[2009年文献] non-HDL-Cと LDL-Cの心筋梗塞リスク予測能は同等

都市部の日本人一般住民を対象とした11.9年間のコホート研究において,LDL-C値およびnon-HDL-C値と心筋梗塞(MI),脳卒中発症リスクとの関連を検討した。その結果,LDL-C値,non-HDL-C値はいずれもMI発症リスクとの有意な関連を示したが,脳卒中との関連はみとめられなかった。LDL-Cとnon-HDL-CのMIリスク予測能は同等であった。non-HDL-Cは空腹時以外でも測定でき,費用も安価であることから都市部一般住民における冠動脈疾患一次予防のためのマーカーとして,LDL-Cよりもnon-HDL-Cを用いるほうが望ましいと考えられた。

Okamura T, et al. Low-density lipoprotein cholesterol and non-high-density lipoprotein cholesterol and the incidence of cardiovascular disease in an urban Japanese cohort study: The Suita study. Atherosclerosis. 2009; 203: 587-92.pubmed

コホート
吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年3月に国立循環器病センターで定期健診を受診した30~79歳の6,485人のうち,冠動脈疾患/脳卒中既往のある208人,期間外に健診を受診した79人,75歳以上の343人,空腹時の採血ではなかった153人,脂質低下薬を使用していた106人,トリグリセリド≧400 mg/dLの98人,ベースラインデータ不明/追跡不能の804人を除いた4,694人を11.9年間追跡。
男性は2,169人(観察は25,420人・年),女性は2,525人(観察は30,776人・年)。

血清LDL-C値およびnon-HDL-C値により,全体をそれぞれ以下のように五分位に分けて解析した。
・ LDL-C値(mg/dL)
 男性: Q1: <98.22(447人),Q2: 98.22~117.17(435人),Q3: 117.56~132.64(427人),Q4: 133.02~150.81(438人),Q5: ≧151.20(422人)
 女性: Q1+Q2: >124.13(1,022人),Q3+Q4: 124.52~163.19(1,011人),Q5: ≧163.57(492人)

・ non-HDL-C値(mg/dL)
 男性: Q1: <122.97(445人),Q2: 122.97~142.31(450人),Q3: 142.70~159.32(426人),Q4: 159.71~179.04(428人),Q5: ≧179.43(420人)
 女性: Q1+Q2: >143.08(1,043人),Q3+Q4: 143.47~188.32(1,010人),Q5: ≧188.71(472人)
結 果
◇ 対象背景
LDL-C値の平均は男性124.9 mg/dL,女性134.8 mg/dLで,non-HDL-C値はそれぞれ151.1 mg/dL,155.2 mg/dLだった。

LDL-C値のカテゴリーごとにベースラインデータを比較すると,LDL-C値が高いほど年齢,non-HDL-C,BMI,高血圧の割合(女性のみ),糖尿病の割合(女性のみ)が有意に高く,HDL-C,飲酒率は有意に低くなっていた。
男女ともに,LDL-C値がもっとも低いQ1で喫煙率がもっとも高くなっていた。

心筋梗塞(MI)を発症したのは80人(確診41人,MIの可能性39人),脳卒中を発症したのは139人(確診が102人,脳卒中の可能性が37人)(うち脳内出血23人,脳梗塞85人,その他の病型31人)。

◇ LDL-Cと心血管疾患リスク
・ MI
男女ともに,LDL-C値がもっとも高いQ5群でMI発症リスクがもっとも高くなっていたが,女性では有意な差はみとめられなかった(男性: Q5のハザード比[HR] 3.73 vs. Q1,95%信頼区間1.25-11.1,女性: HR 1.78,0.66-4.77)。
男女をあわせた解析では,LDL-C値はMI発症リスクと有意な関連を示した(P=0.02)。

・ 脳梗塞
男女ともに,LDL-C値と脳梗塞発症リスクとの有意な関連はみられなかった。
脳内出血,脳卒中のその他の病型,および全脳卒中においても,LDL-C値との有意な関連はみられなかった。

◇ non-HDL-Cと心血管疾患リスク
・ MI
男女ともに,non-HDL-Cがもっとも高いQ5でMI発症リスクがもっとも高くなっていたが,女性では有意な差はみとめられなかった(男性: Q5のHR 2.61 vs. Q1,95%信頼区間1.00-6.8,女性: HR 1.77,0.50-6.25)。
男女あわせた解析では,non-HDL-C値はMI発症リスクと有意な関連を示した(P=0.02)。

・ 脳梗塞
男女ともにnon-HDL-C値と脳梗塞発症リスクとの有意な関連はみられなかった。
脳卒中のその他の病型,および全脳卒中においても,non-HDL-C値との関連はみられなかった。

◇ LDL-Cとnon-HDL-Cのリスク予測能の比較
LDL-Cとnon-HDL-Cのリスク予測能を比較するため,LDL-Cまたはnon-HDLのみを変数として含めたMIリスク予測モデルと,LDL-Cまたはnon-HDL-Cに加えて他の変数も加えたMIリスク予測モデルとの差を検討した。その結果,χ2値はLDL-Cで5.71(P=0.02),non-HDL-Cで5.49(P=0.02)とほぼ同様であった。
また,LDL-Cとnon-HDL-CのMIリスク予測能を受信者動作特性(receiver operating characteristic: ROC)曲線下面積(area under the curve: AUC)により検討した結果,いずれも0.82となった。

◇ LDL-C/HDL-C比,non-HDL-C/HDL-C比の検討
LDL-C/HDL-C比,およびnon-HDL-C/HDL-C比とMIおよび脳卒中との関連を検討した結果,いずれもMI発症リスクとの有意な関連を示していたが,脳卒中発症リスクとの関連はみられなかった。
LDL-C/HDL-C比,およびnon-HDL-C/HDL-C比のMIリスク予測能を比較すると,χ2値はLDL-C/HDL-C比で7.34(P=0.01),non-HDL-C/HDL-C比で7.06(P=0.01)であり,AUCは同等であった。

◇ 結論
都市部の日本人一般住民を対象とした11.9年間のコホート研究において,LDL-C値およびnon-HDL-C値と心筋梗塞(MI),脳卒中発症リスクとの関連を検討した。その結果,LDL-C値,non-HDL-C値はいずれもMI発症リスクとの有意な関連を示したが,脳卒中との関連はみとめられなかった。LDL-Cとnon-HDL-CのMIリスク予測能は同等であった。non-HDL-Cは空腹時以外でも測定でき,費用も安価であることから都市部一般住民における冠動脈疾患一次予防のためのマーカーとして,LDL-Cよりもnon-HDL-Cを用いるほうが望ましいと考えられた。


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