[2010年文献] トリグリセリド高値+non-HDL-C高値で心筋梗塞リスクが増加

日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,トリグリセリド(TG)値とnon-HDL-C値の組み合わせと,心筋梗塞および脳梗塞発症リスクとの関連を検討したはじめての報告。その結果,心筋梗塞発症リスクは,TG高値+non-HDL-C高値のカテゴリーで有意に高くなっていた。一方,脳梗塞発症リスクは,TGのみ高値(TG高値+non-HDL-C低値)のカテゴリーで有意に高くなっていた。以上の結果より,心血管疾患予防の観点からはTG,non-HDL-Cのいずれも重要なターゲットであり,プライマリケアにおける管理のために,エビデンスに基づいたガイドラインが必要と考えられた。

Okamura T, et al. Triglycerides and non-high-density lipoprotein cholesterol and the incidence of cardiovascular disease in an urban Japanese cohort: The Suita study. Atherosclerosis. 2010; 209: 290-4. pubmed

コホート
吹田市民から無作為に抽出され,1989年9月~1994年3月に国立循環器病センター(2010年春,国立循環器病研究センターに改組)で定期健診を受診した30~79歳の6,485人のうち,冠動脈疾患/脳卒中既往のある210人,ベースラインの健診を受診していない79人,空腹時の採血ではなかった166人,脂質低下薬服用中の125人,データに不備があった109人,追跡不能となった698人を除いた5,098人を平均11.7年間追跡(観察は59,774人・年)。
男性は2,404人(観察は27,461人・年),女性は2,694人(観察は32,313人・年)

血清トリグリセリド(TG)値*(高値: ≧150 mg/dL,低値: <150 mg/dL)およびnon-HDL-C値(高値: ≧190 mg/dL,低値: <190 mg/dL)の組み合わせにより,全体を以下4つのカテゴリーに分けて解析した。(*NCEP-ATP IIIおよびJapan Atherosclerosis Societyによる分類)
   TG低値+non-HDL-C低値: 男性1,532人,女性1,956人
   TG低値+non-HDL-C高値: 男性117人,女性290人
   TG高値+non-HDL-C低値: 男性550人,女性256人
   TG高値+non-HDL-C高値: 男性205人,女性192人
結 果
◇ 対象背景
トリグリセリドの中央値は,男性114.17 mg/dL,女性86.73 mg/dL。
non-HDL-Cの平均値は,それぞれ151.97 mg/dL,155.84 mg/dL。

TGおよびnon-HDL-Cの値ごとに対象背景を比較すると,BMI,腹囲,高血圧および糖尿病の割合は,男女ともにTG高値またはnon-HDL-C高値のカテゴリーでもっとも高く,TG低値またはnon-HDL-C低値のカテゴリーでもっとも低くなっていた。

追跡期間中の心筋梗塞(MI)(初発)は113人,脳卒中(初発)は180人(うち脳内出血28人,脳梗塞116人,くも膜下出血21人,分類不能15人)であった。

◇ TG,non-HDL-CとMIリスク
TGとnon-HDL-Cの組み合わせによる各カテゴリーのMI発症の多変量調整ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
性別を問わず,TG高値+non-HDL-C高値の患者の心筋梗塞発症リスクは,TG低値+non-HDL-C低値の患者にくらべて著しく高くなっていた。

TG低値+non-HDL-C低値(対照)
  男性: 1,女性: 1,全体: 1
TG低値+non-HDL-C高値
  男性: 1.48(0.62-3.49),女性: 1.63(0.58-4.26),全体: 1.42(0.74-2.74)
TG高値+non-HDL-C低値
  男性: 0.63(0.32-1.26),女性: 1.99(0.71-5.57),全体: 0.86(0.49-1.53)
TG高値+non-HDL-C高値
  男性: 2.05(1.08-3.90),女性: 3.79(1.58-9.14),全体: 2.55(1.53-4.24)

◇ TG,non-HDL-Cと脳梗塞リスク
TGとnon-HDL-Cの組み合わせによる各カテゴリーの脳梗塞発症の多変量調整ハザード比(95 %信頼区間)は以下のとおり。
TGのみ高値(TG高値+non-HDL-C低値)のカテゴリーにおけるリスクが有意に高くなっていたが,TG高値+non-HDL-C高値のカテゴリーでは有意なリスク上昇はみられなかった。

TG低値+non-HDL-C低値(対照)
  男性: 1,女性: 1,全体: 1
TG低値+non-HDL-C高値
  男性: 0.54(0.13-2.25),女性: 1.52(0.66-3.50),全体: 1.12(0.57-2.20)
TG高値+non-HDL-C低値
  男性: 1.45(0.84-2.50),女性: 2.09(0.92-4.73),全体: 1.63(1.03-2.56)
TG高値+non-HDL-C高値
  男性: 0.92(0.35-2.38),女性: 0.69(0.20-2.44),全体: 0.79(0.37-1.69)

◇ TG,non-HDL-Cと全脳卒中,脳内出血,くも膜下出血リスク
全脳卒中,脳内出血,およびくも膜下出血の発症リスクについて,いずれもTGおよびnon-HDL-Cの組み合わせによるカテゴリー間で有意な差はみとめられなかった。


◇結論
日本人一般住民を対象とした前向きコホート研究において,トリグリセリド(TG)値とnon-HDL-C値の組み合わせと,心筋梗塞および脳梗塞発症リスクとの関連を検討したはじめての報告。その結果,心筋梗塞発症リスクは,TG高値+non-HDL-C高値のカテゴリーで有意に高くなっていた。一方,脳梗塞発症リスクは,TGのみ高値(TG高値+non-HDL-C低値)のカテゴリーで有意に高くなっていた。以上の結果より,心血管疾患予防の観点からはTG,non-HDL-Cのいずれも重要なターゲットであり,プライマリケアにおける管理のために,エビデンスに基づいたガイドラインが必要と考えられた。


▲このページの一番上へ

--- epi-c.jp 収載疫学 ---
Topics
【epi-c研究一覧】 CIRCS | EPOCH-JAPAN | Funagata Diabetes Study(舟形スタディ) | HIPOP-OHP | Hisayama Study(久山町研究)| Iwate KENCO Study(岩手県北地域コホート研究) | JACC | JALS | JMSコホート研究 | JPHC | NIPPON DATA | Ohasama Study(大迫研究) | Ohsaki Study(大崎研究) | Osaka Health Survey(大阪ヘルスサーベイ) | 大阪職域コホート研究 | SESSA | Shibata Study(新発田研究) | 滋賀国保コホート研究 | Suita Study(吹田研究) | Takahata Study(高畠研究) | Tanno Sobetsu Study(端野・壮瞥町研究) | Toyama Study(富山スタディ) | HAAS(ホノルルアジア老化研究) | Honolulu Heart Program(ホノルル心臓調査) | Japanese-Brazilian Diabetes Study(日系ブラジル人糖尿病研究) | NI-HON-SAN Study
【登録研究】 OACIS | OKIDS | 高島循環器疾患発症登録研究
【国際共同研究】 APCSC | ERA JUMP | INTERSALT | INTERMAP | INTERLIPID | REACH Registry | Seven Countries Study
【循環器臨床疫学のパイオニア】 Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究),動画編
【最新の疫学】 Worldwide文献ニュース | 学会報告
………………………………………………………………………………………
copyright Life Science Publishing Co., Ltd. All Rights Reserved.