CIMTコホート2722人,最大IMTコホート2768人を解析対象とした。追跡期間期間中のプラークの進展(最大CIMT>1.1 mm,最大IMT>1.7 mmの検出)とその後のCVD発症の関連を検討した。

・古典的リスク因子に頚動脈IMTを追加したときのCVD予測能の変化を,C統計量,net reclassification index(NRI),integrated discrimination index(IDI)の3指標を用いて評価した。
結 果
追跡期間中のCVD発症は375人(脳卒中221人,冠動脈疾患154人)。追跡期間期間中のプラーク進展は,最大CIMT>1.1 mmが193人,最大IMT>1.7 mmが153人,その後のCVD発症は脳卒中69人(最大CIMT>1.1 mm),79人(最大IMT>1.7 mm),冠動脈疾患43人(最大CIMT>1.1 mm),38人(最大IMT>1.7 mm)であった。

◇対象背景
ベースラインの対象者の背景は以下のとおり。
 
 追跡期間:[CVD非発症例]13.1年,[追跡期間中のCVD発症例]8.1年
 年齢(歳):59.0,66.6
 男性:44.5%,59.5%
 BMI(kg/m2): 22.6,23.1
 収縮期血圧(mmHg): 1206.3,137.4
 拡張期血圧(mmHg): 78.2,81.8
 総コレステロール(mg/dL): 209.1,215.9
 HDL-C(mg/dL):60.4,56.7
 推算糸球体濾過量(mL/min/1.73m2):80.9,75.5
 降圧薬服用: 14.6%,27.2%
 糖尿病既往: 4.0%,10.1%
 現喫煙:23.2%,29.1%
 過度の飲酒(エタノール換算で≧48g/日):8.2%,9.3%
 頚動脈IMT値
  平均CIMT(mm):0.86,0.96
  最大CIMT(mm):1.04,1.25
  最大IMT(mm):1.41,1.84
  最大CIMT>1.1 mm:19.6%,44.5%

◇ 頚動脈IMT値とCVDの関連
(1)ベースラインの頚動脈IMTとCVD発症の関係
各IMT値の四分位数([Q1]~[Q4])で分けたCVD発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は,以下のとおり。平均CIMT>0.95mm,最大CIMT>1.1mm,最大IMT>1.7mmはいずれもCVDリスクの有意な増加と関連した(年齢,性別,BMI,血圧[前高血圧/高血圧],総コレステロール,HDL-C,GFR,降圧薬/脂質異常症治療薬服用,糖尿病,耐糖能異常,喫煙,過度の飲酒で調整)。

平均CIMT(mm): [Q1]≦0.75,[Q2]0.76-0.85,[Q3]0.86-0.95,[Q4]>0.95
 CVD: 1,1.07(0.67–1.72),1.37(0.86–2.18),1.93(1.18–3.13)
  脳卒中: 1,1.06(0.56–2.00),1.47(0.79–2.74),1.88(0.98–3.61)
  冠動脈疾患: 1,1.05(0.52–2.15),1.19(0.59–2.42),2.04(0.98–4.25)

最大CIMT(mm): [Q1]≦0.85,[Q2]0.86–0.95,[Q3]0.96–1.10,[Q4]>1.10
 CVD: 1,1.42(0.83–2.44),1.68(1.01–2.80),2.44(1.44–4.12)
  脳卒中: 1,1.08(0.55–2.12),1.33(0.71–2.50),1.91(1.00–3.64)
  冠動脈疾患: 1,2.21(0.88–5.53),2.45(1.01–5.97),3.78(1.53–9.33)

最大IMT(mm): [Q1]≦0.9,[Q2]0.91–1.20,[Q3]1.21–1.70,[Q4]>1.70
 CVD: 1,1.25(0.79–1.96),1.57(1.01–2.45),2.24(1.44–3.50)
  脳卒中: 1,1.10(0.64–1.90),1.21(0.71–2.07),1.57(0.91–2.70)
  冠動脈疾患: 1,1.59(0.70–3.59),2.51 (1.15–5.49),4.22 (1.92–9.23)

また,各IMT値のQ4 vs. Q1-Q3の比較,および1 SDごとの解析では,すべてIMT値とCVD,脳卒中,冠動脈疾患リスクとの有意な関連が示された。

(2)プラークの進展とCVD発症の関係
追跡期間中のプラークの進展の有無(最大CIMT>1.1 mm vs. ≦1.1 mm,最大IMT>1.7 mm vs. ≦1.7 mm)によるCVD発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は,以下のとおり。

 CVD:[最大CIMT]1.95(1.14-3.32),P=0.014;[最大IMT]1.08(0.53-2.22)
  脳卒中:2.01(1.01-3.99),P=0.047;NA
  冠動脈疾患:1.80(0.74-4.35);NA
 (サンプルサイズが小さいため算出不可)

・古典的リスク因子に頚動脈IMTを追加したときのCVD予測能
古典的リスク因子を用いた予測モデルに平均CIMT>0.95 mm,最大CIMT>1.1 mm,最大IMT>1.7 mmを追加するとCVD発症リスクのC統計量は有意に増加し,最大CIMT>1.1 mmと最大IMT>1.7 mmを追加すると,脳卒中および冠動脈疾患発症リスクのC統計量は有意に増加した。また,最大CIMT>1.1mmと最大IMT>1.7mmの追加によりNRI,IDIは有意に改善した。

◇ 結論
頚動脈内膜-中膜壁厚(IMT)は脳卒中や冠動脈疾患の非侵襲的なマーカーであり,心血管リスク因子およびアテローム性動脈硬化症のサロゲートマーカーでもある。頚動脈IMTを古典的なリスク因子に加えることで心血管疾患(CVD)の予測能が高まれば,一次予防に有用である。しかし,これまでの研究では,用いられたIMT値や患者背景の違いから一貫した結果は得られていない。また,ほとんどが欧米の研究であり,IMTとCVDとの関係を前向きに検討した研究もなかった。そこで,日本の都市部の一般住民を対象に,さまざまな頚動脈IMT値とCVD(脳卒中,冠動脈疾患)発症リスクとの関連,頚動脈プラークの進展とCVD発症リスクとの関連を検討した。その結果,ベースライン時の総頚動脈(CCA)の平均IMT(平均CIMT),CCAおよび頚動脈全体の最大IMT(最大CIMT,最大IMT)高値はCVD発症のリスク因子であり,なかでも最大CIMTは古典的リスク因子に追加した場合にリスク予測能を改善することが示された。さらに,頚動脈プラークの進展はCVDリスクの増加と有意に関連することも明らかとなった。


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